小学生からの幼馴染みと絶縁したばかりだという近藤正樹さん(仮名・20代)に、その顛末を聞いた。
「ギャンブルを覚えた」のが運命の分かれ道に?
「Bとは、北関東にある実家が隣同士で、小学校から高校まで、ずっと同じ学校に通っていました。さすがに大学からは別々の道となりましたが、就職のタイミングで揃って上京。社会人になってからも仲良くしていたんです。自分もBも恋人はおらず、休日にはよく遊んでいました。なにせガキの頃からお互いを知っていますから、なんでも率直に話せる大親友でした。
ただ一点、Bは大学生の間にギャンブルを覚えてしまってたんです。といっても、単なる大学デビューあるあるだと考え、なにも気にしなかった。今思えば、そこが運命の分岐点だったのかもしれませんね」
給料の大半をギャンブルに使うように……
たしかに、親友であったとて、法や倫理に触れない範囲内であれば、お金の遣い方に口を出すのは野暮であろう。「はじめは競馬やパチンコなどのオーソドックスなギャンブルを楽しんでいました。自分はハマることはなかったのですが、Bに誘われて競馬場に行って馬券を買うことは何度かありましたね。
でも、お金は減るばかりだし、そもそもおもしろいと思えなくって(笑)。それでギャンブル関連の遊びには、誘われても断るようになっていきました。
そうこうしていると、Bは会社の先輩とよく遊ぶようになったんです。ギャンブル仲間として打ち解けたようでした。
すっかり影響されたBは、いつしか給料の大半をギャンブルに使うようになり、僕が連絡しても無視をするようになってしまいました。けれど僕も僕で、その頃には仲の良い会社の同僚ができており、あまり気に留めなかったんです」
久しぶりに連絡が。どうも様子がおかしい?
ライフステージの変化によって、親しい人は移り変わっていく。悲しいかな、それでも現実なんてそんなものであろう。事態が動いたのは、音信不通になってから1年後のこと。近藤さんの連絡を無視し続けていたBさんから、急に「久しぶりに会いたい」と連絡があったのだとか。
「Bとは1年どころか、1カ月遊ばないことすらそれまでは一度もなかったんです。なので、久しぶりに会うことに変な感じはしつつも、うれしさのほうが大きくて。でも、いざ落ち合ったBは少し痩せていて、元気がないように見えました。まずは近況報告をしあってから、その後は今まで通りにカラオケしたりゲームをしたりできたらと僕は思っていたのですが……。
Bは待ち合わせたカフェをすぐにでも出たいような、落ち着かない素振りを見せていました。理由を聞くと、一緒に行きたいところがあるというのです。一体どんなところなんだと聞いても、なしのつぶて。着いてから説明するの一本槍で、まったく詳細は明かしてくれませんでした。それでも大親友のBの頼みですから、ひとまずは着いていくことにしたんです」
歌舞伎町の雑居ビルの前で立ち止まり……
聞いている第三者としては怪しさしか感じない展開であるが、「信頼の親友」バイアスが大きいのは、考えようによっては美しきことかもしれない。「連れてこられたのは新宿、というか歌舞伎町でした。昼間の歌舞伎町なんて初めてだなあなんて思っている僕を構わず、Bは脇目もふらずに路地をずんずん歩いていきました。見失わないように後を追っていると、歌舞伎町の中でも一段と怪しげな雑居ビルの前で立ち止まったんです。
そこでBは、『5万円でいいから貸してほしい』と言ってきて……。もうこの時点で嫌な予感は確信にほとんど変わっていましたが、最後の望みをかけてBに理由を聞きました。『今日は絶対にここで勝てるんだよ。中に行きつけのカジノ店があるんだけど、今日はめったとない開放日でさ。でも軍資金が今なくて……。
絶対に勝てるから、勝ったお金ですぐに今日中に返すから、5万だけ貸してほしいんだ。ていうか、今日なら近藤もおもしろさがわかるはずだから、一緒にやろうよ』とのことで……まあ、案の定の結果ですよね」
路上で土下座し、「金を貸してほしい」と懇願
そんな誘いに一切乗らず、きっぱり断ろうとする近藤さんに、引き下がるBさん。そこで取った行動は、かつての親友の見る影もない情けないものだった。「ギャンブル云々以前に、どう考えても違法カジノ店じゃないですか。明らかな犯罪だからやめなよとBを諭したのですが、全くこちらの声は届かなくて。
しばらく押し問答を続けていたのですが、ついに路上で土下座をしながら金を貸してほしいと訴えてきたんです……。その惨めったらしい姿に呆れ果て、Bを放置したまま帰っちゃいました」
以後、今度は近藤さんがBさんの連絡をすべて無視するようになった。しかし、かつての親友であり、ただちに情がすっかりなくなるわけではない。
人生を立て直させたい。あくまで遠巻きに
このまま放って、違法カジノで完全に首が回らなくなってしまうより、警察やBさんの両親に報告し、会社をクビになってでも保護されるほうが予後が良いのだろうかと、悩んでいるそうだ。「僕に土下座してまでお金を借りようとしたわけで、それってもう完全なるギャンブル依存症患者ですよね。とはいえ、実際にBが違法カジノ店に入店したところを見たわけではないし、その店の名前やフロアまではわからない。だから警察に通報しようにも決め手に欠くし、そもそもあの日以降どうしているかもわからないしで、どうすべきなのかと悩んでいます。
大切な幼馴染みでしたから、ギャンブルから足を洗えたらいいな、人生を立て直せたらいいなとは思いますが、あくまで遠巻きにであって、もう金輪際関わりたくはないですし。連絡先をすべてブロックしただけでなく、家に万が一押しかけられても嫌だからと引っ越しまでしたほどですからね……(苦笑)」
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適法に、“娯楽”として楽しめる範囲で切り上げられてこそ、大人の嗜みたりえるのがギャンブルだ。
依存してしまっては、お金も、社会的立場も、人間関係もすべて失ってしまうのが怖いところ。いや、ともすると命すら失いかねないものであろう。くれぐれも、掛けすぎにはご注意を!
<TEXT/高橋マナブ>
【高橋マナブ】
1979年生まれ。雑誌編集者→IT企業でニュースサイトの立ち上げ→民放テレビ局で番組制作と様々なエンタメ業界を渡り歩く。その後、フリーとなりエンタメ関連の記事執筆、映像編集など行っている