ここ数年、ニュースなどで頻繁に取り上げられている「あおり運転」。20年6月には改正道路交通法が施行され、以前よりも厳しく罰せられるようになったが、激減しているとは言い難い。
自動車損害保険を扱うチューリッヒ保険が8月に発表した『2023年あおり運転実態調査』によると、あおり運転をされたことがあるドライバーは53.5%。最初に調査を行った18年(70.4%)に比べれば改善しているが、前回調査の22年(51.3%)よりは悪化している。つまり、半数弱の方が被害経験を持つわけだ。あおり運転の被害者は後を絶たない。
普段はあまり運転をしない週末ドライバーにとって、あおり運転は対応が難しい。
週末は親孝行として代わりに運転
都内で会社員をしている田中啓二さん(32歳・仮名)は、「親は高齢出産だったので、両親ともに70代半ば。老人の危険運転のニュースを見て、それまで持っていなかった運転免許を取得したんです」と語る。田中さんは、社会人になってからも、車がない生活に不自由は感じていなかった。しかし田中さんの父親が運転している車で出かけた時に、大型駐車場で父がアクセルとブレーキを踏み間違えたという。
「なんで目の前が壁なのに突進しているのだろうと焦りました。
田中さんは、関東近県にある実家に帰った時に、近所のショッピングモールや病院に行く際は、親の代わりに運転してあげている。
「大学入学と同時に実家を出ていたので、それまではほとんど地元には帰っていなかった。父が体調を崩してからは、定期的に週末は帰っているのですが、運転中は親孝行できているなって実感できるんです」
週末ドライバーゆえに…
田中さんの地元は関東圏ではあるが、車が無いと買い出しなどもしづらい。そのため若者から高齢者まで車の利用者が多い。だが、運転が荒い人も目立つという。「僕は週末しか乗らないので、運転は得意なわけではないんです。たまにしか乗らない道なので、交差点でウィンカーを出した後も、止まればよいのか、行った方がよいのかとタイミングを迷ってしまうことも……。そうすると、後ろの車からクラクションを鳴らされたりして慌ててしまうんです。ゆっくり運転を心がけていると、後続車がいらいらしているのもわかるんですよね……」
田中さんは親戚が経営している会社の営業車に両親を乗せていた。両親も乗る機会が減っていたため自家用車を処分し、乗るときだけ親戚の車を借りていた。
「両親を乗せて大型ショッピングセンターに向かう時に、片道一本車線の道で、僕が運転している車を後方から追い抜こうとしている車がいたんです」
強面の男が運転席から降りてきて…

「後ろからきた車を気にせずに運転していました。
事態を飲み込めなかった田中さん。どうすればいいのかわからず、そのまま無視して走行を続けた。すると、後方の車は田中さんの車を追い抜き、幅寄せをしてきた。そのため、田中さんは強引に停車させられた。
「あおり運転をしてきた車から、強面のスーツ姿の男性が出てきたんです。ものすごい剣幕で『危ないじゃないか!』と怒られたのですが、僕は『免許を取り立てでわからなかった』と言って、なんとかその場は収まったのですが……」
会社に脅しの電話
後日、車に書いてあった社名を相手が覚えていたために、会社まで電話が掛かってきたという。運転初心者だった田中さんにとっては、まさに青天の霹靂ともいえる出来事だ。どのように対処したのだろうか。
「“脅しの電話”が掛かってきたのを知った親戚の叔父が『俺のほうがやつらより強いから心配するな』って言ってきたんです。僕は怖くてビビっていたのですが、父に聞いたら叔父はかなりやんちゃだったらしくて…」
叔父の対処がよかったのか、大事にならずに済んだ。
今回の件は、相手の主張としては、むしろ“こちらの運転が悪い(危ない)”ということなのだろうが、だからと言って、後ろから煽ったり、強引に幅寄せしてもいいわけでない。
どちらにも言い分はあるのだろうが、あおり運転などをされた時に自分の身を守るためには、ドライブレコーダーを取り付けたり、すぐに警察に連絡するなどしたい。
<取材・文/池守りぜね>
【池守りぜね】
出版社やWeb媒体の編集者を経て、フリーライターに。趣味はプロレス観戦。ライブハウスに通い続けて四半世紀以上。家族で音楽フェスに行くのが幸せ。X(旧Twitter):@rizeneration