あおり運転で最も多い行為は?
ひとことにあおり運転とはいってもさまざまな行為が該当します。例えば、対向車のドライバーを眩惑させるような過度なハイビーム、不必要なクラクション、周囲に危険を与える急ブレーキ・急加速、逆走などがあります。その中で最も多いといわれているのが、前方に急接近し車間距離を詰め蛇行する行為。これは車間距離不保持といわれ、たとえあおるつもりがなかったとしても一般道路では5万円以下の罰金(高速道路では3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金)となります。チューリッヒ保険会社が実施した「2024年あおり運転実態調査」でも、あおり運転をされたことがあると答えたドライバーは72.5%で2023年の調査から19%も増加しています。どのようなあおり運転に遭遇したのかという問いには「激しく接近し、もっと速く走るように挑発してきた(76.5%)」が最多となっていました。
では、車間距離不保持にならないための適切な車間距離とはどれくらいなのでしょうか。走行中の速度から15を引いた数字が適切な車間距離とされています。時速60km/hで走行していたら、車間距離は45mとなります。また高速道路では速度と同じだけ(時速100km/hなら100m)車間距離をあけなくてはいけないのです。もちろん状況によってはこの数字よりも距離を詰めてしまうことは多々あると思いますが、安全性を確保するためには、かなり長めに車間距離をあけておくことが事故・トラブル防止には欠かせないのです。
あおり運転している人は無自覚
加害者の立場で考えた場合、なぜあおり運転をしてしまうのでしょうか。実際にあおり運転で警察に注意を受けたという人に話を聞くことができました。「法定速度40km/hの幹線道路を走行していました。そこに時速20km/hくらいしか出ていないように見えた、あきらかに遅い軽自動車が走行していました。対向車も多くなかなか追い越すこともできず、車間距離を詰めていたのだと思います。ただ、悪いのは低速で走っている軽自動車であって、自分はなにも悪くない、あおり運転をしていないと思っていました」
車間距離を詰めたまましばらく走行していると、覆面パトカーに呼び止められ、注意を受けたということでした。結局、車間距離保持違反となってしまったようです。
あおり運転をしている人は無自覚であることが多いといわれています。前のクルマはわざとゆっくり走っていて、自分もあおられている、自分は被害者だと思い込むドライバーも少なくないといいます。それがあおり運転を根絶できない要因のひとつになっているのかもしれません。
男女差はあるのか?
あおり運転で検挙されたという報道を見ると、そのほとんどが男性のように感じます。そこで疑問なのが、あおり運転する人は男性の方が多いのだろうか?ということ。実際に性別による統計データなどは、調べた限りありませんでしたが、男性のほうが運転中にイライラしやすいともいわれています。ここからは、性差による運転中の心理を考察してみたいと思います。
一般的に男性脳の人(男性が多いが女性もいる)は論理的に問題を解決しようとする傾向にあることがわかっています。それに対して、女性脳の人(女性が多いが男性もいる)は過去の経験や体験などを参考にして解決しようとする傾向にあるといいます。
この傾向から考えると、女性脳の人は運転中に前の車が遅かった場合、これまで経験したことがなければ何もできずに、遅い車に追従するしかありません。一方で、男性脳の人は、論理的に解決するわけですが、前に遅い車がいるなら、早く走るように促そうと考えるかもしれません。あるいは、追い越せば早く走れると考えることもあるでしょう。
ところが、前の車の速度を後ろからコントロールすることなどできるはずがありません。結果として、思い通りにいかず、あおり運転につながってしまう、そう考えても不思議はないと思います。
普段から運転するという数人の女性に「急いでいるとき、前に遅い車がいたらどうするか」と聞いてみましたが、ほとんどの女性が「仕方ないから諦める」「それを見越して早めに出発する」「違う道を行く」といった意見が聞かれました。男性にも同じ質問をしたところ「他の道を走る」「しばらくついて行って様子を見る」という意見のほかに、「うしろに車が迫っていることを知らせる」と話す人もいました。これは結果としてあおることにつながるため、違反になる可能性があり注意が必要です。
単純に男性のほうがあおり運転をしやすいと決めつけるわけではありませんが、性差による違い、傾向はあるのかもしれません。
あおり運転は違反行為を問われるという以前に、大きな事故やトラブルにつながるたいへん危険な行為です。交通ルールを守り周囲に迷惑をかけない適切な速度での運転が、あおり運転をしない、させないために重要なのです。
〈文/室井大和〉
【室井大和】
自動車ライター。出版社の記者・編集者を経て、指定自動車教習所の指導員として約10年間勤務。その後、自動車ライターとして独立し、コラムや試乗記、クルマメーカーのテキスト監修、SNS運用などを手がける。