ちまたで時々見かける横柄な態度の客。それに対して、ひたすら頭を下げ続ける店員。最近ニュースなどで取り上げられる、いわゆるカスタマーハラスメントです。でも、ハラスメントまでいかなくても、ある意味“迷惑な客”はいるもので……今回は、ある女性客に困惑する店主のエピソードです。
毎日やってくる、セクシーすぎるお客さん
パン屋を経営する陣内さん(仮名・41歳)。もともと自動車のセールスマンでしたが、30歳の頃、営業で訪れた店で出されたパンに心を奪われ、一念発起し脱サラして自らパン屋を開業したそうです。「おかげさまで、年々客数が増え、最近ではアルバイトも雇うまでになりました。客層も小さなお子さんから年配の方までいろいろ。あと、あまり大きな声では言えないのですが、毎日決まって夕方頃にハンパなくきれいな女性が来店するんです。モデルさんか何かですかね。毎日、その女性が来る時間が楽しみでした……女房には内緒ですけど」(陣内さん、以下同)
陣内さんのお店には、たまに芸能人も訪れるそうですが、その女性客は引けを取らないくらいの妖艶な雰囲気が漂っていたそうです。
露出度がどんどんエスカレートしていく!
季節は梅雨が明けて初夏を迎えるころでした。相変わらず毎日訪れる女性客に異変が起き始めます。
海外セレブのInstagram等では、裸同然のファッションをよく見ますが、その影響を受けているのでしょうか? しかもその女性客、気のせいか過激なファッションの時ほどゆっくり買い物をするように見えました。まるで自分のナイスボディを見せびらかしているような姿に、複雑な気持ちの陣内さんでした。
うわさを聞いて集まってくる男性客たち
しかも、お盆を過ぎたあたりから、その女性客を見にくる客が増えてきたというのです。「今は情報の拡散が早いですよね。その女性客が来店する時間帯に自然と男性客が増えるんです。まだ客として来店するのはいいほうです。中には向かいの駐車場からウチの入り口をめがけてレンズを向ける人までいました。高価そうな望遠レンズを付けていたのを覚えています。正直、限度を超えてきた感はあります。このままだと、他のお客様にも迷惑だしあまり良い気はしませんね…」
と、少しあきれ顔で話す陣内さん。集まってくる男性客は一応買い物のふりをしているそうですが、明らかにその女性目当てだということがわかったそうです。
ダメ元で弁護士に相談すると…
ファッションは個人の自由なので注意しにくいし、女性客に「露出しすぎです」なんて言ったらセクハラと思われそうなご時世です。困った陣内さんは、お世話になっている弁護士に、どうすればいいか相談してみました。百聞は一見にしかずということで、数日後その弁護士はわざわざ店に足を運んでくれました。
「本当はお店の防犯カメラに映った映像を送ろうと思ったのですが、プライバシーの問題もあるので、来ていただきました。先生も客のふりをして、その女性が訪れるとじっくり観察していました。やがて彼女が買い物を終え退店すると、先生は私に向かって『うーん、あれはグレーだね。見ようと思えば見られる、といった状況だし、本人のわざとらしい行動もないしね』と話されました」
いちおう「公衆の面前で身体を露出する」という軽犯罪もあるそうですが、それにあたるレベルではないとのこと。また、時間を合わせて来る男性客たちに、店側が「来るな」というわけにもいきません。
諦めかけていたら思わぬ展開に
法にも触れていないとなると注意もできないし、なかば諦めるしかないと腹をくくっていた陣内さんでしたが、ある日思わぬ展開が待ち受けていました。「もう本人に正直に話そうと思っていました。ところが、その日に限って昼過ぎに来店したその女性の口から『あのう、通販ってやってます?』と訊かれたんです。なんでも、故郷の宮崎に帰るので定期的にパンを送ってほしいとのことでした。思わず『はい!もちろんです』と即答しました(笑)」
男性をとりこにする服装はともかくとして、その女性は本当に陣内さんのパンが好きだったようです。
<文/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営