事の発端は、ラーメン二郎 府中店が4日に投稿したポスト(現在は削除)です。
「ラーメン二郎 府中店です。 最近、極端にゆっくり食べている方が増えまして、ロット乱れたりお店としても困っています。お食事は「最大」で20分以内にお願いします。 店主 SNS担当者」
上記の文言とともに、食券機に掲げた「御食事は20分以内で、御願い申し上げます」との張り紙画像もアップ。
まだここまではよかったのですが、「元々食べるのが遅く、1人で無言で食べても30分掛かることがあります。(スマホとか長見してる訳ではなく…)残念ですが制限時間20分では食べ残しになり、そこまでして二郎さんに行く気は無いので、他店を利用させていただきます」というリプライに対し「どうぞどうぞ」と煽るような反応を見せたことで、ついには炎上へと発展してしまいました。
“二郎ファースト”の店と客のみの世界だからこそ…
まず、最初のポストにラーメン二郎が誇るビジネスモデルの特異さが表れています。いきなり、当たり前のように「ロットを乱す」と言われても、普通の客にはよくわかりません(筆者は府中店の投稿を見てググりました)。基本的に、ラーメン二郎はお店のなんたるかを熟知した“ジロリアン”(ラーメン二郎の熱狂的ファン)を相手にするお店ということなのでしょう。
独自ルールを押し付ける店側、独自ルールを盲目的に受け入れる信者のような客……という関係性ができ上がると、なにが起こる? 自分と同じような価値観を持つ人たちだけの世界にいることで、“二郎ファースト”の考えはどんどん先鋭化されていきます。いわば、これは典型的なエコーチェンバーです。
その結果、「私は食べるのに30分以上掛かるから二郎には行く気になりません」という人に「どうぞどうぞ」とレスバする、排他的な姿勢へとつながりました。
「20分制限」の独自ルールは撤回していない
7日、ラーメン二郎 府中店のXアカウントは「ラーメン二郎府中店 SNS担当者です。今回のお騒がせした件についてお詫び報告させて頂きます。大変申し訳ありませんでした」とポストし、同時に以下の書面をアップしました。「今回の張り紙、それのSNSへの投稿、そこでのリプライによる厳しい言葉など使い、ラーメン二郎は怖い店だ、高圧的な店だと誤解させる結果となり、お客様、二郎関係者、多方面にご迷惑と不快感をもたせてしまい、大変申し訳ありませんでした。深く反省しております。
まず店頭の20分制限の張り紙は無くしました。そしてそれに関わる投稿も削除しました。そして今後はSNSへの投稿は府中店店主が発することにします。改めてですが、今回の発言、大変に失礼しました」
この謝罪文をよく読むと、張り紙は剥がし、投稿は削除したけれど「20分制限のルールを改める」とは書いていないことがわかります。つまり、独自ルールは未だ撤回されていません。
伊集院光氏が自身のラジオ番組で語った見解は…
Xの投稿はSNS担当者によるものだったとしても、張り紙はSNS担当者が勝手に貼ったものではないはずです。つまり、20分制限の独自ルールは店主を含めた府中店の総意だった。「ラーメン二郎の騒ぎあるじゃん。ラーメン二郎で『20分以内に食べてくれ。こっち側の作業に支障が出るから』って。それがさ、今日になってさ、ラーメン二郎の店長さんみたい人からさ、『ああいうことは書くもんじゃない』『これからは店長だけが書くようにするから』みたいな。『無駄にみんなに嫌な思いをさせて良くなかった』みたいのが出たって話題になってたけど。『思ってはいるんだ』っていう(笑)。『思ってはいるのね』っていう感じっていうのかな。ゆっくり食べていいですよって話では全然ないから」
20分制限の独自ルールは、今もこの先も生きたまま。ルール自体は撤廃されていないので「20分以内に食べられる自信がない」と思う人は、やはり府中店へは行かないほうがいいと思います。
「20分以内に食べられるだろ」という擁護は的外れ
今回、府中店を擁護したジロリアンたちの言い分をチェックすると、その多くは「ラーメンなんて20分以内に食べられるだろ」という論調でした。しかし、炎上騒ぎが起こった原因と時間制限はほとんど関係がありません。それより、「20分では食べられないから行けない」というリプライに「どうぞ、どうぞ」と挑発的な返信をし、Xの投稿に悪意と陰湿さがにじみ出ていたことが炎上の大きな理由です。
府中店が謝罪ポストを投稿した翌日である8日、ラーメン二郎亀戸店は以下のポストを発信しました。
「お世話になってます。最近食べるのが遅いのですが大丈夫ですか?と聞かれることが多いです。当店としては全然ゆっくりでも大丈夫です。食べるのがゆっくりな方もいれば早い方もいるのでそこは全然気にして頂かなくて大丈夫です。ですがお食事中のスマホ操作や動画視聴、お連れさんとの過度のおしゃべりなど他の要因で遅くなってしまうのはできるだけご遠慮いただきたいです。特に他に待ってるお客さんがいる時は配慮していただけると幸いです。恐らく待ってる時はみなさん早く食べたいなぁと思ってる人が多いと思いますので… でも無理して急ぐ必要は全然ありませんので!よろしくお願いします。」
おそらく、府中店が伝えたかった真意は亀戸店の投稿と大差なかった気がします。しかし「ロットが乱れる」などの言葉を用い、排他的な態度を前面に押し出したイキリ、交戦的な態度が悪手でした。
高圧的な態度とラーメン二郎のビジネスモデルの因果関係
7日に謝罪ポストを投稿した府中店は、同時に「食事は最大20分以内」と綴った投稿を削除。しかし、本当に削除しなければならないポストはほかにあります。たとえば、2024年1月12日のポストがすごい。お客さんがお店に忘れていったる「赤まむしドリンク」の画像をアップし「ラーメン二郎 府中店です。昨日、カウンターの下にお忘れ物がありました。きっととても大事な事のために使おうとしていたのだと思います。しばらく保管しておきます」と投稿。
3週間後の2月6日には「ながらくお忘れ物でキープしていた赤まむし! 昨日、ひっそりと回収されました。何を応援したらいいのか、よく分かりませんが頑張って と心の中で呟きました」とポストしています。
ほかにも、男女2人組のお客さんを「愛し合ってるかどうか分からないカップル」と揶揄したり、忘れ物の書籍を晒して「二次元関係の本」と嘲笑するなど、お客さんを馬鹿にしたポストは目に余るものがありました。
大阪市住之江区「ATCシーサイドテラス」に置かれたストリートピアノの管理人による炎上騒ぎもそうでしたが、無駄なイキリは世の中に受け入れられづらい時代です。今回の府中店に関しては、独自ルール自体が問題なのではなく、高圧的な態度や言い方がまずかったのだと断言できます。
しかし、府中店の高圧的な態度は、ラーメン二郎が誇る特異なビジネスモデルに起因しているというあたりが厄介。ラーメン二郎そのものが現代のSNSと相性が良くないという元も子もない結論に落ち着きそうで、つくづく救いのない出来事でした。
<TEXT/寺西ジャジューカ>
【寺西ジャジューカ】
1978年、東京都生まれ。2008年よりフリーライターとして活動中。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレス、ドラマ評。『証言UWF 最後の真実』『証言UWF 完全崩壊の真実』『証言「橋本真也34歳 小川直也に負けたら即引退!」の真実』『証言1・4 橋本vs.小川 20年目の真実 』『証言 長州力 「革命戦士」の虚と実』(すべて宝島社)で執筆。