それまで遠野さんがほぼ毎日続けていたSNSは6月27日で更新がストップ。
都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに「夏の孤独死現場」について詳しい話を聞いた。
夏場は「熱中症」の孤独死が増える

「夏に“特殊清掃”の依頼をいただいて死因をうかがうと、熱中症や脱水症の場合が多いです」
この時季になると急激に増えるのが、熱中症で亡くなった孤独死の特殊清掃依頼である。
「依頼の半分くらいが熱中症や脱水症でしょうか。残りの半分は何なんだろうと疑問が湧きますが、夏の孤独死現場では、死因を特定できない場合も多いです」
夏場の孤独死は短時間で腐敗が進み、死因が特定できないほど腐食しているという。
「作業依頼をいただいたタイミングだと死因が判明していない時があるんですよ。DNA鑑定が必要なほど遺体の損傷がひどい場合が多い。気温も湿度も高いので腐敗のスピードもとにかく早いです。残ってる歯型で本人確認をするといった現場もざらにあります。さらにまったく原型をとどめていないレベルの腐食になると、死因を調べることができないケースもあります。そういった遺体の死因が熱中症や脱水症状だったのかは確かめようがありません」
エアコンをつけないのは危険
死因として熱中症や脱水症と特定できる現場には特徴があるという。「電気代の未払いで電気が止まっていたりする現場もあるんですが、純粋に電気代がもったいないからなのかわかりませんが、エアコンをつけていない現場ばかりです。
昔の日本は今ほど暑くなかったので、昔の名残でそのような生活をしているのかもしれませんが、最近の暑すぎる日本でそのような暮らしはあまりにも危険です」
年齢を重ねると体のセンサーも衰える。暑い・寒いの感覚も鈍くなってくるのだ。
「大丈夫だろうと普通に過ごしていても、体は悲鳴をあげていて脱水症状を起こしていたというケースは考えられます。ここ最近、6月でも真夏くらい暑かったので熱中症で亡くなられた方の現場が劇的に増えました。
1日に3~4件くらい依頼が来ています。年間を通しての依頼の件数は大幅には増えていないのですが、夏場になると急激に熱中症での孤独死現場の清掃が増えます」
暑さとの過酷な戦い

「とにかく暑さ対策の福利厚生はきちんとするようにしています。首に巻くネッククーラーや塩タブレットを用意したりとか、大量のスポーツドリンクを用意しておくとか。でも防護服を着ていると水を飲みにくいので、必然的に熱中症で倒れてしまう従業員は出てきます。個人的には冷感素材の長袖の服を着るようにして対策をしています」
やはり、現場は過酷だ。
「サウナに入りながら力仕事をずっとするような世界なので、環境に慣れている人でも気をつけないと熱中症になってしまいます。
特殊清掃の依頼は夏場に増える傾向にあるそうだが、夏場に減少する死因もあるという。
「自殺の数は圧倒的に減ります。春先は自殺での孤独死現場が多いのですが、夏はほとんどありません。寒い地域は自殺率が高くて暖かい地域は自殺が少ないらしいので、四季がある日本にも当てはまっているのかもしれません」
夏の遺体は腐敗スピードが早く、現場は地獄絵図に…

「熱中症で倒れている場所としては布団やベッドなどの寝床ではなく、トイレの前とか玄関が多いです。寝ている間に体調が悪くなり、目覚めて、吐き気を催して、トイレに這って向かう途中だとか、助けを求めて外に出ようとしたときに力尽きるのだと思います。男女比でいうと、男性の方が多いです。理由はわかりません」
夏場の孤独死は発見されやすい傾向にある。
「理由のひとつに、遺体が腐敗するスピードが早く、臭いが広がりやすいというのがあります。すぐに外に臭いが漏れてくるので、発見につながります。夏場は窓を開けて過ごす人たちが多いので、匂いを感知するのも冬に比べて段違いに早いです。しかし、『臭いに耐えられないから外で洗濯物も干せない』『臭いが完全に取れるまでホテルを借りるからホテル代を持ってくれ』といったトラブルに発展することまであります」
近隣住民から「ホテル代を持ってくれ」と言われたらどうするのか……。
「遺族の方々が、『迷惑をかけたので払います』といったパターンはありました。賃貸物件で借りる時の契約にも、孤独死した場合について書いてあることはほとんどないと思います。払った遺族は、かなり仁義がある方だと思います。我々も近隣住民に迷惑をかけないように、少しでも早い現場対応が求められます」

「本来なら3日程度なのですが、夏場で環境が劣悪だと1日で腐敗が進んでしまいます。そこで気づけばいいのですが、近隣住民がいなくて変な臭いがするといった苦情がなかった現場もあります。
そういった現場は、遺体がドロドロになっているケースが多く、悲惨な状態になります。ハエも集まりやすく、換気扇から中に入ったハエが卵を産んで成長し、網戸のところに中からも外からもハエがぎっしり集まってきて、まさに現場は地獄絵図。そこでようやく少し離れたところに住む住民が、『最近ハエが増えたな』と気づき、孤独死が発覚するケースも多いです。冬場は発見に1か月以上かかる現場があるのですが、夏場は最長で2週間ほどで孤独死が発見されるので、冬場に比べて夏場は仕事が増えるのです」
<取材・文/山崎尚哉>
【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。