6月の全国の平均気温は平年よりも2.34度高く、統計開始以来過去最高を更新しました。気象庁は「異常な高温」と表現しています。
「ウェザーニュース」は7月末から8月前半は40度級の酷暑になるとの見通しを出しており、今年も気温の高い日が続きそう。
 この気温と密接に関係しているのがアイス。国民的なヒット商品である「あずきバー」は2年連続で過去最高本数を記録しており、2024年度は3億2900万本を販売しました。今年も記録の更新に期待がかかります。

“年間3億本以上売れる”井村屋「あずきバー」。猛暑を追い風に...の画像はこちら >>

平均気温に比例して伸びる「アイスの販売額」

 日本アイスクリーム協会によると、2024年度のアイスクリーム販売額は6451億円で前年度比6.1%の増加となり、過去最高を記録しました。物価高によってリッター単価が2.8%増加しているものの、販売量も3.1%増えています(日本アイスクリーム協会「販売実績」)。

 一世帯における食費全体のアイスクリームの構成比は2015年が0.93%だったものの、2024年は1.14%になりました。この構成比率は2018年に1%の壁を突破し、段階的に比率を高めています。7日以上の猛暑日を記録して過去最多を更新したのが2018年。この年には気象庁の観測が始まって以来の最高気温となる41.1度を記録しました。猛暑、酷暑などと盛んに言われるようになったのはこの年から。そして、2024年の平均気温は平年を1.48度上回り、統計以来最も高くなりました。記録の更新が続いています。


 気温が高くなると、アイスが非常によく売れます。

 サーティワンアイスクリームを運営するB-R サーティワン アイスクリームは、3年連続で過去最高売上を更新。2024年度は2割もの増収でした。国内に69店舗を新規で出店しています。アプリ会員は900万人を突破しており、2024年は159万人を新たに獲得しました。1000万人の登録が視野に入ります。

“暑すぎるとき”に売れるのは…

 しかし、一口にアイスといっても気温によって売れるものは異なります。「ウェザーニュース」は異なる気温でアイスクリームとかき氷のどちらを食べたいか消費者に尋ねる調査を行っており、その境目は34度だったといいます(ウェザーニューズ「夏のアイスクリーム・かき氷調査」)。猛暑日(35度以上)、酷暑日(40度以上)が続くと、アイスクリームよりもかき氷や氷菓の消費が旺盛になることを示唆しているのです。

 氷菓の代表的な商品といえば、井村屋の「あずきバー」。年間3億本以上を販売しています。これは赤ん坊からお年寄りまでの全国民1人あたり、1年に2.6本を食べている計算です。

昔ながらの製法を守りつつ進化を遂げる「あずきバー」

「あずきバー」の原材料は砂糖と小豆、水あめ、食塩のみ。添加物を使わない極めてシンプルかつヘルシーなアイスで、価格は80円(税抜)と値ごろ感も特徴的。
井村屋グループは、たい焼きや肉まん、豆腐、日本酒など幅広い商品を扱っていますが、冷菓は売上全体の3割を占める主力事業。そして「あずきバー」がそれを支えています。正に看板商品です。

 2024年度の冷菓事業の売上高は前年比7.6%増の167億円。猛暑日が続くようになる前の2017年度の売上高は136億円でした。暑さを背景に30億円も売上を伸ばしています。

「あずきバー」は原材料がシンプルゆえに開発が難しく、小豆の粒が沈んで均等にならないなどの問題が発生しました。水あめやコーンスターチの配分変更など、試行錯誤を重ねた末に生み出されています。販売後も改良を重ねており、砂糖の量は当初よりも減っています。2023年のリニューアルではコーンスターチを小豆パウダーに変更。原材料名からコーンスターチが消え、よりシンプルになりました。

 ブランドは広く認知されており、消費者から支持されている様子がわかります。
調査会社マイボイスコムの「アイスクリームに関する調査」で、「好きなアイスクリームの銘柄」の第3位が「あずきバー」。1位は「ハーゲンダッツ」で、2位は「チョコモナカジャンボ」。そして4位から8位までアイスクリームやアイスミルク、ラクトアイスといった乳脂肪分を含む商品が占めています。その中で、氷菓である「あずきバー」が上位に食い込んでいるのです。

 猛暑日や酷暑日が続くようになると、スーパーやコンビニで消費者が「あずきバー」に自然と手を伸ばす姿が浮かんできます。

「板チョコアイス」の売上は市場の伸び率を上回る

 井村屋に限らず、気温上昇を背景としてアイスメーカーの業績は好調そのもの。森永製菓の2024年度における冷菓事業の売上高は前年比8.7%増の493億円でした。特に「板チョコアイス」が好調で、販売金額は前年比9.0%の増加。市場の伸びを上回りました。

 森永は今年度の冷菓事業の売上高を前年比4.7%増の517億円と予想しています。価格改定を行っていますが、買い控えを懸念する様子はありません。

 グリコは基幹システムの大規模な障害によってチルド食品の出荷停止を余儀なくされ、2024年度は0.4%のわずかな減収でした。
しかし、「パピコ」や「アイスの実」、「ジャイアントコーン」、「セブンティーンアイス」は軒並み増収でした。

 アイス業界はまさに活況。地球温暖化の影響で気温の高い状態は続くと見られており、中長期での市場拡大にも期待ができます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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