SNSを中心に広まる偽情報
参議院選挙の投票日が目前に迫るなか、各党の舌戦は激しさを増している。それに伴い、問題視されているのがSNSを中心に広まる偽情報だ。政治家発言の切り抜き動画など、「政治系コンテンツ」は今ではネットの人気ジャンル。純粋な使命感から投稿されるものもあるだろうが、偽情報は広まり続けている。サイバーセキュリティ専門家の高野聖玄氏が解説する。「偽情報が生まれる大きな理由は、再生数による広告収入。政治系コンテンツで稼ぎたい人などが“一次発信層”としてコンテンツを作成し、さらに、それに紐づく形で“二次拡散層”が偽情報を広めていく。前者は主にカネ目的ですが、後者の中には世論の操作や影響力の行使――つまり偽情報で人々を騙し社会の分断を目的とする層も。
実際、選挙などの重要な局面では、人件費の安い国でSNSのアカウントを大量に運用し、ネットを使って政治的な混乱や分断を図るのは常套手段です。そうした仕事を請け負うマーケティング会社すらあります」
フェイクの拡散速度は真実の6倍以上!
日本でも政治系コンテンツへの規制は議論されているが、今のところ怪しい情報の流布を完全に止めるすべはない。フェイク情報の研究をする山口真一氏が警鐘を鳴らす。「私たち人間はセンセーショナルな情報に敏感で、『フェイクは真実の6倍以上の速さで拡散する』とも言われています。今は誰もが情報発信者になれる人類総メディア時代です。
ウソを見抜ける人はごくわずか

「実証研究では8割以上の人が見聞きしたフェイク情報を誤っていると気づきませんでした。特に選挙では、政治家に対し、弱い支持をしている層ほど、偽情報の影響を受けやすい傾向にあることもわかっています。また、拡散された偽情報の大半はごく少数の発信者によるもの。特定の政治家への誹謗中傷や偽動画が延々と拡散されれば、民意そのものが歪められる恐れがあります」(山口氏)
偽情報の影響はネットだけにとどまらない。国際大学グローバル・コミュニケーション・センターと日本ファクトチェックセンター(JFC)が共同で行った2万人調査の結果では、偽・誤情報を知った人が「拡散した手段」として最も多かったのが、「家族・友人・知人との直接の会話」たという。自分はSNSを見ていなくても、身近な人間関係を介してどんどん偽情報は影響を強めていくのだ。
偽情報の“一次発信層”とは…
では、偽情報の“一次発信層”はどのような存在なのか。JFCが「誤り」と認定した情報をたどると、特に多いのが政治系コンテンツを多く掲載するまとめニュースサイト記事やYouTubeなどの切り抜き動画だった。そこで複数の政治系記事まとめサイトに問い合わせをしたがいずれも返答なし。住所や会社名の記載もなく、個人運営だと思われる。
偽情報の誕生と拡散の仕組み

センセーショナルな内容を発信することで注目が集まり広告収益が発生。
二次拡散
目的=政治思想対立候補に対するマイナスプロモーションなど。
偽情報による混乱
悪質な切り抜き例
消費税上げさせてくださいって言ったのが三党合意ですよね?⇓
「じゃあ仮に新しいことやろうとした時に11%以降の消費増税が不可欠なわけで。じゃあ11%以降の消費増税はいつ実現できるんですか。(以下略)
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食べるもの作るの農業なんですよ。自分で食べるものを作れる、これ究極の物づくりですよ。こんなにワクワクする世界ないと思いますね
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切り抜きによる偽情報化
消費税上げさせてください。11%以降の消費増税はいつ実現できるんですか。こんなにワクワクする世界ないと思いますね。

リスクコントロール会社・STeam Research& Consulting取締役。著書に『匿名犯罪者~闇バイト、トクリュウ、サイバー攻撃』など

経済学者で、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。主な専門はデータ分析、社会情報学、情報経済論など

―[偽情報の作られ方]―