6月23日に行われた名古屋でのライブのMCで、ベンジーことロックミュージシャンの浅井健一が「選挙に行こう。投票先はそれぞれ考えて」とオーディエンスに呼びかけ。
その際、客席から「ちなみに(投票したのは)?」と尋ねられた彼は「(東京都議会議員選挙は)参政党に入れた」と発言し、ロックファンの間で激震が走っています。
 7月6日に投稿したInstagramでは、ファンからの書き込みに返答する形で「俺は参政党に入れる」とやはり明言。「参政党は排外や差別や女性蔑視を隠そうともしない政党ですよ」と諭すファンにも聞く耳を持たない様子で、「そんな事してないよ。周りに流されていかん」と反論。ベンジーの参政党への入れ込みようは、かなり強く伝わってきました。

「ベンジーをグレッチで殴りたい」浅井健一の“参政党支持”が物...の画像はこちら >>

「別に驚かない」という古参ファンたちの反応

 ベンジーファンの反応としてSNSで多く見られるのは「ベンジーが右なのは知っていたから、別に驚かない」という声です。

 ブランキー・ジェット・シティ(以下、ブランキー)時代、海外へ行った際に日本人だからとバカにされた経験から右寄りの思想になったと言われるベンジー。なるほど、「日本をなめるな」というポスターを作った参政党に惹かれるのもわからないではないです。

 ブランキー解散後、ベンジーが結成したSHERBETS(シャーベッツ)の楽曲「Stealth」を聴くと「自分が生まれたこの国のことを 愛する気持ちは普通の話さ」「自分の領土を自分で守れん そんな動物は絶滅品種だ」「ちゃっかり世界は狙いをつけてる お花畑で夢見る乙女を」という歌詞が登場します。特に「お花畑」というワードは、いわゆるネトウヨが使いそうな言葉遣いとも言えるでしょう。

 安倍晋三を信奉し「日本は自衛独立するんだ!」という反米主義に囚われたベンジーは、石破茂が首相となった自民党に不満を抱き、ついには参政党支持へ行き着いた……という流れを辿っていったと推測するのは難しくありません。

自称「右や左ではなく真ん中の人」

 しかし、「もともとベンジーは右だったから参政党支持は驚かない」という一部の古参ファンの見解には、腑に落ちないところもあります。

 参政党の政策をきちんと読めば、この党に右の要素がほとんどないことはわかるはず。参政党の方向性は、実はかなり“アンチ自民党”といえます。
右寄りどころか、どちらかというとファシズムに近い印象。

 ちなみに、過去のインタビューでベンジーはこう発言していました。

「最近、俺、右翼と言われたりするんだけど、一応言っとくと、自分では、俺、右翼じゃないんだわ。真ん中のつもりなんだよ。絶対、真ん中じゃないとダメだと思うんだよね。左翼も右翼も、偏るのは絶対よくないと思って、左翼は左翼で怖いし、右翼は右翼で怖いし、俺は絶対、真ん中で常にいないと、国はダメだと思っとって。でも、なんで俺が右翼って言われるのかって言うと、たぶん、日本自体が今、凄い左に寄っていると思うんだわ。その状態から言うと、俺が言っている真ん中は、どうしても右に見えるじゃん。だから、俺のことを右翼と勘違いしてる人もいるんだけど、俺は決して右を目指しているんじゃなくて、真ん中を目指しているっていうのは書いておいてほしいんだよね」(2018年5月2日「Rolling Stone JAPAN」)

 ベンジーのような自称「右や左ではなく真ん中の人」から支持を獲得しているのが、まさに参政党だという印象も受けます。

 不思議なのは、ベンジーが支持を表明したのに市井の参政党支持者たちから「ベンジーも応援してくれている!」という反応があまり見えてこないことです。ワーグナーの音楽がナチスのプロパガンダに利用されたように、参政党がベンジーを利用しないだろうか……? 不安で仕方ありません。

虐げられた人たちのことを歌っていたのに…

 ベンジーが右寄りの思想に目覚めたきっかけとして有名なのは、ある一冊の書籍の存在。それは、トンデモ本として名高い『新 歴史の真実』(講談社)です。
過去のインタビューでベンジーは語っていました。

「30代で大きく変わったのは国家観だね。それまではどちらかと言うと、いわゆる反体制的な思想だったの。パンクってそうじゃん。でも、前野徹の『新 歴史の真実』を読んで気付かされた。国ってすごく大事だなと思ってね」

「日本は戦争に負けてアメリカに領土を占領されたでしょ。それから、日本人ってものすごくうまい具合に操られてるというか。アメリカのGHQが入ってきて大変だったんだけど、日本って素晴らしい国だと俺は思っていて。昔から一部の白人たちは世界中を植民地にしてさ、とんでもないことをやってきたんだよね。そこらへんからの流れをちゃんと勉強したんだわ。そうすると、やっぱり自分の考え方がものすごく変わった」

「そもそも『新 歴史の真実』はJUDE(浅井が活動している3ピースバンド)の(渡辺)圭一からもらった本なんだけど、それを読んだことによって本当にいろんなことに気付かされて。音楽も大事なんだけど、それよりも、もっとでかい話なんだわ。
だから30歳の頃はまだ未熟だったね。人間性は変わってないけど、勉強していろいろと学んだ」(2023年4月26日「音楽ナタリー」)

 ベンジーという人は、すこぶるピュアです。そこが彼の愛おしさでもある。しかし、その純粋さと単純さが短所として作用し、周囲からの影響で一気にここまで来てしまった。

 加えて、彼は抜群の感性の持ち主でもあります。つまり教養を育もうとせず、感性と才能のみを発揮して人々を魅了してきたミュージシャンともいえる。

 そんな“感性型の人間”からは、時に未成熟な危うさがこぼれ落ちます。参政党が言っていることを検証したり、理論的な整合性で理解するのではなく、感覚だけで参政党の怪しい理論を受け止めようとする。そして、結果的に足をすくわれた。

 参政党からにじみ出る排外主義や差別的な思想は、「どうしたら世界が良くなる?」と真摯に考えていたベンジーとは真逆の方向性のはずです。ブランキー時代に「悪い人たち」という曲で、虐げられた人たちのことを歌っていたベンジー。そんな彼が排外主義の参政党を支持していると知ったときは、さすがにショックを受けました。


ベンジーは参政党の排外主義と真逆だったはず

 もう一つ、ブランキー時代にベンジーが作詞・作曲した「ディズニーランドへ」という楽曲も思い出深いです。精神がおかしくなってしまった友人について歌う内容で、人が抱える葛藤を表現した見事な歌詞はリスナーの心に深く刺さったものでした。

 一方、参政党の松田学は選挙演説で「医学的に精神病はない」と断言。感性だけが先行しすぎて、過去のベンジーの表現活動と彼が支持する参政党の方向性はあきらかに整合性がとれていません。

 ベンジーが参政党支持を表明した途端、Xでは「ベンジーをグレッチで殴りたい」というポストが散見されました。ベンジーを敬愛する椎名林檎の代表曲「丸の内サデスティック」に登場する「ベンジー、あたしをグレッチで殴って」という歌詞を引用し、ファンは失望を露わにしています。

「政治はロックだ!」という参政党のポスターは、世のロックファンから激しい怒りを買いました。そんなところへ飛び込んできた「ベンジー、参政党支持」のニュース。ロックファンからすると、悲しすぎる毎日が続いています。

共感を求めようとしないスタンスが唯一の救いか

「ベンジーが参政党を支持しようが、彼の音楽を嫌いになる理由にはならない」という論調もXでは多く見受けられます。つまり、「思想と音楽は分けて考えろ」という主張です。

 しかし、よりによってベンジーが支持しているのは参政党なのです。好きだった人がカルトにだまされている姿を目の当たりにしているようで「そっちに行ってしまったか……」と、あまりにも心にズシンと来てしまう。

 唯一の救いは、共感を求めようとしないベンジーのスタンスでした。
7月14日、ベンジーはInstagramで以下のメッセージを発信しています。

「俺は参政党に入れる発言に対して色々心配してくれる方々は、ありがたいんだけど。攻撃してくる方々に一度だけ言っておくわ。

 一人の人間が自分の心で感じて自由に決断してある政党に一票を入れる。これこそ国民主権、民主主義の根幹だよな。それによって選ばれた政党がこの国を仕切る。みんなの意思で選ばれたのだから、たとえ自分が好きではない政党が選ばれたとしても、自分はそれを認めた上で従う」

「俺も参政党に入れます!」盲目的なファンの存在

 ベンジーは、自身のファンに「参政党に投票してほしい」と強要しないタイプです。加えて、「参政党に投票する」と表明したら多くのファンががっかりすることも予想できたはず。しかし、そのあたりの拒絶反応に彼はまったく興味がありません。あくまで、「俺は俺、君は君」という姿勢を崩さないのがベンジーです。

 しかし、本人は望まずとも彼は多大なる影響力を持ってしまった。Instagramでのやり取りを見ると、「俺も参政党に入れます!」とコメントする妄信的なファンが何人もいるという現実。
これは、あまりに重いです。

 今や、ベンジーの音楽を愛聴するファンの大多数はアラフィフの年代に差し掛かっているはず。言うまでもなく、いい大人です。だから、自分で考える判断能力を持った人たちであってほしい。「ベンジーが言ってたから」と、安易にカリスマの思想に感化されないでほしい。

 ベンジーのファンは自分の意見、考えを投影できる候補、政党に投票をしてほしいと、心から願うばかりです。

<TEXT/徳大寺>

【徳大寺】
1985年神奈川県生まれ。以前はミュージシャンとして活動。その後、編集プロダクションを経てフリーランスのライターに転身。主にコラムの執筆や著名人のインタビューを行う。
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