時の流れも金の流れも、残酷なものである。だから、旧交を温めるときには用心が必要だ。
同じ釜の飯を食った仲間の今の姿が、在りし日から想像できる延長線上にいるとは限らない。
 団体職員をしている佐川祐介さん(仮名・28歳)は昨年、学生時代のとある友人から思いがけない発言を受けて絶縁を決意したばかりという。

「年収はどれぐらいもらってんの?」同窓会で“天然キャラの同期...の画像はこちら >>

サークルの同期と久しぶりに集まったのだが…

「大学で同じサークルだった友人たちとの飲み会での出来事でした。メンバー全員が集まったのは卒業以来初めてのことで、楽しみにしていたんです。

 なかでも大塚(仮名)はここ5年ほどサークルの誰とも会っておらず、みんなで『久しぶりに会えてうれしいね」と言っていたのに……。ショックですね」

 大塚さんは、どうやらご多忙の様子だった。しばらくぶりの再会であるこの飲み会すら、遅れての登場となった。

「最初はみんなで近況報告をしながら、学生時代に戻ったような気持ちで楽しく飲んでいました。それこそ、『大塚まだかな』なんて言いながら。やっと大塚が現れたときも、『久々なのに遅れるなんて~!』と、すでに全員揃っていた我々が囃し立てたのですが、一瞬で空気が様変わりしてしまいました」

 なぜなのか。

天然キャラのムードメーカーが豹変していた

「大塚はそんな歓迎ムードを冷たくあしらったかと思えば、『ビール注文して』『あとつまみはこれとこれな』と、つっけんどんに女子の同期に命令しだして。大学時代の大塚とはまるで別人の振る舞いで、全員が困惑してしまったんです」

 かつての大塚さんは、天然キャラなムードメーカーとして親しまれたタイプだったそうだ。

「バイトを遅刻してクビになったり、テストの日程を間違えて単位を落としたりと、失敗も多かったのですが、憎めない愛されキャラだったんですよね。お金の遣い方も計画性がなく、バイト代が入るなりすぐに使い果たしてしまうので、常に金欠。


 それでもみんな、『もう大塚はしょうがないな~!(笑)』などと言いながら、飲み代を貸したり、あるいはほかのメンバーで奢ることも多々あったくらい、慕われていました」

 つまり学生当時の大塚さんは、飲み会などでは率先して注文係をやるようなタイプ。だからこそ、抜けたところさえも“かわいげ”だったのだろう。

仕事論を語り、年収マウントをはじめる始末

「大塚は周囲の動揺をよそに、同期たちがどんな仕事をしているのかと聞き始めました。メーカーで営業をしている友人には『数字はどれぐらいやってんの? 同期で何番目ぐらい?』と聞き、友人が嫌な顔をしつつも答えると『ショボくね?』と馬鹿にした調子で笑ったんです」さらに『年収はどれぐらいもらってんの?』と聞き、回答を得れば『やっす。まあ数字出せてないから仕方ねえよな』と、追い討ちをかけるようなことまで言い出して……」

 ほかのメンバーに対しても終始そうした対応を続ける大塚さん。場の空気は重くなる一方だった。

「同期のひとりが痺れを切らした様子で『おまえはどうなんだよ?』と尋ねたところ、大塚は待ってましたとばかりに語り出しました。『今は不動産会社で土地の仕入れをする営業をしていて、成果を出しまくって年収はもう1000万円に届く』と」

 どんな努力をして年収を上げてきたか滔々と話す大塚さん。場を支配したまま、独自の仕事論まで語り出した。

「大塚は『仕事をするなら死に物狂いになっててでも成果を出して高い給料をもらうべきだろ』と言い、メーカーで営業をしている同期に『どうせお前はなあなあで仕事をしてるんだろ』と説教をし始めたんです」

 上から目線で仕事論を語る様子に、佐川さんは怒りを覚えたという。

「カッとなって『仕事は給料のためだけにするもんじゃないだろ』と言ってしまったんです。『金以外に目的なんかねえよ』と言われたので、『お客さんに感謝されたりした時にやりがいを感じたりするだろ』と答えたんです。すると、大塚に『やりがいがあるから仕事に満足してる? それ稼げねえやつの言い訳だから』とゲラゲラと笑い出したんです」

おまえらのことがずっと嫌いだった

 頭に血がのぼった佐川さんは、大塚さんに殴りかかりかけた。

「ひとりに必死に宥められ、『一旦、落ち着こう』という話になりました。
その同期は大塚に『どうしてそんなに食ってかかるんだよ?』と尋ねたんです。これに対する大塚の発言が衝撃でした。『おまえらのことがずっと嫌いだったんだよ』『大学時代に見下されていたのを根に持っている』と……」

 大塚さんいわく、サークルメンバーを見返すために仕事を頑張ってきたのだとか。

「でもそれがまったく納得いかなくて。『金を借りのも嫌だった』とのことでしたが、『貸してほしい』と大塚に頼まれたから貸しただけですし。

 馬鹿にしているヤツに金を貸した上で飲みに誘ったりなんてしないじゃないですか。けれど、大塚のなかでは馬鹿にされていると捉えていたようでした」

後味最悪のまま解散。その後は…

 佐川さんらは見下してないと説明するも、大塚さんは「俺はそうは思ってない」と譲らなかった。

「結局、物別れの状態で飲み会はお開きとなりました。『俺が全額払う』と話す大塚さんに対し、同期たちは『いらねえよ』と反論、結局は割り勘で払うことに。サークルの友人たちはみなが気心の知れた仲間だと思っていたのですが、そうではないことがわかり、ひどく後味が悪い飲み会でした」

 佐川さんはその後も折々でサークル仲間と会っているが、この飲み会以後の大塚さんを知るメンバーは一人もいないのだとか。

<TEXT/和泉太郎>

【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。
趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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