今年6月の気温は、明治時代に統計を開始して以来過去最高を記録。7~8月も全国的に平年よりも高い気温が続く見込みだ。
’23年、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、『地球沸騰化』の時代が来た」と述べたが、解決の糸口は見つからず今年も世界的な酷暑となっている。
 地球温暖化が加速する中、人類は「エアコン新世代」として暑さに適応しようとしているが、それがさらなる温暖化を招く悪循環に陥っている。この危機的状況を打破する可能性として、「『地球に大きな日傘を差す』気象工学が真剣に議論され始めた」と語るのは、信州大学特任教授の山口真由氏。神の領域に踏み込むこの技術は、救世主になるのか、それとも新たな災いをもたらすのか?(以下、山口氏の寄稿)

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暑さに脆弱になっていく人類はこの先…

 猛暑、酷暑、激暑……ここ数年の猛烈な暑さをどう表現すればいいのだろう。少しずつ加熱されていた地球がついに“沸騰”したとの国連のグテーレス事務総長の言葉は言い得て妙である。気候変動を“緩和”している間、できる限り“適応”しようと呼びかけられているものの、人類が暑さに強くなっているようには思えない。例えば、うちの子は熱中症が警戒されるこの時期、外遊びはほぼできず、空調管理された室内で過ごしている。クーラーを必需品として生きる人々を“エアコン新世代”と名づけるのなら、そういう需要に応えてドバイはついに室内のみならず、歩道にもエアコンを完備するのだそうだ。

 ますます暑さに脆弱になっていく人類と、ますますエネルギーを消費せざるを得ない生活……さらに言えば、閾値に達すると温暖化が加速するとされる原因は、こういう矛盾に満ちた現実だけではない。 一般的に、温室効果ガスと言えば、CO2やメタンを思い浮かべるが、実は水蒸気こそがその最たるものなのだ。したがって、海水温の上昇によって大気中の水蒸気量が増えれば、地球はもっと暑くなる。

そう、温暖化はさらなる温暖化を呼ぶのだ。この現状にさじを投げたくなった人々が、ついに議論しはじめた禁じ手、それが気象工学である。
もともとエセ科学に分類されていたものの、「人新世」の提唱者であるノーベル化学賞受賞者パウク・クルッツェンの後押しで真面目に扱われるようになった。

エアコン新世代は極端な選択を迫られている

 注目されているのは、成層圏に人工的にエアロゾルを注入し、太陽光をより多く宇宙へと反射させて地上に届く量を減らす──要は、地球に大きな日傘を差すような方法。なんだかSFじみた話だが、温暖化対策に支払っている費用を振り向ければ、お釣りがくるというのだから、現実的な選択肢になってくる。

 一方、農業生産への影響を含めて副作用は未知数である。世界のすべての国に関係する事項で国際的な合意を得るプロセスも定かではない。太陽放射を管理するという神の領域への踏み込みに、本能的な恐れを抱く人も多いだろう。

とはいえ、すでに沸騰しているこの地球で、私たちは岐路に立たされている。脱成長論者は、さぁエアコンを消しましょう、縁側で風鈴の音を聞けば涼しいでしょうと唱えて道を示すも、未来の地球を担うエアコン新世代が産業革命前の不便な生活に甘んじるとは思えない。そうなると、他方の道である気象工学、たとえそれが隘路でも活路にさえ見えてしまうのだ。極端な選択を迫られるその日が刻々と近づいていると予感する。

ドバイは歩道にもエアコン完備…「地球に大きな日傘を差す」かつてのエセ科学が“沸騰化する地球”の最後の活路に?山口真由氏の見解
山口真由


【山口真由】
1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。
法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。帰国後、東京大学大学院博士課程を修了し、’21年、信州大学特任教授に就任
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