相葉雅紀(42)の演技を批判する声が高まっている。大森南朋(53)、松下奈緒(40)と3人で主演するテレビ朝日の新刑事ドラマ『大追跡~警視庁SSBC強行犯係』(水曜午後9時)が9日から始まり、その演技を目にする機会が増えたからだろう。
そもそも相葉の演技は本当に批判に値するものなのか?
「相葉雅紀の“演技力”に批判」は正当なのか。真面目、誠実…“...の画像はこちら >>

良い俳優の“3つの条件”とは

まず、良い俳優の条件は古くから「1声、2顔、3姿」である。俳優は第一に声が問われる。顔ではない。口跡(セリフの言い回し)や声質、発声などが良くなくてはならない。

名優だった故.西田敏行さんはアニメ映画『がんばれ!!タブチくん!!』(1980年)などで声優としても活躍した。戸田恵子(67)、津田健次郎(54)ら優れた声優には演技のうまい俳優が多い。相葉もアニメ映画『PUI PUI モルカー ザ.ムービー MOLMAX』(2024年)などで声優を務め、一定以上の評価を得た。声質には好き嫌いがあるが、悪くはないだろう。

次に顔。必ずしも二枚目である必要はない。問われるのは味があるかどうか。『大追跡』に捜査1課長.八重樫役で出ている遠藤憲一(64)は正統派の2枚目とは言えないが、味があり、ドラマ界に欠かせない存在だ。

相葉は2018年と2021年、オリコンの調査による「女性が選ぶ恋人にしたい有名人ランキング」で1位になっている。
顔も好みが分かれるが、2枚目と呼んで良いのではないか。

最後に姿。身のこなしや所作が良いかどうかである。相葉の『大追跡』での役柄は、データ分析を担当する「捜査支援分析センター(SSBC)」の新米キャリア捜査官.名波凛太郎なので、まだアクションを見せる機会がない。

もっとも、代表作の1つであるテレ朝『今日からヒットマン』(2023年)では数々のアクションを見せている。身のこなしは軽かった。所作も悪くはない。身長は公称1メートル76。この公称通りなら平均的だから、制作者側を困らせることはない。身長は高いほうが良いと思われがちだが、あまり高いと建物のサイズに合わせにくくなる。

たとえば身長1メートル89の阿部寛(61)は若手のころ、時代劇の際に部屋や畳が小さく見えてしまった。そう感じさせない工夫をするのに苦労した。


相葉雅紀の過去の作品を振り返る

相葉の過去の作品も振り返ってみたい。単独の初主演映画『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』(2014年)は榮倉奈々(37)たちと共演したラブストーリー。相葉は漫画家を目指す真面目で誠実な書店員役だった。

作品はオーソドックスなアイドル映画になってしまい、やや勿体なかった。相葉の演技にも硬さが見られた。半面、収穫もあった。「真面目」「誠実」という相葉の役柄の方向性が完全に固まった。
主演映画『“それ”がいる森』(2022年)は佳作。相葉は妻子と別居し、福島で農業を始める。そこへ息子の上原剣心(15)もやって来て、一緒に暮らし始めた。

直後から地元の子供たちが次々と消える。息子の親友も行方不明になった。宇宙人に食べられてしまったのだ。
相葉が息子に危険なこの地を離れるよう促したところ、激怒される。息子としては親友を見捨てて逃げたくないし、危ないことを恐れる父親が許せなかったからだ。

頼りない父親だった相葉は変わっていく。宇宙人と戦う決意を固めた。息子とその親友のために命懸けになる。親子関係の断絶と修復、子供の純粋な友情が大自然の中で描かれた。観る人を限定するホラーなので、正当な評価を得にくい映画だったが、相葉の演技は良かった。息子の言葉によって少しずつ成長してゆく父親を好演した。

TBSの主演ドラマ『ひとりぼっち -人と人をつなぐ愛の物語-』(2023)での相葉は水道メーター検針員役。東日本大震災で両親が亡くなったあと、たった1人の肉親だった姉も病死した肉親が相次いで亡くなり、何もかもが嫌になってしまったが、おにぎり屋の人々との出会いにより、少しずつ人間性を回復していく。1人の青年の喪失と再生の物語だった。難しい役柄だったものの、好評を博した。


テレビ朝日『今日からヒットマン』(同)はハードボイルドタッチのコメディ。平凡な営業マンが不本意にも犯罪組織に関わってしまい、殺し屋にされてしまう。

相葉が文句を言いながら殺し屋稼業に取り組む姿がおかしかった。「真面目」「誠実」という持ち味が生かされた。文句なしの好演だった。殺し屋の似合う俳優が演じたら、面白みが半減した。相葉は『ひとりぼっち』、『ヒットマン』の演技により、2024年のドラマ賞「橋田賞」を受賞した。ドラマ賞の中には設立目的や選考方法が不透明なものもあるが、橋田賞は受賞者にとって栄誉。2025年には阿部サダヲ(55)、伊藤沙莉(31)たちが受賞した。

俳優としての相葉雅紀

俳優としての相葉は制作者の間で認められているのだ。ただし、幅の狭い俳優ではある。過去に演じた役柄のほとんどが「真面目」「誠実」だからである。

もっとも、それは悪いことではない。
主演級の俳優の多くは決まった役柄しか演じない。得意な役柄に拘るからである。

たとえば、海外でも評価の高い西島秀俊(54)が演じる役柄もほとんどが真面目で誠実。テレ朝『警視庁アウトサイダー』(2023年)では珍しく見た目が反社のアウトロー刑事を演じたものの、お世辞にもハマっているとは言えなかった。

国民栄誉賞を受けた名優.渥美清さんは教養に欠けたお人好し役が十八番だったが、インテリ役は大の苦手だった。映画『男はつらいよ』の車寅次郎役をほかの俳優が演じるのは不可能だったが、同『八つ墓村』(1977年)で名探偵.金田一耕輔を演じた際には苦労した。

渥美さんは自分の持ち味に磨きをかけるための努力を惜しまなかった。マスクで顔を隠し、あちこちの劇場に通い、芝居を観た。読書家としても知られた。

相葉が「真面目」「誠実」のキャラクターで押し通すのかどうかは分からないが、俳優としての評価を保ちたいのなら自己研鑽は必要だろう。40歳を過ぎた俳優は内面が演技に出る。

新ドラマ『大追跡』での相葉雅紀

『大追跡』はテレ朝が10年ぶりにつくった新刑事ドラマ。
6月11日に終わった『特捜9』の後続作品。どちらも制作は刑事ドラマの老舗.東映だ。

視聴率は『特捜9』も悪くなかった。最終回は個人で4.3%を記録した(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。もっとも、『大追跡』の7月9日放送の初回はそれを上回り、5.3%だった。

相葉、大森、松下のトリプル主演の賑やかさに視聴者が食指を動かされたか。大森はSSBCで相葉演じる名波の教育係.伊垣修二役。はみ出し刑事である。松下はSSBCより格上意識が強い捜査1課のエース刑事.青柳遥を演じる。気丈だ。

面白くするために工夫がいくつも施されている。SSBCは捜査1課を後方支援する組織で、本来は容疑者確保などの晴れ舞台とは無縁だが、名波が伊垣の背中を押し、逮捕させてしまう。捜査1課としては面白くないものの、名波がキャリアだから逆らえない。世間全般の縦割り組織、部署の格付けを嘲笑する物語になっている。

遠藤が演じる捜査1課長の八重樫は強大な権限を持つが、名波の言葉には逆らえない。名波はキャリアであるだけでなく、佐藤浩市(64)が演じる伯父の久世俊介が警察庁出身の内閣官房長官だからである。

コワモテの八重樫が新米の名波の言葉に右往左往するのがおかしい。権威が威張り腐る世間の風潮をしつこいくらいに皮肉っている。

不安点も指摘ある。第一に主演が3人もいること。1時間ドラマで相葉、大森、松下の全員に対し、主演に相応しい設定を与えるのは難しい。

無理に3人とも主演らしくしようとすると、事件や捜査の描写が薄くなってしまう恐れがある。第2回までが終了した時点でも松下がなぜ主演なのか首を捻った。

<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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