今回は、公共の場で“自分本位な行動”に振り回されたという2人のエピソードを紹介する。
満員電車に響く“ムシャムシャ”音の正体
「まさかとは思ったんですが……」そう振り返るのは、中央線で“信じられない光景”に遭遇した田島悠真さん(仮名・30代)。
吊り革につかまりながらその日の予定を確認していた田島さんは、ふと、連結部付近に立つ若い男性に目を留めた。
「カサカサッて袋の音がして、見たらマクドナルドの紙袋を取り出したんです。『え、まさか食べないよね?』って思ったんですけど……」
その“まさか”が、現実になった。男性は堂々と車内でビッグマックにかぶりついたのだ。
「ムシャムシャって咀嚼音が響いてました。そのニオイも強烈ですよ。ハンバーガーの香り、しかも通勤電車ではキツいです!」
ゴマ付きバンズ、ビーフの油、ソースの酸味のニオイが車内に広がった。
「隣の男性も顔をしかめてたし、女性はハンカチで鼻を押さえてました。でも、周囲の乗客は“誰もなにも言えない空気”が漂っていましたね」
無敵の食事タイム…残されたのはマクドナルドのニオイ
1つ目のハンバーガーを食べ終えると、男性はナゲット、さらにはポテトまで取り出した。揚げもののニオイが混ざり合う。「何品食べるんだよって、正直、笑うしかなかったです」
さらに田島さんが驚いたのは、その器用さだった。
「混雑した車内、しかも揺れる中でもこぼさず食べ続けてるのが、逆にすごいって思いました」
極めつけは、最後に取り出したコーラだ。
「“ゴクゴク、プハー”って、車内でよくあんなに清々しく飲めるなって。こちらは本当にモヤモヤしますよ」
ようやく次の駅で男性は降りたのだが、車内にはマクドナルドのニオイだけが残った。
「たぶん誰も忘れられない朝だったと思います。私も一生分の“咀嚼音”を聞いた気がします」
優先スペースをふさぐ女性5人組

「そこまで混んでいない時間帯だったので、優先スペースを目指して乗りました。揺れるから、ベビーカーを固定できる場所は本当に助かるんですよね」
しかし、その優先スペースは、40~50代くらいの女性5人組に“占拠”されていたという。
「輪になってしゃべっていて……ちょっとした“お茶会”状態でした。大きな声で笑って、“ここは私たちの空間です”って感じです」
さらに女性たちは、優先席前の吊り革下スペースまで幅をとり、まるで壁のように人の通路を塞いでいた。
「私がベビーカーを押して近づいても、誰一人動こうとしません。気づいているのに、無視されているようでした」
電車が動き出すと、ベビーカーの移動もままならないまま、木村さんはドア付近で立ち尽くすことに……。すると、その場にいた年配の女性がさっと体をよけて、スペースを空けてくれたのだ。
「その人は、私のためというより、女性たちの態度に“あきれて”という感じでしたね」
「通せんぼは、どうかしてるでしょ⁉」
女性たちが優先スペースで話し続けるなか、その年配の女性が見かねて声をあげた。「あなたたち、いい大人が優先スペースと優先席の前で輪になって通せんぼはおかしいでしょ⁉︎ ベビーカー見えてるのに通さないの、どうかしてるでしょ⁉︎」
その瞬間、車内の空気がピリッと引き締まった。
「やっと女性たちがハッとした顔で動いてくれたんです」
ようやくベビーカーを定位置に停めることができた木村さん。しかし、女性たちからの謝罪や一言の気遣いはなかったという。
その後、年配女性が途中駅で降りると、彼女たちは再び輪になって同じ場所でおしゃべりを再開。高笑いも元通りになった。
「“自分たちのサロン”みたいに振る舞っていてモヤモヤしましたね」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。