4月から放送していた春クールドラマで視聴率が2ケタをマークしたのは、阿部寛主演の日曜劇場『キャスター』(TBS系)の11.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/平均世帯視聴率)のみで、2位は人気シリーズ『特捜9 final season』(テレビ朝日系)の8.1%と、各局で不作のシーズンに終わってしまった。
一方で、『続・続・最後から二番目の恋』『波うららかに、めおと日和』『あなたを奪ったその日から』(いずれもフジテレビ系)は見逃し配信で高い数字を記録したほか、SNSでの反響も大きく、リアルタイム視聴だけではないドラマの楽しみ方が顕著になったシーズンでもあった。


そんななか、放送がスタートした夏ドラマ。

夏休みと重なることで、例年各局で目玉作品が少ないと言われているシーズンではあるが、ドラマ制作に関わる業界人たちはどんな作品に注目しているのか?

見たいドラマと見たくないドラマについて率直な意見を教えてもらった。

業界人が語る「見たい/見たくない」夏ドラマ7選。「マンネリ化...の画像はこちら >>

阿部サダヲと松たか子による大人のラブサスペンス

まず、民放キー局でドラマ製作に関わる30代の男性プロデューサー・A氏に話を聞いた。

「今クールの目玉でもある『しあわせな結婚』(テレビ朝日系、木曜午後9時~)は面白いですね。

内容としては、阿部サダヲさん演じる独身弁護士・幸太郎が、松たか子さん演じる謎めいた女性・ネルラと運命的に結婚し、妻の秘密を知っていくマリッジサスペンス。

なんといっても、出演者の演技力が群を抜いています。阿部サダヲさんのコミカルさ全開のセリフ回しとシリアスな表情とのギャップはもちろん、松たか子さんのミステリアスながら品を醸し出す立ち振る舞いは、どのシーンを切り取っても圧巻。

脇を固めるネルラの父役・段田安則さん、ネルラの叔父を演じる岡部たかしさん、若手刑事役の杉野遥亮さんといった脇役の存在感もピカイチ。

また、ストーリーも絶妙。大人のラブストーリーだけでも十分面白いのに、15年前に起きた事件の謎がサスペンスとして乗っかっていて、飽きが来ない。

脚本家・大石静さんの真骨頂でもある、何気ないセリフでシーンを掘り下げる脚本も素晴らしい。

幸太郎とネルラの会話は日常的で自然にも見えますが、その裏に不穏なムードも感じさせる。迫力あるシーンでなくても、恐怖心を抱かせる掛け合いがふんだんに織り込まれているんですよね。
最終話までちゃんと見続けたい作品です」

同作は視聴率も好調で、第1話は8.5%をマーク。出演者の演技力と奥深い脚本の魅力がより伝われば、今後ますます数字を上げていきそうだ。

マンネリ化で面白さを見出せない櫻井翔主演の『放送局占拠』

業界人が語る「見たい/見たくない」夏ドラマ7選。「マンネリ化をしていると言わざるを得ない」作品も
公式HPより。以下同
一方でA氏は見たくないドラマについても赤裸々に教えてくれた。

「1話で見たくないと確信したのは、櫻井翔さんが主演を務める、『大病院占拠』『新空港占拠』に続く“占拠シリーズ”の第3弾『放送局占拠』(日本テレビ系、土曜午後9時~)ですね。

都知事選に向けた選挙特番を放送するテレビ局を舞台に、櫻井翔さん演じる捜査員・武蔵三郎が500人の人質を救うために武装集団と戦うクライムサスペンスですが、マンネリ化をしていると言わざるを得ない。

仮面を被る武装集団のキャストを視聴者が考察するという試みは新しかったのですが、今作では暴かれるキャストの意外性がなくなってきており、その楽しみが薄くなっている。

ご都合的すぎる構成、櫻井翔さんの拙い演技やぎこちないアクションに関しては、もはやイジり要素にもされていてアリかなとも思いますが、テーマが政治やテレビ局の闇といった難しいトピックに触れているのは危険かなと思っています。

あくまでエンタメ作品として成立していたドラマなのに、メッセージ性や思想を持たせることでチープさが際立ってしまうのでは……。

とはいえ第1話が無料動画配信サービスで200万回以上再生されており、ベタな設定や考察の面白さを作る工夫は見習いたいとは思っています」

最後にA氏はフォローのコメントをしていたが、視聴者の好みが二分するドラマになっていることは間違いなさそうだ。

“終活”をコミカルかつ丁寧に描く『ひとりでしにたい』

続いて、制作会社でキャスティングなどにも関わる40代女性プロデューサー・B氏にもコメントをもらった。

「6月末から放送している綾瀬はるかさん主演の『ひとりでしにたい』(NHK、土曜午後10時~)は楽しく見ています。

一人暮らしを謳歌していた綾瀬はるかさん演じる鳴海が伯母の孤独死をきっかけに“終活”について真剣に考えていく新感覚ドラマ。重いテーマを扱いながらも、内容はテンポ感のあるコメディタッチのストーリーで非常に見やすい。

綾瀬さんの振り切ったオーバーな演技や多彩な表情の変化は素直に笑えますし、要所では孤独死や介護の恐怖や不安、婚活の焦りなどを丁寧に描いており、そのバランスが完璧だと思います」

民放では描きづらいテーマを独自の切り口で展開するNHKらしい同作は、ドラマの歴史に残る作品になりそうだ。


新鮮さを感じないホームコメディ『こんばんは、朝山家です。』

業界人が語る「見たい/見たくない」夏ドラマ7選。「マンネリ化をしていると言わざるを得ない」作品も
こんばんは、朝山家です。
そんなB氏が、見たくないドラマとして挙げたのは人気脚本家によるドラマだ。

「見たくないと思ったドラマは、中村アンさんと小澤征悦さんが主演を務める『こんばんは、朝山家です。』(テレビ朝日系、日曜午後10時15分~)です。

内容としては、小澤征悦さん演じる売れっ子脚本家の夫・賢太、中村アンさん演じる妻の朝子がケンカをしながらも家族愛を深めていくといったホームコメディ。

朝ドラ『ブギウギ』(NHK)を手掛けた脚本家・足立紳さんらしい生き生きとしたセリフやほっこりとする展開は見事で、中村アンさんのブチギレ演技も見ごたえがあるのですが、問題はストーリーかと……。

今年の1月クールで放送していた『それでも俺は、妻としたい』(テレビ大阪・テレビ東京系)と酷似しているんです。

というのも脚本が同じ足立紳さんで、本作が売れっ子脚本家になってからの世界を描いていますが、『それでも~』は売れない脚本家時代が舞台に。

ただし、夫婦間のリアルなセリフ回しや子供たちとの関係性がほぼ同じで、続編かと思ってしまうほど新鮮さを感じなかった。局や制作会社が違うなかで、どうして同様の作品を作ったのかが疑問です。

臨場感ある手持ちカメラでの撮影など、演出へのこだわりを感じる作品だけに、ストーリーが残念でなりません」

飽和状態のドラマ業界で似たような内容の作品が乱立している現状があることは確かだが、同じ脚本家による類似作品が放送されていることに、業界人として納得がいかなかったようだ。

個性的なキャラと新しい切り口で学校問題に迫る意欲作

業界人が語る「見たい/見たくない」夏ドラマ7選。「マンネリ化をしていると言わざるを得ない」作品も
僕達はまだこの星の校則を知らない
最後に、深夜アニメをメインに手掛ける30代の男性脚本家・C氏にも見たいドラマ、見たくないドラマを聞いた。

「注目している作品は磯村勇斗さんが主演を務める学園ヒューマンドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(関西テレビ・フジテレビ系、月曜午後10時~)ですね。


磯村勇斗さん演じる文字や音に色や匂いを感じる独特な感性を持つスクールロイヤー・健治が共学になった私立高校を舞台に、学生たちの問題に不器用ながらも向き合っていく学園ドラマ。

制服や恋愛、いじめといった問題をスクールロイヤーが軽快に解決していく分かりやすい内容ではなく、学校が嫌いだった健治がさまざまな感情を巡らせながら成長していくという構造が新しく、哲学的なセリフや善悪を明瞭化しないところも攻めていて、個人的には好感を持てました。

世界観が強すぎるかもしれませんが、磯村さんや堀田真由さん、稲垣吾郎さんといった実力派俳優の演技に説得力があるので、しっかりと物語に入り込むことができました。キャラクターの繊細な機微や新しいドラマを見たい人にはおすすめだとは思います」

青春の尊さが詰まった『ちはやふる —めぐり—』

業界人が語る「見たい/見たくない」夏ドラマ7選。「マンネリ化をしていると言わざるを得ない」作品も
ちはやふる —めぐり—
もう一作面白く見ているのは、競技かるたをテーマにした青春ドラマ『ちはやふる —めぐり—』(日本テレビ系、水曜午後10時~)です。

広瀬すずさんが主演を務めた映画『ちはやふる』シリーズも好きだったのですが、同作の10年後を舞台にしたこのドラマも、ただの青春スポ根ものに留まらない魅力的な内容になっていると感じています。

主演の當真あみさんや原菜乃華さんなどの瑞々しい演技を見ているだけでもキュンキュンできますし、令和の学生像をリアルに描きながら、青春を謳歌する尊さもまっすぐに描いてくれている。若い人だけでなく大人も楽しめるドラマです」

清原果耶と成田凌が活きていない『初恋DOGs』

業界人が語る「見たい/見たくない」夏ドラマ7選。「マンネリ化をしていると言わざるを得ない」作品も
初恋DOGs
一方で、C氏が夏クールドラマで見たくないと思った作品は何なのか。

「『初恋DOGs』(TBS系、火曜午後10時~)は序盤話で脱落してしまいました。清原果耶さん演じる愛を信じないクールな弁護士と成田凌さん演じる動物しか愛せない獣医が愛犬を通じて繋がっていく三角関係ラブストーリー。

かわいい犬をストーリーのキーにしたポップな恋愛ものにしてはストーリーのテンポが遅いことやキュンとなるシーンが少なすぎることが気になりました。

また、清原果耶さんも成田凌さんも若手きっての演技派ではありますが、繊細なキャラクターを演じられるところが魅力なので、火曜10時枠のキャストとしては渋すぎるかなと……。

もう一つは韓国ドラマでは主流なのかもしれませんが、回想シーンが多いのでストーリーに没入できなかった点も見なくなった理由ですね」

以上のように、ドラマ関係者たちが見たいドラマ、見たくないドラマについてリアルな感想を語ってくれた。

しかし、あくまで現時点の感想で、見たくないドラマに挙げていた作品でもこの先の展開次第で面白くなる可能性は十分にあるはずだ――。


猛暑が予想される今年の夏。行楽に出かけるのもよいが、各局の夏ドラマをじっくり見る時間に費やしてみてはいかがだろうか。

ライター/木田トウセイ

【木田トウセイ】
テレビドラマとお笑い、野球をこよなく愛するアラサーライター。
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