超高齢化の現在、親の介護の問題は誰にとっても他人事ではない。厚生労働省の「介護保険事業状況報告の概要(令和3年6月暫定版)」によると、要介護(要支援)認定者数は719.7万人で、うち男性が230.2万人、女性が489.5万人となっている。

現役世代にとって、親の介護と仕事の両立の問題は深刻だ。在宅で介護をしようと思っても、親の状態によっては施設に頼らざるを得ないケースもある。では、いざ老人ホームを選ぶとなった時は、どういった基準で選べばいいのか。2019年より、現役世代向けに介護向けのコンテンツを発信してきた、LIFULL介護の編集長・小菅秀樹氏(44歳)に聞いた。新刊『伝説の相談員が教える幸せになれる老人ホーム探し』(発行=ホーム社/発売=集英社)を上梓した小菅氏は、全国300軒以上の老人ホームに実際に足を運んできた。

「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する...の画像はこちら >>

足を踏み入れてすぐに分かるダメな老人ホーム5選

この施設はダメだと思う特徴は多くあるというが、その中でも、最も重要な5選をあげてもらった。

1.清掃やメンテナンスが行き届いていない
2.スタッフの言葉や対応が雑
3.入居者の表情が暗い
4.スタッフの定着率が悪い
5.入居相談で、設備自慢ばかりで暮らしの話が出てこない

「10軒、20軒ほど回ると、エントランスに入った瞬間の独特の雰囲気で違いが分かるようになります。その雰囲気は建物のせいだけでなく、そこにいるスタッフと入居者の双方で作り上げられています。例えば、受付で挨拶がなかったり、スタッフがすれ違っても会釈ひとつしない施設には、何かしら問題があると感じます。逆に優れたホームは清掃が行き届いており、築年数が経っていても窓に水垢一つないなど、細かいメンテナンスがしっかりしています」

また、多くの人が施設を選ぶ際、まずはパンフレットを見比べるのではないか?それも当てにならないと小菅氏は言う。

「老人ホームのパンフレットは業者がキレイに作るので、どこも素晴らしく見えるんですよ。だから、パンフレットを見比べていても、あまり意味はないんです。建ってから10~20年経てば建物も老朽化していきます。
実際に行ってみると全く違う印象を受けることもあるので、現地訪問は非常に重要です」

「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び
老人ホームの費用相場(LIFULL介護調べ)※2025年7月31日時点
有料老人ホームの入居時費用(入居一時金)の相場は670万円。月額費用の相場は、入居時費用がある施設の場合25.6万円、入居時費用0円の場合は20.7万円だ。もちろん、都市部には億を超える入居金のかかる施設もあるので場所によってはもっと安いが、それでも高額だ。

高額な費用を支払って埃だらけの部屋で、親が暗い顔をして生活をしていたら、安心して預けられるものではない。

孤独死報道があると増える入居の問い合わせ

「私が老人ホーム紹介業に携わっていた頃、メディアで孤独死に関する報道があると、子世代ではなく、不安を感じた当事者からの問い合わせが目立っていました」

一人暮らしの80代女性が孤独死のニュースを見て不安になり、相談してきたケースがあった。女性は自立度が高い(要支援2)状態だったが、住宅型有料老人ホームに入居したという。

「『うちは住宅型なので自由な生活が送れる』と説明されたそうですが、実際は食事の時間が決まっており、1人で入浴できるにも関わらず、入浴は週2~3回。『何かあったら心配だから』と大浴場でスタッフに見守られながら入浴するのが嫌だったと言います。さらに、インフルエンザが流行すると外出禁止になり、趣味の手芸教室に通えなくなりました。女性は『ここにいる意味がない』と退去してしまいました」

施設の言う「自由」が何を指すか、具体的に確認することが重要だと小菅氏は指摘する。

「本人は一人で入浴できるとスタッフも分かっているが、会社の方針として『万が一の事があったらどうする』という理由で入浴を止めてしまう。事故がニュースになるのを極度に避ける傾向があるホームもあり、その場合、入居者の気持ちより、会社の都合やコンプライアンスを優先することが少なくありません」

そのケースでは、短期で退所したため、入居一時金はクーリングオフ制度で返還された。しかし、入居一時金についての返還条件は施設によって違うので、法的なトラブルに発展するケースもあるという。


「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び
『伝説の相談員が教える幸せになれる老人ホーム探し』(発行=ホーム社/発売=集英社)


周囲はしゃべれない人ばかりで孤立して退去

「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び
「入院した医療法人の系列の老人ホームに、退院後そのまま入居した80代前半の男性がいました。要介護1と軽度で、認知機能にも問題はありませんでした。ところが、周囲は、24時間看護師が必要な医療的なケアへの依存度が高い人ばかり。寝たきりだったり、重度の認知症で、会話の相手も見つからない環境でした。結果として、その男性は『ここでは自分の居場所がない』と感じ、退去してしまったのです」

このように、たとえ医療法人が運営し医療やケアが行き届いている施設だからといって、自分や自分の親に合うとは限らない。では、こういったトラブルを避けるためにはどうしたらいいのか。

介護で共倒れしないよう老人ホームやプロに頼るという選択肢を

「施設によっては、すでに入居している入居者と、ランチの時間に話したいと言えば、話を聞かせてくれるところもあります。中には、ミスマッチを防ぐために、『いいところも悪いところも話してください』と、すでに入居している入居者にお願いするホームもあります。短期退所は施設側も、利用者も不幸ですよね。そういった“先輩入居者”の体験を聞いてから、入居する方法もお勧めします」

最後に、子世代の心構えを聞いた。

「仕事をしながら親を支えるのは、僕自身も経験がありますが、本当に大変です。『私が看るしかない』と思い込まず、いざというときはプロに頼るという視点を忘れないでほしいと思います。

在宅で介護する場合でも、介護サービスを上手に活用して、できる限り負担を軽くすることが大切です。
ただ、身体機能は確実に衰えていきますし、認知機能もゆっくりと低下していくもの。最初はなんとかできていても、少しずつ介護の手間は増え、精神的にも体力的にも追い詰められてしまうことがあります。

子どもが限界を迎えて倒れてしまえば、親も共倒れになってしまいます。だからこそ、老人ホームという選択肢を“持っておく”ことが重要なんです。『うちは絶対に自宅で』と最初から決めつけてしまうと、いざ介護が重くなったときに、逃げ場がなくなってしまいます。無理をしすぎる前に、“任せる”という判断を選択肢に入れておいてほしいと思います」

「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び
さらに続ける。

「良いホームか悪いホームかというのは、結局のところ主観的な感覚によるところが大きく、必ずしも“価格”がそのまま“質”を表しているわけではありません。たしかに高額なホームは居室が広く、ラウンジやシアタールーム、フィットネスジムなど共用設備が充実している傾向があります。一方でリーズナブルなホームは利益を確保するために居室をコンパクトにし、共用スペースを最低限に抑えていることも多い。

ただ注意したいのは、そうした“設備の充実度”は、元気なうちは魅力でも、要介護状態になると使う機会が減っていくということです。入居者の状態によって『良いホーム』は異なります。介護が必要になった場合に、ホーム選びのポイントにしたいのは、介護が必要となった時に、どれだけ日々の暮らしを楽しめる工夫がされているか。


スタッフの人数が限られていても、近くの公園に一緒に出かけたり、季節の行事を手作りで演出したりと、入居者の目線で“何をしてくれているか”を具体的に語れるホームは、やはり素敵だと感じます」

介護はある日、突然やってくる。そのときに慌てないためにも、親子ともに納得できる住まいを、事前に探しておきたい。

<取材・文/田口ゆう>

「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び
「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び


「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び
「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び


「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び
「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び


「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び
「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び


「足を踏み入れてすぐに分かる」“ダメな老人ホーム”に共通する5つの特徴。「ここにいる意味がない」退去した高齢者の悲痛な叫び


【田口ゆう】
立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
編集部おすすめ