みなさんは「国語力」とは何だと思いますか? おそらく最初に浮かぶのは「文章を読んで理解する能力」でしょう。
『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋)にて、衝撃的な例が紹介されました。
なんと、小学校4年生の子どもたちが、ごんぎつねの葬式のシーンを「死んだお母さんを鍋に入れて消毒している」「鍋で煮て溶かしている」と解釈している様子が報告されたのです。
これは極端な例ですが、この小学生を笑える大人は意外と少ないのではないでしょうか。文章を読めていると思い込んでいる人はたくさんいますが、本当に読めている人は、ほんの一握りしかいません。
「文章が読めているはずなのに理解できない人」に足りていない最後のピースの正体をお伝えします。
国語力とは「情報を扱う能力」
国語力(読解力)とは、「書かれた文章から過不足なく情報を拾い集め、必要な時に必要な分だけ情報を引き出して提示できる能力」を指します。文章を理解するためには、記述してある単語の意味を理解する「単語力」、単語間の並べ替えや結びつきで発生する意味を補う「文法力」が最低限必要です。
これによって、1つ1つの文章の意味を正確に理解することができます。これを成し遂げてようやく「文脈理解」を考え始める準備が整うのです。
文章を理解するには、それぞれの文の理解が必要。文の理解には、単語の辞書的な意味と文法が必要。だからこそ、各文レベルで「何が・どうした」「何が・なんだ」を地道に理解していくことが文章理解の最短ルートとなるのです。
各文から得られる情報を、正確に取得することこそが国語力の神髄であり、状況によって適切に引き出せるからこそ、国語ができる学生は、理解が速いのです。
そして、意外と見落とされるのが「常識」。
「常識」が矛盾点を気づかせてくれる
次の文章はどこかがおかしいのですが、どこがおかしいかわかりますか?「市場において、売り手は商品を作ったり仕入れたりして、価格を決めます。買い手は価格が妥当だと思えば商品を購入する。売買は基本的に金銭で行われます。
市場を攻略するには「需要」と「供給」を知る必要があります。「需要」とは、「どれだけみんながその商品を欲しいか」。「供給」とは、「どれだけその商品を提供できるか」を示します。
例えば、世界に1台しかない激レアの車があったとして、これが1000億円で取引されるのは納得できるでしょう。
逆に、世界に10億台存在する車が1000億円で売られるのはありえません。つまり、需要が少なくて供給が多い場合、商品は高く売れるのです。逆に、供給が少なくて需要が多いと、価格は安くなるでしょう」
もちろん、おかしいのは「需要と供給」のバランスです。需要が少なくて供給が多ければ、誰も欲しがらないモノが溢れていき、モノの希少価値は下がるはず。ですが、文中では、そういった場合「商品は高く売れる」と説明されています。
これのおかしいポイントは、それまでの流れを見れば一目瞭然ですし、実際に想像してみても、やはり矛盾点に気付けます。市場経済の基本を知らない小学生でも解けるでしょう。ですが、「需要と供給」の概念を理解している大人ならば、考えるまでもなく正解にたどり着ける。
大切なのは創作に触れること
知識とは、理解を助けるストックされた情報の総体です。国語の問題は「以下の文章を読んで、あとの問いに答えよ」と提示されますから、「文章だけで問題が解けるようになっている」としばしば説明されます。
ですが、「文章の内容だけで解け」とは一言も言われていない。知識があればあるほどに、初めて読んだはずの文章の理解度やスピードは上がっていき、結果として「国語力」が上昇しているように見えます。
小学校4年生では、「葬式のために村の人が集まるとき、料理が振る舞われることがある」といった常識的な想像を行うのは難しいでしょう。
「おはぐろ」をつける女性の描写も、やはり葬式の準備を表すとは読み取れない。彼らの常識の中に「葬式の際におはぐろをつける風習があった」ことがないからです。
とはいえ、読解力をつけるために知識を貪るとか、手当たり次第に本を読むとかはしたくない方が大半でしょう。
そこでお勧めなのが、「創作に触れる」ことです。創作とは、文章ばかりの本だけではなく、マンガやドラマ、映画、ゲーム、演劇など様々な創作物全般を指します。
様々な文脈のパターンを知ったり、物事の構造を理解したり、人々のふるまいや言動が他者にどんな影響を及ぼすかを考えたりできるからです。
読めないのは常識不足かも
もしも辞書的な意味が理解できており、文法的な知識も足りているのに読めないならば、それはあなたの常識外の意味が、文章に含まれているのかもしれません。逆に、相手があなたの意図しない意味を読み取ってしまったのであれば、相手には自分とは異なる「常識」があるのかも。
書き言葉に限らず、すべての言葉は、発する側と受け取る側のキャッチボールですが、常に発信者と受信者の知識や能力レベル・出生文化圏などが一致しているわけではありません。そのため、時にはミスマッチも起こります。
相手に自分の言葉が伝わっていない・もしくは相手の意図がわからないと感じたならば、言い換えるなどして、別の形でのアプローチを目指す方が、建設的かもしれません。
<文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)