「成功者の言葉」は、いつも本当に正しいのか? SNSには、誰かの正しさを押しつけるような“マウント言葉”があふれています。でも、その言葉は本当に正しくて、信じるに足るものなのでしょうか?
 他人の意見に流されず、自分の価値観で選択するために必要な視点とは――。
防衛大学出身・元陸上自衛隊というキャリアを持つぱやぱやくんが、自らの体験を通して“成功者の言葉”に潜む落とし穴を語る。

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※本記事は書籍『「誰かの気持ち」を考えすぎない』(扶桑社)より、抜粋・一部編集したものです。

発言の内容よりも、発言者の立場や成果に注目してしまう

「成功者の言葉」は本当に正しいのか? 元自衛官が語る"マウント言葉"の落とし穴"
※画像はイメージです(以下同)
 SNSには、「タワーマンションは勝ち組の象徴」「結婚は25歳までにすべき」 といった「優位な立場にいる人による、自分の立場を守るための、客観性に欠けた発言」があふれています。

 私も実は、防大や自衛隊にいたころ、知らずにこのような発言をしていたことがあります。

「防大を出れば立派になれる」「自衛隊で鍛えられるから強くなれる」なんて後輩に言っていましたが、いま思えば自分が自衛隊に入隊したという選択を正当化したかっただけなのかもしれません。

 こうした発言は、単体では単なる個人の意見にすぎません。しかし、そこに「マウント」が加わると、急に説得力を持ってしまうのです。

 マウントとは相手を見下すような態度や発言のことですが、組み合わせることで「自分は成功者だから言える」というイメージを作り上げるのです。

 たとえば、「年収1000万円を稼げない男性は結婚すべきではない」という発言があったとします。これをただの意見として聞けば、「それってあなたの感想ですよね」で終わります。

 しかし、発信者が「私は年収2000万円です」「タワマン住んでます」「高級車に乗っています」といった成功アピールとセットで発言すると、急にその言葉に重みが生まれてしまうのです。

 このとき、受け手の心理には、「成功している人が言うのだから正しいにちがいない」という思考がはたらきます。発言の内容よりも、発言者の立場や成果に注目してしまうのです。


 私も転職活動をしているとき、「防大卒なら大手に入れるでしょ」「自衛官なら体力あるから営業向きですよ」なんて言われることがありました。

 実際は、防大を出ても転職で苦労することなんてふつうにあるし、自衛官だからといって営業が得意とはかぎりません。でも、私に「防大卒」「元自衛官」という肩書きがあると、なぜかその人の言葉に説得力があるように聞こえてしまうのです。

「結果を出している人の言葉は正しい」という思い込み

 さらに巧妙なのは、「あなたのためを思って言っている」という善意の仮面をかぶることです。「私のような成功者から見て、あなたは間違っている。だから教えてあげる」という態度で来ます。

 批判されても「アドバイスしているだけなのに」と言い逃れができるようになっているのです。

 では、なぜこうした発言は説得力を持ってしまうのでしょうか。

 まず、現代社会では「結果を出している人の言葉は正しい」という思い込みが強くあります。年収が高い、いい大学を出た、美人と結婚した。そうした「わかりやすい成功」を手にした人の言葉は、内容に関係なく重要視されてしまうのです。

 防大時代の私も、成績がいい同期の言葉は何でも正しく聞こえていました。

 でも実際は、勉強ができるからといって人生のアドバイスが的確とはかぎらないし、むしろ自分の狭い経験の中でしか物事を見ていないことも多かったのです。


「思考停止」の快感

「成功者の言葉」は本当に正しいのか? 元自衛官が語る"マウント言葉"の落とし穴"
スマホを手に眉間にシワを寄せる男性
 次に、自分の不安との共鳴です。多くの人は将来への不安や現状への不満を抱えています。そこに「成功者」が現れて、「私のようになりたければ、こうすべきだ」と言われると、その言葉が希望の光のように見えてしまうのです。

 藁にもすがる思いで、その言葉を信じたくなってしまうのです。

 私も自衛隊をやめようか迷っていたとき、転職に成功した先輩の「民間企業の方が絶対にいいよ」という言葉に飛びついてしまいました。

 でも実際は、その先輩と私では能力も性格も置かれた状況も全然ちがったのです。そして、「思考停止の快感」があります。

 複雑な問題を自分で考えるのは疲れます。しかし、「成功者」が「答え」を教えてくれるなら、考える必要がなくなります。思考停止は、実は多くの人にとって心地よいものなのです。

 私自身、インフルエンサーとして発信を続ける中で、このしくみの誘惑を感じることがあります。

 自分の経歴や実績を前面に出して発言すれば、多くの人が反応してくれる。フォロワーも増える。
でも、それは本当は相手のためになっていないなと感じることもよくあります。

「他人にアドバイス」という形で自慢

 そもそも、こうした言葉の背景を探ると、そこにはいくつかの動機が隠れていることがわかります。

 まず、「承認欲求の満足」です。自分の成功を認めてもらいたい、尊敬されたいという欲求が、こうした発言を生み出します。

「私はこんなに成功している」ということを証明するために、他人にアドバイスという形で自慢をしているのです。

 防大時代の私も、実は劣等感の塊だったので、後輩に偉そうなことを言って自分を大きく見せたいという気持ちがありました。

「防大生はエリートだから」なんて言いながら、実際は自分に自信がなかったのです。「優越感の確認」もあります。

 他人を指導することで、自分の立場の優位性を確認したいのです。「私の方が上にいる」ということを実感するために、わざわざ 他人に意見をしているのです。

発言者が自分の不安を消すために、他人を巻き込むケースも

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中年男性に頭を下げる若手
 さらに深刻なのは、「自分自身への説得」です。実は、こうした発言をする本人も、自分の選択に確信を持てていない場合があります。

「自分の選択は正しかった」と自分自身を納得させるために、他人にも同じ道を勧めているのです。自分の不安を消すために、他人を巻き込んでいるのです。


 私も自衛隊をやめた後、「自衛隊をやめて正解だった」と自分に言い聞かせるために、他の人にも「転職したほうがいいよ」なんて言っていた時期がありました。

 でも本当は、自分の選択が正しかったのか確信が持てなかっただけだったのです。

誰かの人生の答えを、そのまま自分の人生に当てはめる必要はない

 では、私たちはこうした発言にどう対処すればよいのでしょうか。まず、「発言者の動機を考える」ことです。

 この人はなぜこんなことを言っているのか。本当に私のためを思っているのか。それとも、他に目的があるのか。

 ぱやぱやくんそう考えることで、言葉の裏にある意図が見えてきます。自衛隊時代に教わった「違和感を大切にしろ」という言葉を思い出します。

 何か引っかかるなと感じたときは、一度立ち止まって考えてみることが大切です。

 次に、「一般化を疑う」ことです。「みんな」「絶対に」「必ず」といった言葉が出てきたら要注意です。
個人の体験を一般的な法則のように語る人の言葉には気をつける必要があります。

 人生には「答えのない問題」の方が多いのです。恋愛も、仕事も、家族関係も、明確な正解なんてありません。

「基礎知識のない問題意識は空回りする」という言葉を防大時代に教わりましたが、その人の状況を知らずに一般論で答えを出すのは危険なのです。

 そして、「自分の状況と照らし合わせる」ことです。その人の成功体験や価値観が、本当に自分にも当てはまるのか。環境も時代もちがうなかで、同じ方法が通用するのか。冷静に考えてみることが大切です。

 最も重要なのは、「自分で考える習慣」を持つことです。誰かが答えを教えてくれるのを待つのではなく、自分なりに考え、自分なりの答えを見つける。それができれば、こうした発言の罠にかかることはありません。

 成功者の言葉がすべて間違っているわけではありません。
しかし、その言葉の背景にある動機や意図を理解することで、より冷静に判断できるようになります。

 誰かの人生の答えを、そのまま自分の人生に当てはめる必要はありません。私も「何者でもない自分」として、自分なりの道を歩んでいこうと思っています。

 他人の成功体験に振り回されずに、自分の弱さを抱きしめながら、それでも前に進んでいく。そんな生き方でいいのではないでしょうか。
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