ストリートファッションブランド「Supreme(シュプリーム)」のアイテムを水道・電気・ガスが止まっても収集し続ける男、お笑いコンビ・おミュータンツの宮戸フィルムさん。前編のインタビューでは、衝撃的な接客体験からSupremeにハマった経緯や、駆け出しの芸人でありながら高額アイテムを買い漁り、借金300万円を抱えるに至った実態に迫った。

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 後編では、正統派のネタ芸人を目指していた宮戸さんがSupremeの“店員ものまね”で人気を博すようになった経緯と、自身の愛するブランドをネタにすることの葛藤について聞いてみた。

投稿してからすぐにバイトを辞められた

——そもそもSupremeの店員ものまねをやるようになったきっかけは?

宮戸:
コロナ禍のステイホームで、芸人が劇場に出られなくなって、自宅でヒゲを伸ばすのが流行っていたんです。先輩芸人「いぬ」の太田さんは体毛が濃くて、ヒゲを伸ばしたらマーベルのキャラクター「ウルヴァリン」みたいになって、SNSでちょっと注目を浴びました。僕も毛深いので目立ちたいと思って、イカつい感じにしようと、モヒカンにしてタトゥーシールを顔中に貼り、「ステイホーム」ってつぶやいたんです。

その投稿自体はあまり反応がなかったのですが、ふと自分の見た目がSupremeの店員っぽいなと思いまして……。ちょうどそのとき、Abemaで「家-1グランプリ」という自宅ネタ動画を募集する番組のエントリーがあることを思い出し、Supremeの店員ものまねをXに投稿しました。そしたら、昼飯を食べて戻ってくる間にリツイートといいねが大量につき、フォロワーも800人から2000人くらいに増えていたんです。バズった経験のある先輩や同期の芸人から「毎日やったほうがいい」とアドバイスをもらい、それから投稿をし続けるようになりました。

——その後の展開はいかがでしたか?

宮戸:
Supremeの店員ものまねを投稿した2日後に、YouTubeでの毎日投稿をスタートしました。投稿する動画は毎回何万回も再生され、チャンネル登録者数も急上昇。動画投稿を始めてから1カ月も経たないうちに収益化が認められ、その瞬間からアルバイトをしなくても生活できるほどの収益が入るようになりました。

「原宿カルチャーを壊すな」という批判も…Supreme“店員ものまね”芸人が語る「好きなものを武器にする方法」
AKIRAコラボ商品を着用する宮戸フィルムさん。バズる前だったこともあり、生活苦のため6万円で売却したとのこと…
——こうなることを投稿のときは期待していましたか?

宮戸:
SNSでものまねを投稿して知名度を獲得するのは、今では当たり前ですが、当時は僕の知る範囲ではほんの数人がバズっている程度で、やっている人は少なかったんです。だからその時は、Supremeの店員ものまねを投稿したことで生活が一変するなんて想像もしていませんでした。
せいぜい投稿をきっかけに多少知名度が上がって、ネタが受けやすくなればいいかなと思う程度で、YouTubeだけで生計を立てられるようになるなんて微塵も考えてなかったです。

コンビを解散して「絶対売れてやる」という気持ちに

——芸人さんのなかには、ネタやコントで売れることにこだわる方もいると思います。Supremeの店員ものまねで売れようとすることに対してはどのような感覚だったんですか?

宮戸:
当時はまだ芸人界に「YouTuberはサムイ」という空気感が残っていましたが、ちょうどその頃、キングコングの梶原さんやガーリィレコードさんが並行して、そのイメージを払拭してくれているところでした。「いっぱい食べてみました」みたいな動画ではなく、面白いものまねやトークといった芸人の延長線上にある芸でバズっていたから、YouTubeをやる芸人への抵抗感も緩和されていたんです。そういう状況下で、自分の好きな芸人から「めっちゃ面白い」と言ってもらえていたので、とくに抵抗もありませんでした。

——芸人活動という観点からみても、Supremeの店員ものまねをすることに違和感がなかったわけですね。

宮戸:
それに、もともと同級生の友達と組んで芸人活動をしていたのですが、コロナ禍に入る前ぐらいに解散して、当時の相方が実家に戻っちゃったんです。相方に誘われて始めたお笑いだったので、自分だけ取り残された感じがして、なんかすごく悔しくて……。もともとはネタで売れようとしていましたが、なんでもいいから絶対売れてやるという気持ちになったんですよね。そして今の相方と組んだ時あたりにコロナ禍に入り、ろくにネタもできない状況だったので、とにかく何でもやろうという雰囲気にはなっていました。

原宿のカルチャー界隈から批判の声も

「原宿カルチャーを壊すな」という批判も…Supreme“店員ものまね”芸人が語る「好きなものを武器にする方法」
お笑いコンビ「おミュータンツ」 左:川嶋おもちさん、右:宮戸フィルムさん
——Supremeの店員ものまねをすることに対して、ネガティブな意見もありましたか?

宮戸:
原宿カルチャーの一部のコミュニティからはSNSを通じて「僕たちのことをいじってるの?」という反応があったり、カルチャー系の番組に出演していた俳優の野村周平さんが、「芸人がSupreme店員のものまねをして僕たちのカルチャーを壊している」というような意見を言っていたり……。DMで「うちの彼氏がSupremeの店員なんだけど、あなたのこと嫌いって言ってたよ」とかはありました。

たしかにバズった理由には、Supremeの店員あるあるが共感を得たというか「ムカつく態度をうまくいじってくれた」みたいな声が多かったと思いますが、僕は別に悪いふうに言っているつもりは1ミリもないんですよね。「店員の態度はこうだけど、それがいいよね」というスタンスではじめているので。


——それでもくじけずに続けられたのは?

宮戸:
思い返せば不思議なことに、今まで面と向かって何か言われたことはほぼないんです。おかげさまで、すごくつらい目に遭うこともなく、続けることができました。

それに1~2年続けていたら、僕が本当にSupreme好きなことが伝わったみたいで、そういう声は一切届かなくなりました。ありがたいことに、野村周平さんも今では「Mない、Lない」とマネしてくれるようになったみたいで。もちろん、続けられた一番の理由は、いつでもダメといえたのに放っておいてくれたSupremeさんの寛大さにあると思っています。

株主視点でSupremeの動向をチェック

——もともと1ユーザーとしてSupremeを楽しんでいたと思うのですが、発信することが仕事になった現在、向き合い方に変化はありましたか?

宮戸:
発信するうえで、Supremeのことを深く調べるほど、ブランドの成り立ちなどを含めて、とんでもなくかっこいいブランドだということがわかって、よりいっそう好きになりました。

あと、Supremeの発信で生計を立てているので、極端な話、倒産したら困る。なので、今年はどんな感じで人気になるかとか、買収されてどうなるかとか、株主のような視点でSupremeの動向を注目するようになりました。

お笑いの給料だけで食べられるようになりたい

「原宿カルチャーを壊すな」という批判も…Supreme“店員ものまね”芸人が語る「好きなものを武器にする方法」
宮戸フィルムさん
——2020年から投稿を続けて、現在もSupremeの店員ネタを投稿していますが、ひとつのテーマだけでネタを投稿し続けるのは大変ではありませんか?

宮戸:
正直、ネタ切れのときは、何回もありますね。でもやめようとは思わなくて、最近は「こいつまだやってる」みたいなのが面白くなってきていると思うんです。自分が飽きないで続けていると、新鮮に楽しんでくれる人がどんどん現れるのもわかってきました。思いつかなくてツライこともあるけど、それを乗り越えて投稿を続けると、ほかの人にも面白がってもらえて、次の仕事にもつながることがあるんです。だから諦めずに頑張りたいなって感じですね。


——今後の目標は?

宮戸:
目の前の目標としては、芸人の給料でもちゃんと生活できるようになりたいです。今はYouTubeの更新に追われて、新しいことに挑戦する時間がなく、前に進めていない感覚があります。芸人として売れて、相方がアルバイトをやめられれば、コンビとしても個人としても新しいことに挑戦しやすくなる。そのためにまずは、コント師としてキングオブコントの決勝に出るのが目標ですね。

将来的には、映画がめっちゃ好きなので、映画監督をやってみたいです。国内で映画を撮る芸人さんは多いですが、ハリウッド映画が好きなので海外で作品を撮りたいですね。あとは、Supremeの創設者ジェームズ・ジェビアさんに会って、インタビュー動画を制作できたら最高です。芸人は何を目指してもいい職業だと思うので、いろんな挑戦がしたいと思います。

 *  *  *

 芸人としての夢を追いながら、好きなブランドを題材に自分の武器へと昇華させてきた宮戸フィルムさん。借金生活から始まり、YouTubeのバズを経てたどり着いた現在地は、まだ通過点にすぎないのだろう。

 コント師としての頂点や映画監督という大きな目標に挑む彼の姿勢は、Supreme同様に“カルチャーを作る側”へと進化していく可能性を秘めている。今後も彼の活躍から目が離せない。


取材・文/福永太郎

【福永太郎】
株式会社メディアジーンのプロダクト部門のメンバーとして、自社メディアを中心としたコマースコンテンツ記事を制作。現在はフリーとして活動し、メーカー・著名人・各分野の識者へのインタビュー、レビュー記事作成を行う。ビジネス・実用書のブックライティングも多数担当。
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