妻が夜中に突然叫ぶ「クルド人が来る!」
私はミュージシャンやフリーライター、不動産業務などで生計を立てている49歳男性である。妻と中学生の娘と平穏な日々を送っていたが、コロナ禍の3年間をきっかけに、家の空気がガラリと変わるのを目の当たりにした。しかし、まさかこんな事になるとは思いもよらなかった。最初に変わったのは妻だった。コロナ禍直後から陰謀論に染まり始め、当初は「統合失調症になったのか」と本気で驚いたが、今は私が慣れてしまったのか落ち着いたようにも見えている。
きっかけはSNSだった。歯科医で参政党の元共同代表・吉野敏明氏の発信に触れ、「添加物や毒にまみれた世界を変えようとしてくれている!」と感銘を受けたらしい。政治には無関心だったはずが、急に街宣活動にも参加するようになった。
「アンチが多いってことは、それだけ正しいことをしてるってことなのよ」
妻はスマホを握りしめ、真剣な顔でそう言った。
「利権で税金を食い物にしてる不良外国籍の人たちを参政党はちゃんと指摘してる」
私が「そんな極端な……」と口を挟むと、「あなたも調べなさい。知らないくせに否定するのは一番危ない」と返ってくるのだった。
夜中に突然起き上がり、「クルド人が来る!」と叫んだこともある。あのときの驚きは今も忘れられない。
他にも気になっている政党は、日本保守党とチームみらいだそうだ。
「参政党は右翼的、ナチス党の再来なんて揶揄されているけど、右翼とか左翼とかではなく日本の未来、子どもたちの未来を考えてほしい」と話す。
中学生の娘まで陰謀論に染まってしまう。その原因は何と彼氏の母親
中学生の娘は、最初はそんな母親の陰謀論を笑っていた。妻が“フラットアース”(「地球は平らである」とする説)を語れば、「じゃあ夏休みに地球の端っこまで行ってみようよ~」と茶化すほどだった。
だが、そんなやり取りも長くは続かなかった。
「日本が不良外国人の食い物にされてる! 許せない!」
「売国奴の自民党が、日本を外国に売り渡してる!」
ある日、学校から帰った娘がそう口走ったのだ。
原因は、初めてできた彼氏の母親だった。妻とはまったく別のルートだが、その母親も筋金入りの反ワクチン派で、「ワクチンを打った人間は五体満足な子供を産めない」と信じていた。ワクチン未接種の娘を気に入り、親しくなる中で、参政党の主張が娘の中に浸透していったのだ。
熱心な娘の姿に絆され、苦悩の末に下した決断
娘は「夫婦別姓は帰化人の政治参入を増やし、日本を滅茶苦茶にする」という考えを強く支持するようになった。SNSや学校でも参政党支持を公言し、「アンチは本物の日本人か?」とまで言う。曰く、「学校でも参政党は本当に人気」なのだという。そして、こう捲し立てた。
「日本に巣食う不良外国人を一掃してほしい。例えば難民申請を悪用する不良外国人、生活保護をあてにしたり税金で負担してもらえる医療費や補助金を目当てにやってくる不良外国人、日本に不利な法案を定めようと政治参入を目論む不良外国人とか。何より、日本に入ってくる外国人を厳選するようにしてほしい。
これは外国人差別などではなく、正当な区別なんだよ。正しく日本観光を楽しんだり、日本が大好きで日本人になろうという方は大歓迎だから。
あと、一刻も早くスパイ防止法を制定して、やりたい放題の不良外国人を一気に取り締まってほしい。参政党は今の政治家の中から帰化人を全て洗い出すということも公言してくれているから、その調査報告をすごく楽しみにしてる」
今では、街宣活動を見に行くほどの熱心さだ。
こうして妻と娘は、それぞれ別の経路から参政党支持者となった。家の中では、私一人だけが中立派で孤立状態だった。
「お父さんも投票しようよ。日本の未来のためなんだよ」
娘の真剣な目を前に、私は言葉を失った。熱量の差は歴然だった。
そして参院選当日、私は最後まで迷った。だが、娘があまりにも真剣で、街宣にも足を運び、積極的に動く姿を見て、「応援したい」という気持ちだけで投票を決めた。それ以外の理由は全くない。
結果、私の一票も参政党の躍進に加わった。
私はもともと、周囲が「普通の人」であるよりも、奇人変人であるほうが落ち着くタイプだ。それに陰謀論をネガティブにしか見られなかった私だが、娘にとってはそれが人間関係を深める要素にもなっていると考えると、頭ごなしに反対はできなかった。
特に娘は熱病にかかったようなもので、大人になれば正しい方向に進んでくれるはずだという淡い期待もある。
家族の絆か、自分の信念か――その答えはまだ出ていない。望むのは“家族の平穏”、それだけであることは確かだが……。
【ニポポ】
覆面テクノユニット『トンガリキッズ』の元メインボーカル。現在はフリーライターや不動産業務などで活動。【超ニポポの怪しい動画ワールド】をほぼ毎週水曜21時より生放送中