川崎重工業と自衛隊との間で長年の癒着があったことが明らかになりました。潜水艦の修理を請け負っていた川崎重工神戸工場の担当部門が下請け会社に架空の業務を発注。
6年間で17億円もの裏金を捻出し、乗組員に対して物品を提供していたのです。
 こうした癒着は40年前から慣例化しており、表面化したのは氷山の一角でした。潜水艦を取り巻く構造的な問題点があったのです。

裏金は6年で17億円…川崎重工と自衛隊員の長年にわたる癒着「...の画像はこちら >>

修理の担当部門と乗組員が親密になる土壌が

 防衛省が公開する「令和6年度調達実績」によると、川崎重工製の「潜水艦(8135)」の調達金額は565億円と記されています。「令和5年度調達実績」では、三菱重工業の「潜水艦(8134)」が480億円でした。

 日本で潜水艦の製造を行う会社は川崎重工と三菱重工の2社のみ。その取引額は1隻数百億円と巨額であり、潜水艦はおよそ3年に1度、10カ月程度の定期検査が行われます。修理期間中は企業が乗組員に対して寄宿舎を提供するなど、修理の担当部門と乗組員が親密になる土壌がありました。

 川崎重工は癒着が起こった要因の一つに「乗員と接する機会が多く、また、乗員と良好な関係性を構築・維持することで、自身の業務を円滑に進めなければならない立場にあった」ことを挙げています。

50万円相当の私物を受け取っていた乗組員も

 極めて特殊な商環境のなか、数十年単位で馴れ合いとも言える親密な関係が構築されていました。

 乗組員の要求は多岐にわたっており、モニターやケーブル類、ライト、雨具、工具などの艦内で使う必需品から、ポータブル冷蔵庫、炊飯器、コーヒーメーカーなど共用物品として使用するもの、そしてゲーム機、ゲームソフト、キャディーバッグ、バイク用レーダー探知機、ドライヤー、釣具、高圧洗浄機など私物として使うものも数多く含まれていました。中には1人で合計50万円相当の品物を私物として受け取っていた乗組員もいたといいます。

 そのほか、会社側がビール券の提供や飲食代の全額負担をしたケースもありました。

 一方、要望する物品を受け取る代償として、会社が行うべき点検や清掃作業の一部を乗組員が協力していた事例も発覚しています。
つまり、持ちつ持たれつの関係が構築されていたのです。

過酷な生活で物資不足にも悩まされる

 私物はともかくとして、乗組員が艦内で使用するものを要求していたのはなぜでしょうか。そこには、乗組員に対して必要なものを十分に補給できないという潜水艦ならではの問題点が潜んでいます。

 乗組員が正規に物品を要望できる機会は年に2回しかありません。そして要望を出してから納品までに半年程度の時間を要することもあります。そもそも狭い艦内に持ち込めるものは少なく、限られた任務期間中に行う潜水艦の検査・修理等の実状と供給体制が合致していなかった可能性があるのです。また、予算の制約もあり、要望どおりの調達が行える保証もありませんでした。

 雨具や防寒具については、潜水艦という過酷な環境の中、官品の性能に乗組員が満足していなかった可能性も高いと考えられています。

 もともと潜水艦での生活は過酷なことで有名。水の使用は制限され、入浴設備はシャワーのみ。十分なプライベート空間もなく、潜水中は換気もできません。数十日の任務期間中、限られた乗組員との共同生活を強いられるのです。

 高ストレスにさらされ、満足できる物品の調達もままらない中、長年の慣例に従って企業の修理担当部署に要望を出し続けていたのでしょう。


裏金は6年で17億円

 一連の不祥事が発覚したことで、防衛省は海上自衛隊のトップ斎藤聡海上幕僚長を減給10分の1の懲戒、隊員92人を訓戒や注意とする処分を発表しました。川崎重工も常務執行役員の退任、会長や社長、副社長などの役員報酬一部返上を決定しています。

 川崎重工の裏金は6年で17億円だったことが明らかになっています。一方、潜水艦は巨額の取引を行っているため、請求額に物品の購入に必要な費用を乗せていたのか、会社が身銭を切っていたのかまではわかりません。

 しかし、国民の自衛隊に対する不信の目は簡単に払拭できないでしょう。

 2025年度の防衛費はGDP比で1.8%になっており、2024年度から0.2ポイント上昇しました。政府は2027年度に2%達成を目指しています。防衛費は増額されているのです。

 増額を決めたのは岸田政権。当時は防衛費の増額には財源が欠かせないとし、増税への布石としていました。

防衛費は過去最高の8.7兆円に

 円安によって相対的な購買力は下がっており、防衛費の引き上げはやむを得ない部分もあります。潜水艦を巡る報告書では乗組員が艦内で使用する物品の調達にすら困っている様子が明らかになっていました。現時点で補給も十分ではない可能性があるのです。


 しかし、防衛費は国民の税金であり、2025年度は過去最高の8.7兆円に及んでいます。造船会社との癒着で、乗組員がゲーム機やフィットネスバイクを受け取っていたと知れば、心中は穏やかではいられません。どうしても不信の目を向けることになってしまいます。その結果として、防衛費の増額に反対する声も強くなるでしょう。

 自衛隊も企業も再発防止策を粛々と進め、国民の信頼回復に努める必要があります。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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