しかしながら、こちらに悪気はなくとも“マナー違反”と見られてしまう可能性もある。
今回は、混雑した電車内で、一方的に“心無い態度”をとられたという2人のエピソードを紹介する。
市電停留所で“無言”の圧
「毎朝、市電で通勤しています。乗り場に着くと、その日もたくさんの人が並んでいました」木村美咲さん(仮名・30代)が利用する路面電車の停留所は、田舎ながらもJRへの乗り継ぎ客が多く、混雑することで知られている。そのため、混雑時には「二列で並ぶ」という暗黙のルールが定着していた。
「その日は時間も押していたので、前列の空いた場所に並びました。ルールを無視したつもりはなかったんですが……」
その瞬間、後ろの列にいた日傘を差した若い女性が、不満そうに眉をひそめた。このときはまだ、この視線が“のちに起こる出来事の前触れ”だったとは、思いもしなかったという。
ヒールのかかとで嫌がらせを受け続けて…
電車が到着し、木村さんは列の順番通りに乗り込んだ。すると、“まさかの事態”に発展した。車内は通勤ラッシュの時間帯で混んでいたのだが……。
「先ほどの女性にヒールのかかとで足の甲を何度も踏まれたんです」
最初は電車の揺れが原因だと思ったそうだが、足を踏む動きや体を押し倒す力加減は、明らかに“意図的”だった。
「満員電車で押される感覚とはまったく違っていました。
女性は、木村さんの足を何度も踏みつけた後、人混みをかきわけて前方の出口へと移動。スマートフォンを見ながら、何事もなかったように立っていた。
「その無表情が、逆に無言の攻撃みたいに感じました」
女性は、地元百貨店の最寄り駅で降り、木村さんは次の駅で下車した。その日以来、同じ人物を見かけることはないという。
「まさか毎日使う市電で、こんな目に遭うとは……。あの足の痛みや押され続けた恐怖は、今でも忘れられません」
「肩がぶつかって…」謝罪直後に飛んできた“おばさん”呼ばわり

しばらくすると、電車が急にガクンと揺れた。
「隣のスーツ姿の中年男性と、肩が思いっきりぶつかってしまったんです」
もちろん、ワザとではない。混雑した車内では避けようもない距離だった。それでも鈴木さんは、反射的に口にした。
「すみません」
しかし、その男性は一瞥すらせず、吐き捨てるように、
「ぶつかってくるなよ、おばさん」
その瞬間、鈴木さんに怒りが込み上げた。
「……は? お、おば、おばさん? ちゃんと謝っているのに、なんでそんな言い方をされなきゃいけないのか。
しかも男性は、“謝罪を受けて当然”という態度。人を見下すようで腹立たしくなったという。
「言い返したい気持ちがありましたけど、混雑と揺れで身動きもとれずに、そのまま距離が離れてしまいました」
朝から最悪な気分
周囲の乗客はスマートフォンを見たり、ぼんやり立っていたりするだけで、この出来事に気づいた様子はなかった。
「その無関心さにもイライラしました。感情だけが置き去りにされたみたいで、涙が出そうでした」
鈴木さんが改めて窓に映った自分の顔を見ると、険しくこわばっていたそうだ。
「朝からこんなことで気持ちが乱されるなんて、本当に最悪です。次に同じようなことがあったら、心のなかで、『うるさいよ、おじさん!』って言い返してやります」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。