尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領は夫人の収賄疑惑などで支持率が急落するなか、昨年12月に非常戒厳を宣布。今年1月に内乱罪で起訴され、4月4日に弾劾訴追案が可決されて、即日、大統領を罷免された。
その結果、急遽行われた大統領選挙で当選したのが、野党「共に民主党」の李在明氏だ。
少年工から弁護士、そして大統領という苦労人の側面が強調されるが、過去には「日本は敵性国家」など過激な物言いに“韓国のトランプ”とも揶揄されていた李大統領。
一体、どんな人物なのか? 韓国出身の作家・シンシアリー氏の新著『韓国リベラルの暴走』(扶桑社新書)から抜粋し、今後の日韓関係の行方を占う。
李在明という人物

詳しいことはこれから少しずつ記しますが、一般的に「左派」とされる李在明大統領はどんな人でしょうか。
少年時代から工場に通うなど、貧しい成長期を過ごし、法律を勉強して成功し、政治家になり、大統領にまで上り詰めた男。こうして書くと、本当に立派なものです。
同時に、別の側面を見てみると、各種法律違反でいくつも裁判を受けていて、まだ裁判も終わってないのに大統領になりました。
大統領選挙に出るのは別に違法ではありませんが、他の国なら、裁判を受けている時点で、すでに大統領選挙に出馬しなさそうなものです。こういうところを見ると、反語的に「立派」です。
しかし、本書で私が書きたい「彼」の人物像は、そうした彼の波乱の人生を描く感動ストーリーではありません。良い側面も悪い側面も、どこで生まれてどう育ってなど、そんなふうに書くと、それはかなり厚い本になってしまうでしょう。
ですから、本書のテーマに沿って「彼はどういう人なのか」を考える必要があります。
「杞憂で終わってくれるのが一番」しかし
本書は、3つの原則によって書かれています。これは他の拙著でも同じですが、「私が私に嘘をつかないで書くこと(自分の考えを率直に書くこと)」、「人身攻撃などにはならないよう、書き方に気をつけて最低限の礼儀を守る」、「結果良ければ、それで良し」です。過去に李大統領がどんなことを言ったとしても、どんな間違いを犯したとしても、私が彼のことをどう思っていようと、今、日本の「隣国」の大統領として、彼が5年間うまくやっていくなら、それで良い。
本書は杞憂で終わるでしょう。しかし、残念ながら今の私は、とてもそうは思えません。
そこで、「彼はどういう人なのか」という問いについて、本書は「日韓関係に影響しそうなこと」という側面からアプローチしていきます。
言い換えれば、それは左派という思想的な側面の話にもなります。どんな人なのかをすべて語るわけではなく、日韓関係、単に日本と韓国だけの関係ではなく、日本、米国、中国、そして北朝鮮、いわゆる「陣営」絡みの側面からのアプローチ。
そこまで範囲を絞ると、李在明大統領の過去の「3つの発言」が浮かび上がります。これで、本書もあまり「厚く」ならずに済むことでしょう。
市長時代の「日本は敵性国家」発言

その2は、「韓国は親日と占領軍によって出来た国」発言。
その3は、「中国にも台湾にもシェシェ(中国語で感謝を意味する「謝謝シェイシェイ」の韓国語読み)すればいい」発言です。
「親日・占領軍」と「シェシェ」は、李在明大統領が「どんな人物なのか」について自分の持論を書きながら、流れの必要に応じて取り上げる形にしていきます。
ここではまず、日本という字がハッキリ出てくることもあるし、「聞いたことはあるけど詳しくはわからない」という方もおられると思いますから、「日本は軍事的に敵性国家」発言について説明いたします。
この発言は日本でもとても有名で、一時、ネットを中心に大反響(悪い意味で)を巻き起こした発言です。
日本メディアも「悪い予感」と反応していたが…
李在明さんが大統領になったとき、日本でも複数のメディアがこの発言を論拠に「悪い予感しかしない」という旨の記事を載せましたが、さて、詳しくどんな発言だったのか、当時の記事から振り返ってみましょう。2016年12月、韓国の首都圏である「京畿道(キョンギド)」、そこの城南市の市長であり、すでに韓国の左派陣営において強力な支持基盤を構築していた李在明市長は、NHKの記者の質問に対し、「軍事的には日本はまだまだ敵性国家」と話しました。
同年11月にもSNSに同じ主張をしたことがありますが、日本の記者の質問に堂々と話したことで、この12月の発言のほうが大きな話題になりました。
以下、当時の記事(『聯合(れんごう)ニュース』、2016年12月14日「李在明『日本、軍事的には韓国の敵性国家』」)から該当部分を引用してみます。
盧武鉉(ノムヒョン)政権の人材を登用
当時は、朴槿恵(パククネ)政権のときです。日本とのGSOMIA、日韓合意(慰安婦合意、2015年12月28日)などで、朴槿恵政権は支持率的に大きなダメージを負いました。韓国で、このような日本関連事案で日本側に同調する動きを見せると、すぐ「親日派」「売国奴」などと叩かれます。もちろん、彼女は親日でもなんでもありませんが。
実は彼女は、「加害者と被害者の立場は1000年経っても変わらない」(どんな謝罪や賠償を受けても永遠に変わらない、という意味)など、反日発言が結構目立つ人でした。
それから後任の文在寅大統領が、日韓合意で作られた財団の解散を一方的に日本側に通知し、GSOMIAも破棄しようとしましたが、米国側の圧力などで破棄できませんでした。
また、確実な情報ソースは明らかになっていないものの、この「日本は敵性国家」発言は、実は李在明氏のオリジナルではなく、2003年から2008年(2月)まで大統領だった盧武鉉(ノムヒョン)大統領が米国側も参加した会議で提案したものだとの主張もあります。
〈文/シンシアリー〉
【シンシアリー】
1970年代、韓国生まれ、韓国育ちの生粋の韓国人。歯科医院を休業し、2017年春より日本へ移住。2023年帰化。母から日韓併合時代に学んだ 日本語を教えられ、子供のころから日本の雑誌やアニメで日本語に親しんできた。また、日本の地上波放送のテレビを録画したビデオなどから日本の姿を知り、日本の雑誌や書籍からも、韓国で敵視している日本はどこにも存在しないことを知る。韓国の反日思想への皮肉を綴った「シンシアリーのブログ」は1日10万PV。『韓国人による恥韓論』『韓国人の借金経済』など著書多数