8月23日(土)~24日(日)に韓国の李在明(イジェミョン)大統領が来日し、石破首相との首脳会談に臨んだ。韓国は、昨年から国政が大混乱に陥っていた。

 尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領は夫人の収賄疑惑などで支持率が急落するなか、昨年12月に非常戒厳を宣布。今年1月に内乱罪で起訴され、4月4日に弾劾訴追案が可決されて、即日、大統領を罷免された。

 その結果、急遽行われた大統領選挙で当選したのが、野党「共に民主党」の李在明氏だ。

 年工から弁護士、そして大統領という苦労人の側面が強調されるが、過去には「日本は敵性国家」など過激な物言いに“韓国のトランプ”とも揶揄されていた李大統領。

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 一体、どんな人物なのか? 韓国出身の作家・シンシアリー氏の新著『韓国リベラルの暴走』(扶桑社刊)から抜粋し、今後の日韓関係の行方を占う。

「ウリ金日成」ともとれる発言

韓国・李在明大統領「ウリ北朝鮮」発言の波紋。知られざる“北朝鮮観”を韓国研究の第一人者が詳説
※画像はイメージです(以下同)
 ここで面白い(実はちょっと怖い)エピソードを一つ紹介します。2014年、共に民主党の代表だった李在明代表が、北朝鮮のことを「ウリ北朝鮮」と言ったことがあります。

 左派思想家といってもその流派を明確に特定するのは難しいのですが、おおむね北朝鮮についてなにか特別な感情があるのは間違いないでしょう。

 しかもこの発言は、文章の流れや読み方によっては、「ウリ金日成(キムイルソン)」とも受け取れる内容でした。今、振り返っても本当に面白いエピソードです。

 本当は面白くない気もしますが、20年近く韓国関連で本やブログを書いてきたせいか、こういうのが面白く感じられるから困ったものです。

 皆さん、韓国語で「ウリ」という言葉を聞いたことがあるかと思います。たとえば、自宅に友人が遊びに来て、その友人に自分のお父さんを紹介するとしましょう。


 その際、韓国人はたとえひとりっ子でも「ウリ(私たちの)お父さんだよ」と言います。「私のお父さん」とは言いません。

 なぜかはわかりませんが、「私たち」(「私たちの~」)を意味するウリという言葉は、韓国人にとって特別な意味を持ちます。国歌にも「ウリナラマンセー(私たちの国 万歳)」という歌詞が出てきます。

“ウリ”に込められた心理とは

 韓国では、これこそが韓国人の共同体意識を表すものだとして肯定的な側面が主流意見となっていますが、一部の学者からは、自分が属した集団だけの利己主義(社会全体より自分の群れだけを重視する)、法律より私的な関係を重視するなどの副作用を懸念する声も上がっています。

 少し話がズレますが、中央大教授で文化心理学者の崔詳鎮(チェサンジン)氏は、韓国人はその「ウリ」のなかでの私的な人情や義理だけを優先するため、現代社会が必要とする(社会全体での)公平や共助などの価値観とは相容れない心理を持っているとしています(『京郷新聞』1992年2月8日「人情の罠」より)。

 この方はすでに故人ですが、私が今まで読んだ韓国人の心理に関する論文や書籍のなかで、もっとも納得できる見解を述べていた方です(指摘されている内容が、実際の社会で起きている副作用とほぼ一致する)。

 特に今でも超・名言だと思っているのが、「自分(原文では『個人』)というのは、『他人と異なる私』のはずなのに、韓国人は自分というものを『他人より優れた私』だと思っている」という内容です。

 個人的に、この見解は心理というより真理を射抜いていると思っています。

 このように、韓国人にとっては特別な意味を持つ「ウリ」という言葉。

 私は韓国での経験からして、この言葉が好きではありませんが、先ほどの「私たちのお父さん」のように一般生活でも使わないわけにもいかない言葉なので、親の墓参りで訪韓したときにはしぶしぶ使っています。

一貫した「親北朝鮮」

韓国・李在明大統領「ウリ北朝鮮」発言の波紋。知られざる“北朝鮮観”を韓国研究の第一人者が詳説
北朝鮮国旗
 さて、ウリについて説明したところで、李在明大統領の「ウリ北朝韓(私たちの北朝鮮)」発言を少し詳しく紹介します。

 2024年1月、それまでは「1つの国家しかない(韓国と北朝鮮のうち、どちらかは国家ではない)」としてきた北朝鮮が、「敵対する2国家」と南北関係の前提そのものを修正しました。

 そんななか、李在明氏は共に民主党の最高委員会議で、「北朝鮮が私たち民族の関係を受け入れず、大韓民国を不変の主敵と規定したわけだ」としながら、現状への懸念を示しました。


 1つの民族だから1つの国にすべきだけど、現実的にできないでいるだけという既存の関係ではなく、統一の必要性そのものが否定されてしまったという意味になります。

 当時の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は「北朝鮮が挑発するなら、もっと強くやり返す」という旨を表明していましたが、李在明氏はそれを非難しながら、「このままだと本当に戦争になるのではないかと、国民の不安が大きくなっている」、「北朝鮮に対する敵対的強硬政策を、今すぐ転換しなければならない」、「私の家に隣の家の人が小石を投げてきたからといって、大きな石を投げたところで、それが何の役に立つというのだ」と、よくわからない理屈を展開しました。

“ウリ”の用法を踏まえて直訳を読んでみると…?

「ウリ北朝鮮」発言は、そのときのことです。以下、発言の部分は直訳しました。

〈文/シンシアリー〉

【シンシアリー】
1970年代、韓国生まれ、韓国育ちの生粋の韓国人。歯科医院を休業し、2017年春より日本へ移住。2023年帰化。母から日韓併合時代に学んだ 日本語を教えられ、子供のころから日本の雑誌やアニメで日本語に親しんできた。また、日本の地上波放送のテレビを録画したビデオなどから日本の姿を知り、日本の雑誌や書籍からも、韓国で敵視している日本はどこにも存在しないことを知る。韓国の反日思想への皮肉を綴った「シンシアリーのブログ」は1日10万PV。『韓国人による恥韓論』『韓国人の借金経済』など著書多数
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