移動に欠かせない交通手段のひとつである電車。しかし、通勤や通学の時間帯は混雑するため、殺伐とした雰囲気がある。
車内では譲り合いの精神を持って、お互い気持ちよく過ごしたいものだ。
 今回は、朝の混雑した電車内で、周囲への配慮が足りず、“モヤモヤ”が残ったという2人のエピソードを紹介する。

朝の急行電車で見かけたベビーカー

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 木村直哉さん(仮名・20代)は、通勤ラッシュの時間帯にホームで急行電車を待っていた。

「朝はいつも混んでいますけど、この日はとくに人が多かったです」

 電車に乗り込み吊り革をつかんで落ち着いた瞬間、視線の先に“ベビーカーを押す女性”が立っていたという。

「赤ちゃんは寝ていました。タオルもかけられていてかわいい光景でした。でも、この混雑のなか乗ってくるのかな……とも思いました」

 女性は一般車両のドア付近におり、体をやや前に傾けてベビーカーを支えていた。周囲の人は自然と距離をとっていたが、そのわずかな空間もすぐに埋まるような状況だったようだ。

優先席や専用車両ではなく…

 次の駅でさらに人が乗り込み、ベビーカーの周囲は身動きがとれないほどになった。

「うわ、これ押されたら危ないな」

 隣の男性が押し出されるように車輪に足をぶつけ、「すみません」と小声で伝える。女性は軽くうなずき、赤ちゃんのブランケットを直した。

「女性は周囲に目を向けることなく、その場に留まり続けていました」

 数駅を過ぎ、混雑が少し和らいでも、女性は優先席付近や女性専用車両へ移動する様子はない。

“なんで、この車両に留まっているんだろう?”
“めんどうくさいのかもしれないけど……”

 と木村さんは思っていたという。

「申し訳なさそうな素振りもなく、まるでこれが当たり前というように満員電車に乗っている……その姿にちょっと違和感を覚えましたね」

 やがて目的の駅に到着した。
降車時には周囲の乗客が自然と道を空けて、女性がベビーカーを押しながらホームに降り立った。

「降りるときに“すみません”とか“ありがとうございます”とか、ほんの一言でもあれば、きっと私の受け止め方も違ったと思います」

混雑時に通路をふさぐ外国人観光客の“キャリーケース”

満員電車で通路を塞ぐ外国人観光客のキャリーケースに“イラっ”。乗客の足に当たって…
キャリーケースを持つ女性
 松井里奈さん(仮名・20代)は、会社に向かうため、いつものようにホームに並んでいた。

「乗車口の前がふさがっているなと思ったら、全部スーツケースだったんです」

 黒や赤、銀色の大型キャリーケースが、ドアの左右に並んでおり、持ち主は外国人観光客のグループで、2つ抱えている人もいたという。

「本当に入り口が“壁”みたいで、列の後ろの人たちも困った顔をしていました」

 電車が到着すると、彼らは笑顔で会話をしながら先に乗り込み、キャリーケースもそのままドア付近に置いた。奥に進む気配はなく、松井さんやほかの乗客はキャリーケースの間を、体を横にしてすり抜けるしかなかった。

「混んでいるのに……正直“イラっ”としましたね」

 発車後、揺れに合わせてキャリーケースが動き、近くに立っていた人の足に当たった。小さな声で「イタッ」と漏らした乗客に、観光客の一人が軽く声をかけたのだが、キャリーケースを固定する様子はなかったそうだ。

「何度か別の場所にもぶつかっていて、見ていてヒヤヒヤしました」

 次の駅で降りようとした男性が、「Excuse me」と声をかけると、キャリーケースは少しだけ動かされたものの、通路が広くなったわけではなかった。男性は、狭い隙間をかきわけるようにして降りていったという。

 やがて、松井さんの降車駅に到着。キャリーケースと人の間を縫うように出口へ向かい、ホームに降りた瞬間、思わず大きく息を吐いた。

「観光にくるのはいいけど、せめてもう少し周りに配慮してほしいなと思いました」

 電車では個人のマナーが大いに問われる。
だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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