SNSでの情報収集・発信が当たり前となった今、“一風変わった”使われ方が話題になったのが天気予報アプリ「Yahoo!天気」だ。
同アプリの「みんなの投稿」機能は、ユーザーが今いる場所の天気や体感を投稿し、地図上でみんなにシェアできるというもの。


だが、天気に関する状況をシェアするだけではなく、「セミがうるさい」「夜ご飯何にしよう」といった本来の用途からは逸脱した投稿が脚光を浴び、Xを中心にバズったのだ。

さらに、人気音楽アーティストとして知られるMrs.GREEN APPLEの野外ライブの音漏れによる騒音問題も、ライブ会場から漏れた音が届いている地域を可視化する“ツール”として機能するなど、意外な使われ方にも注目が集まった。

若者たちが「Yahoo!天気」をSNSとして利用するワケ。開...の画像はこちら >>
「天気予報アプリがSNSとして使われるのは、全くの想定外で本当に驚いた」

そう語るのは、LINEヤフー株式会社 メディアカンパニー メディア統括本部の平井 康文さん。Yahoo!天気の意外な使われ方が話題になったことで、どのような反響やエピソードがあったのか。平井さんに話を聞いてみた。

天気予報アプリが“SNS化”し、若者に受け入れられた背景

Yahoo!天気アプリは2010年にAndroid版、2012年にiOS版がリリースされた老舗サービスで、これまでに累計6,600万ダウンロードを突破した、まさに“定番”の天気予報アプリだ。

「みんなの投稿」の前身である「みんなの天気」機能は、2021年から提供を開始したという。その後、2025年2月に「雨雲レーダー」などを確認できるレーダー画面に統合され、雨雲レーダーと同じ地図上でユーザーの投稿が見られるようになった。これが、今回のSNS利用で盛り上がった背景のひとつだと平井さんは言う。

「実はユーザーが投稿できる機能自体は、2009年からWeb版の方で開始していました。アプリがリリースされてからも機能は存在していましたが、当時は別の地図が開くような仕様になっていたんです。

それをより使いやすくするため、2025年2月のリニューアル時にマップ機能をレーダー画面に集約し、タブを切り替えるとユーザーの投稿が見られるようにしました。さらに、6月にはユーザーの過去の投稿を時系列表示できるアップデートを行いました(Androidのみ)。
そうしたところ、これまでより多くのユーザーの目に触れる機会が増えたのだと思います」(平井さん、以下同)

若者たちが「Yahoo!天気」をSNSとして利用するワケ。開発側は「あくまで“天気アプリであること”を最優先」
「みんなの投稿」機能(写真左)と「時系列表示」機能(写真右)
既存のSNSでは、「いいね(ライク)が欲しい」「フォロワー数を伸ばしたい」といった承認欲求に左右されがちだが、「みんなの投稿」は純粋な日常をつぶやける“ゆるさ”が、SNSネイティブの10代~20代の若者に支持される要因になっている。

「以前のTwitterのように、シンプルな一言コメントが地図上にプロット表示されるのですが、ユーザーにとっては『地図×つぶやき』という組み合わせが新鮮で、意外性や面白さを感じさせたのだと思います。また、地図という場所軸で面白い投稿を探索できる楽しさも、自然とX(旧Twitter)上で拡散されるようになった理由のひとつだと考えています」

シンプルかつ不完全な仕様が逆に功を奏した


若者たちが「Yahoo!天気」をSNSとして利用するワケ。開発側は「あくまで“天気アプリであること”を最優先」
平井康文
その一方で、SNSとして使われるとは全く予想していなかったと平井さんは話す。

「Yahoo!天気は、マップ機能やコメント機能も含め、全体的に非常にシンプルで、既存のSNSにあるようなリッチな機能は備わっておらず、ある意味で『いかにシンプルに作るか』という思想が当初からありました。それが結果的に、ユーザーが魅力的に感じた部分ではないかと考えています。

特に特徴的だったのは、“不完全さ”とも言える仕様です。例えば、連続投稿ができなかったり、投稿が数時間で消えてしまったりという設計が、むしろZ世代の利用スタイルに非常にフィットしたのではないかと感じています」

2025年7月くらいからYahoo!天気のSNS利用が急激に広がり、爆発的に利用ユーザーが増えたという。

一体、どのようなユニークな使われ方がされているのだろうか。

平井さんは面白い投稿の例について教えてくれた。

「ユニークなところだと、『今日僕誕生日なんだけど』と投稿したら、近くにいる人たちが思いがけずお祝いしてくれるような、“サプライズ感”のある投稿の繋がりが印象的でした。

また、趣味嗜好に関連する楽しみ方もありまして、野球の試合に関する情報や投稿が見られたり、球場での面白いつぶやきに出会えたりするんです。こういった趣味や関心をきっかけにした繋がりも、Yahoo!天気ならではの価値だと感じています」

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さらに、「位置情報」に関連した一風変わった投稿も見られたという。

「ユーザーが琵琶湖の真ん中で投稿されていたりとか、ディズニーランド付近の海上でつぶやいていた投稿は面白かったですね。位置情報の中でどう面白くさせるかという独創性や意外性が際立っている投稿は、注目を集めやすいと感じています」

Yahoo!天気はフォロワー機能やいいね機能などがなく、投稿も数時間で消えてしまう。
SNSとしては物足りなさを感じてしまうが、だからこそ、数字に振り回されることなく、誰でも気軽に投稿できる世界観がつくられているわけだ。

現代のSNSに見る「殺伐さ」や「過激さ」とは異なる、「癒やし」や「ほっこり」といったユーザー体験が、若年層を中心に受け入れられているのではないだろうか。

「重要なのは『誰が発信したか』ではなく『何を発信したか』で、インフルエンサーかどうかに関係なく、個々のユーザーが独創的な発想で投稿することに価値があると思っています。ユーザーに何かが還元されなくても、単純に『喜ばせたい』という利他的な動機が伝わってくるんです」

現代では、過度な承認欲求や情報過多による“SNS疲れ”が問題視されているが、Yahoo!天気は表向きの発言(A面)ではなく、裏側にある本音(B面)を吐き出せる場を求めるニーズが反映されていると言えるだろう。

「投稿」の本来の目的は天気情報を正確に届けること

若者たちが「Yahoo!天気」をSNSとして利用するワケ。開発側は「あくまで“天気アプリであること”を最優先」
本来の目的
図らずも、SNS利用で若年層のユーザーが増加したYahoo!天気だが、「あくまで“天気アプリであること”を最優先に考えている」と平井さんは軸をぶらさない姿勢を強調した。

「天気や災害といった重要な情報を確実に届けるというのを大切に、これまで以上にわかりやすく、ユーザーに必要な情報を届けることを意識していきたいと思っています。天気と一言に言っても、晴れのち曇りなのか、晴れ時々雨なのか、あるいは雨がどのくらいの強さで降るのかなど、すごくバリエーションがあります。

こうした天気の状況をいかに正確に伝えるかという思いが、『みんなの投稿』を開発した経緯になっています。ユーザーの投稿を通じて、リアルタイムな天気を知ってもらうためにも、今後は利便性や視認性といった機能的価値に加え、情緒的価値をどのようにプロダクトに反映させるかも検討していきたいと考えています」

Yahoo!天気アプリの「みんなの投稿」がSNSのように使われているのは、数値や承認を気にせずに本音を言えること。そして、匿名性や緩やかな繋がりが大きいと言える。

「みんなの投稿」は、あくまでSNSではなく天気を知るための機能であるものの、今後も、新たなコミュニケーションの場として独自の進化を遂げていくのではないだろうか。

<取材・文/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。
立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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