’25年度の学校基本調査(速報値)が公表され、通信制高校の生徒数は男女合わせて30万5221人と過去最高になった。全国の高校生の中で通信制高校通学者の占める割合は、9.6%に上る。
不登校の生徒数は年々増加しており、通学が必須ではない通信制高校が受け皿となる傾向が強い。作家の乙武洋匡氏は、教育予算不足で疲弊する学校現場を考えれば「小中学校にも通信制を導入し多様な学びの場を提供すべき」と自説を展開する(以下、乙武氏による寄稿)。

不登校の生徒が増える中、学びの多様化は自然。小中にも通信制が必要だ

 通信制高校に通う生徒が増えている──そう聞いて「当たり前じゃないか」という感想しか浮かんでこない。全国の小中学生で、不登校の子どもが35万人もいるのだ。彼らの多くは「学びたくない」のではない。「学校に居場所を見つけられない」だけなのだ。そんな彼らが進学先として通信制高校を選ぶことは、ごく自然なことと言えるはずだ。

不登校35万人時代「小中学校に通信制がない」のはなぜか?IT...の画像はこちら >>
 この“通信制ブーム”を牽引しているのは、間違いなくN高だろう。学校法人「角川ドワンゴ学園」の運営する“インターネット上の高校”は、’16年4月の開校からぐんぐん評価を上げ、今やN高グループ(N高等学校・S高等学校・R高等学校)の生徒数は3万人超。日本一の生徒数を誇る高校となった。

 じつは私自身も教員免許を取得するために通信制の大学に通っていた時期がある。
とはいえ、今から20年前のことなので当然ながらインターネットを利用して学習を進めるという仕組みは用意されておらず、自宅でリポートを書いては郵送で提出するというアナログな日々だった。

最も懸念される他者との関わりも

 当時の通信制は、時間の融通が利くという利便性はあるものの、数日間のスクーリング(通学)期間を除けばやはり孤独を感じざるを得なかった。その点、インターネットを活用するN高は、「時間の融通が利く」と「仲間とともに学ぶ」をうまく組み合わせているところに強みがある。最近では、いわゆる高偏差値の高校を蹴ってN高に進学する子も少なくないという。

 通信制高校に通う生徒は今や全体の1割を占めるというが、これだけ不登校が増えれば、“学びの多様化”が進むのは当然の流れだろう。

 日本はあまりに教育に予算を割かない国として知られている。そのせいで現場は疲弊しきっており、子どもたちの個性を受け止められる余裕をすっかり失っているのだ。

 ならば、不本意ながら学習する場を失っている不登校の子どもたちのためにも、現在は新設が認められない小中学校にも通信制を設置することを検討すべきではないか。これまでは「発達段階に見合わない」といった理由から認められてこなかったが、そもそも不登校になってしまえば教師ともクラスメートとも接点が失われてしまう。最も懸念される他者との関わりも、インターネットを活用することである程度は担保できる。ITが普及する遥か以前に定められたルールで、現代に生きる子どもたちの学ぶ場が制限されてしまうのは、あまりに愚かだと言わざるを得ない。

不登校35万人時代「小中学校に通信制がない」のはなぜか?IT普及前のルールが“子どもたちの学びを制限”する現実
乙武洋匡
<文/乙武洋匡>

【乙武洋匡】
1976年、東京都生まれ。
大学在学中に執筆した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。ニュース番組でMCを務めるなど、日本のダイバーシティ分野におけるオピニオンリーダーとして活動している
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