選挙公約や日米関税交渉の取り組みなどを進め続けることで続投を既成事実化しようとする石破氏に対し、党内の反発は増大し、8月には閣内からも辞任を求める声が出るなど孤立を深めていった。最終的に党執行部も辞意を伝え、政権運営の継続が困難になった結果、石破氏は選挙結果に対する責任や、党の亀裂を避ける必要性を理由に退陣を決断した形だ。
ジャーナリストの石戸論氏は、9月2日に自民党両院議員総会で党4役が揃って辞意を表明したのを受けて「首相自ら、退く以外にない」と持論を展開していた。(以下、石戸氏の寄稿。石破首相が退陣を表明する前に執筆)
党4役は辞意表明。自民党衰退を招いた「正論」 好き総理の責任
石破茂政権が誕生してわずか1年だが、足元が揺れに揺れている。自民党を衆参少数与党に転落させた参院選の責任を取り党4役が揃って──消極的なものが含まれるとはいえ──辞意を表明した。しかし、本人は党総裁も首相の座も退く考えはないという。石破氏が“党内野党”だった安倍政権時代、私も何度か取材でお世話になったが、印象そのものは決して悪くはなかった。よく本を読み、質問には実直に向き合ってくれた。予定時間を超過しても「若手はもっと地元を歩き、住民の声に向き合うべき」といった話をしていた。
敗北の大きな要因は、安倍政権で取り込んでいた20~40代の若年層の支持が離れたことだ。それでも支持率が高い理由はシンプルに高齢層が支えているからに尽きる。同じように高齢者中心の立憲支持層が石破支持の動きを強めているのも興味深い。「石破さんではなく、裏金議員が悪い」「ほかの首相候補よりマシ」といった理由だろうが、彼らは選挙になれば石破政権だろうと自民党には投じないだろう。さらに言えば、いくら擁護しても、「正論」は石破氏が、現役世代に届かない政策で選挙に臨む決断を下した最大の責任者だという事実に宿る。
2万円の給付金、その成果はいかに
象徴的な政策は減税案に耳を傾けることなく突っ走った2万円の給付金だ。国民全員への2万円給付を目玉に、高齢者が7割以上を占める住民税非課税世帯にはさらに2万円を加算するという案にこだわった。後者には当然ながら一定の貯蓄を持ったリタイア世代も含まれている。これでは実質的な“追加年金”で、得をする高齢世帯が支持に回るのは理屈が通っている。だが、現役世代はわずかな現金を受け取った先に、多くの負担が強いられる日常が待っているだけだ。
現状、自公との連立や協力に前向きな野党もない。石破政権と一番相性がいいのは立憲だが、協力すれば支持を失うことは彼らもわかっている。いずれにせよ与党が政策を変えない限り、何も決まらず、予算も通せず、世代間の分断が燻り続ける状態が続く。
選挙で大敗を喫し、自民を衰退させた首相は自ら退く以外にない。当面、政治停滞を招かない退き方だけが争点である。かつての石破氏なら、そう正論を説くだろう。
<退陣表明の会見で(以下、編集部追記)>
石破首相は退陣表明の会見で、米国との関税交渉や地方創生など、自らの政策に道半ばの悔しさをにじませた。また、少数与党として政策を進める中で「多くの制約がある中で十分な成果を出すのは困難だった」と振り返りつつ、自民党が古い体質から脱却し信頼を回復する必要性を訴えた。党内抗争が政治の停滞を招くことを避けるべきだとの考えを示し、後任総裁への道を譲る意向を示した。

【石戸諭】
1984年生まれ。