買収から6年で上場。堅調に成長中
オリオンビールは2019年に野村ホールディングスと、アメリカの投資ファンド、カーライル・グループに570億円で買収されていました。野村ホールディングスは2018年に事業再編や事業再生などを扱う新会社、野村キャピタル・パートナーズを設立しており、オリオンビールはその第1号案件。買収当時は「5年後の上場を目指す」としており、コロナ禍という特殊な期間を経ながらも投資から6年ほどで上場に漕ぎつけました。
オリオンビールの2025年3月期の売上高は前期比11.0%増の288億円。今期は4.3%増の301億円を予想しており、堅調に成長しています。
「酒税の軽減策」で自らの首を絞める結果に
沖縄県でビールの高シェアを獲得している主要因が、2002年のアサヒビールとの包括的業務提携。2003年からオリオンビールは「スーパードライ」などアサヒ製品の沖縄県でのライセンス販売を行いました。沖縄県内でオリオンビールが8割ものシェアを握っている理由はここにあります。アサヒとの提携当時、日本では発泡酒が人気化しており、それに次ぐ「第3のビール」が登場する直前でした。2004年に「ドラフトワン」や「のどごし」、「アサヒ新生」、「麦風」などの商品が生まれています。
しかし、沖縄県は酒税の軽減策が導入されていたため、ビールは本土に比べて20%減免されていました。オリオンビールは業界の変化から取り残され、発泡酒や第3のビールの開発において遅れをとったため、本土でのシェア獲得に難航していました。アサヒと提携した背景には、こうした時代の流れが大きく関係しています。なお、提携によってオリオンビールの沖縄県外の販売はアサヒが行っています。
話題の「ジャングリア沖縄」の土地を所有
オリオンビールは沖縄県の観光業とも密接に結びついています。県内の飲食店約7400のうち、オリオンビールと契約している店舗は5800。8割近いシェアを握っているのです。2024年の観光客数は995万人。2018年のピーク時の1000万人に限りなく近づいており、県は2025年に再び1000万を超えるとの見通しを出しています。観光客数の増加による、更なる飲食店の利用拡大が見込まれます。
飲料は売上の8割ほどで、残り2割は観光・ホテル事業が占めています。「オリオンホテルモトブリゾート&スパ」と「オリオンホテル那覇」は直営店。
2025年7月にオープンした話題のテーマパーク「ジャングリア沖縄」は、「オリオン嵐山ゴルフ倶楽部」の跡地を利用しています。従って、オリオンビールは土地の所有者であり、テーマパークを運営するジャパンエンターテイメントに出資をする株主でもあります。さらに取締役の派遣も行っています。
運営するホテル「オリオンホテルモトブリゾート&スパ」は「ジャングリア沖縄」から車で20分ほどとアクセスが良く、チケット付き宿泊プランの販売などを行っています。ゴルフ場の跡地利用ということもあり、オリオンビールは一帯のリゾート開発をすでに行っていました。「ジャングリア沖縄」は、会社の成長の一端を担っていると言えるでしょう。
海外展開は成功するのか?
オリオンビールは中長期経営方針で、年平均5%の成長を目標に掲げました。強化戦略の1つに海外事業を挙げています。2025年3月期の海外売上比率は7.5%と決して多くはありませんが、2021年3月期からの平均成長率は37.9%であり、着実に拡大してきました。販売エリアは台湾、オーストラリア、韓国、アメリカ、香港、中国など多岐に渡ります。野村ホールディングスとカーライルがオリオンビールを買収した理由の1つに、海外展開の潜在性が高かったことがあります。沖縄県の観光客のうち、海外観光客は2~3割を占めます。現地でビールを知った人が、帰国後に再び手に取る可能性が高いのです。
国内のビール市場は頭打ちであり、インバウンド消費がわずかな伸びしろとしては残されているのが現状。中長期的に旺盛な市場拡大が見込めるわけではありません。
今回の上場は投資ファンドの出口戦略という意味合いが大きいものですが、上場後は株主から成長性に厳しい目が向けられるようになります。ポテンシャルが大きい海外展開への期待が高まるのではないでしょうか。具体的な絵を描いて着実に実行する手腕が求められます。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界