会社に行くのがつらい。でも辞めれば同僚に迷惑をかけてしまいそう。
転職や起業をするにも、何から手をつけたらいいかわからないーー。このように悩みながらも、代わり映えのない毎日をただ繰り返してはいないだろうか。
「会社から『逃げる』ことは敗北ではなく、新しい人生を切り拓くスタートライン」

 そう語るのは、自動車部品の最大手メーカー・デンソーをうつ病寸前で早期退職し、45歳でブルーベリー観光農園「ブルーベリーファームおかざき」(愛知県岡崎市)を立ち上げた畔柳茂樹氏だ。現在では、年間60日あまりの営業にもかかわらず、会社員時代を大きく超える年収を実現させた畔柳氏。まさに“会社から逃げる勇気”によって、人生を好転させたのである。

 氏がこの異業種起業での成功体験を伝える「成幸するブルーベリー農園講座」を開講すると、同様に悩める会社員が殺到。延べ2000人超が受講すると、なんとそのうち6割が脱サラして新規就農に挑戦したという。ブルーベリー観光農園にかぎっても、全国で100件以上も誕生したのだ。

“会社から逃げる勇気”は、一体どうすれば持てるのだろうか? 畔柳氏の実体験にもとづいたマインドセットの仕方を紹介する。※本記事は、畔柳茂樹著『会社から逃げる勇気』(ワニブックス)より一部抜粋・編集してお届けします。

年収1000万円を捨てて大手企業を早期退職した45歳男性が、...の画像はこちら >>

会社を辞めると決めるまで3年かかった

 私が会社を辞めるという決断をするまでに3年ほどの時間がかかった。自分の身の振り方は、あくまで個人の判断に委ねるが、10年ほど前からブルーベリー観光農園の起業セミナーを開催していて、気づいたことがある。

 それはセミナー参加者を見ていると、世の中には私と同じようにサラリーマンとして行き詰まり、未来に希望の光が見出せなくなってしまった人が実に多いことだ。


 特に前著『最強の農起業!』(かんき出版)出版以来、このような悩めるサラリーマンの参加者が一気に増えた。

 中には、精神的にかなり追い込まれた状態の方、すでにうつ病を発症して休職中や休養中の方も散見され、私としても自分の経験を活かしてお役に立ちたいと思うようになった。

 参加者は、ビジネスモデルに興味があるのはもちろんだが、私の脱サラ起業ストーリーに共感して参加してくれた人だ。だからなおさら何かサポートしてあげられないかと考えている。

「会社を辞めたいけど、そんなの無理」と思っているあなたへ

 ここでは、「会社を辞めたいけど、そんなの無理」と思っている方に向けて様々な視点からメッセージを送るのでぜひ聴いてほしい。会社を辞めることを無理に勧めるつもりはない。辞めた人がすべて上手くいっているわけではないし、会社に残ることも立派な決断だ。

 ただわかってほしいのは、人生にはいろんな道があって選択可能だということ。起業、転職、家業継承、留学、資格や学位取得のための進学など実に様々な道が用意されている。

「世界は本当にもっと広くて自由」だということをわかってほしい。私の場合は、大企業の管理職から逃げ出したことが人生最大のターニングポイントになった。あそこで方向転換しなければ今の私はいない。このような本を執筆することもなかった。


辞められない理由は何か?

「辞めたいけど、どうせ無理」と考えている人がそう思ってしまう理由は以下のようなものだ。

•会社に迷惑をかけたくない。
•同僚がみんながんばっているのに自分だけ抜けられない
•脱落者のレッテルを貼られたくない
•デキない奴と思われたくない
•親に心配かける
•転職・起業もどうせ不安

 いずれの理由も「他人のため」「他人の評価」という視点だ。これらの理由が何度となく頭の中を堂々巡りして抜け出せなくなり、考えるのが面倒になり、「どうせ無理」という気持ちになってしまう。

 私もこのループに巻き込まれ、「辞めるなんて、どうせ考えたって無理に決まっている」と何度も自分に言い聞かせて無理やり自分を納得させていた。

 他人を優先して自分の心や体を後回しにしてしまうことが、長い間続くと人はどんどん追い込まれて、やがて危険な状態になる。

 いくら何でも死ぬことまでは考えたことはないという人も多いと思うが、長期間ストレス状態が続くと過労死や過労自殺は、他人事ではなく誰にでも起こり得ることだと考えてほしい。

自分自身のことを最優先に考える

 このような状態の中で難しいことだが、自分の命と人生を最優先に考えてほしい。私もこのまま仕事を続けたら、うつ病や精神疾患になることは容易に想像できた。

 さすがに自殺までは考えなかったが、深夜まで仕事をして疲れ切った帰り路、電車を待つときに「今、飛び込んだら楽になるのになぁ」と思うことが何度となくあった。

 家族のことを考えれば不安は尽きなかったが、最後の最後は「自分自身を守るため」に会社を辞める決断ができた。もう逃げるほかなかったというのが正しい表現かもしれない。

視野が狭くなっていないか

 これは私自身の経験だが、追い込まれているときは、視野が極端に狭くなっている。ほかの道を選べるにもかかわらず、暗闇の中で狭くて細い道しか見えない、もうこの道を歩いて行くしかないと感じていた。

 だが日本は民主主義国家だから1本の道しかないなんてことはあり得ない。
自分の未来には、いくつもの道があって、選択して進んでいく、すなわち「未来は選べる」わけだ。

 長時間労働は、思考力を失い視野を暗く狭くする。そのため自分の歩んでいく道は、これしかないと思い込んでしまうという危険な状態だ。

 過労で追いつめられて自殺した人の話は今でもよくニュースになる。以前は、「なぜ死ぬ前に会社を辞めないの?」「仕事よりも命の方が大事なのに」と率直にそう思いながらニュースを見ていたが、いざ自分がその状況に追い込まれると認識が一変した。

 過度のストレスを受け続けると、逃げるという選択肢が見えなくなるのだ。

退社をすることが決定した瞬間、一気に視界が開けた

 私は、紆余曲折あって会社を辞めることになるが、会社側と退社することが正式に合意に達した瞬間に、今まで味わったことのない開放感を味わった。まるでマンガを見ているような光景が目の前に広がった。それは、次のようなものだ。

 当時は自分の歩む道は、一本道で進めば進むほど道は狭くなっている。薄暗くて遠くを見たくても暗闇で見通すことができない。

 まさに「お先真っ暗」の状態で、未来に対してまったく希望の光は見えず、ただただ目の前の仕事を必死に片づけていくことしかない、自分が歩んでいく道はこれしかない、許されないのだ、という絶望的な状態に追い込まれていた。

 それが、退社が正式に決まった瞬間、目の前の光景は激変した。
目の前には薄暗い世界が広 がっていたが、そこに明かりがさして先が見通せるようになった。そして今歩んでいる道の先を見てみると、今まで行けば行くほど道は狭くなっていたが、実は道はどんどん広くなって、さらに何本にも枝分かれしていることがわかった。

 今の仕事を続けていくしかないという薄暗い一本道から、未来は明るく希望に満ちている、しかも選択肢はいくらでもある、「未来は選べる」という世界に一気にそして劇的に変わった。この目の前の世界が一変したことは、いまだによく覚えているし思い出す。あれ以来、悪い出来事が起きたとしても、未来は明るいし選択できるという思いが僕の中には常にある。

 ここで伝えたいのは、あなたが思っている以上に「世界は本当に広くて自由」だということ。これしかない」と考えないでほしい。勇気を出した人に世界はやさしい。

仕事であなたの代わりはいくらでもいる

 仕事で追い込まれていくタイプの人は、責任感が強い真面目なタイプの人だ。「この仕事は自分しかわからない」「担当者は1人だけだから」「自分が休んだら会社が回らない」と考えてしまう。

 でもそんなことはない。会社というのは誰かが欠けても動くようになっている。
あなたの代わりはいくらでもいる。万一、代わりがいなくてもそれは会社側の問題であって、あなたの責任でも何でもない。

「代わりがいくらでもいる」と言ったのは、あくまで仕事上の立場の話だ。

 仕事上の立場は、交換可能だが、替えがきかないものもある。あなたは「誰かの息子や娘」「誰かの父親か母親」「誰かの夫や妻」「誰かの兄弟や姉妹」であることは、替えがきかない「かけがえのない」存在だ。

 そして当然、あなたの人生、夢、命も誰にも代わることはできず、失ったら二度と戻ってこない。逃げることは決して恥ずかしいことではないのだ。

<TEXT/畔柳茂樹>

【畔柳茂樹】
愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。自動車部品最大手のデンソーに入社。40歳で事業企画課長に就任したが、ハードワークの日々に疑問を持つようになり、農業への転身を決意。2007年45歳で年収1千万円の安定した生活を捨て独立し、観光農園「ブルーベリーファームおかざき」を開設。
起業後は、デンソー時代に培ったスキルを生かし、観光農園、無人栽培、ネット集客の仕組みを構築。今ではひと夏1万人が訪れる地域を代表する観光スポットとなる。わずか60日余りの営業にもかかわらず、会社員時代を大きく超える年収を実現。近年は、宮城・気仙沼での観光農園プロデュースによる被災地復興に取り組む。2018年11月には地方創生の農業成功事例として台湾政府から「台日地方創生政策交流会議」に招聘され講演。毎年秋に開催する「成幸するブルーベリー農園講座」は参加者が延べ2000人を超える人気講座となっている。この農園をモデルにしたブルーベリー観光農園が全国に約100か所(2024年8月現在)が開園中、または開園準備中で、今後さらに増える見込み
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