また、東京都が2025年4月に通称「カスハラ防止条例」を施行したことで定義づけが進み、認識しやすくなったのかもしれない。
日常生活に必要不可欠な店ならば、なおさら遭遇する機会も多いだろう。某チェーンスーパーの店長を務めながら、その日常や愚痴をSNSに投稿しているアカウント・スーパーの中の人(@supernakanohito)に、リアルなカスハラ体験を聞いた。
開封済みの商品を返品しようとされ…
小売店において、「返品させてほしい」という電話はセンシティブなものだ。商品の不備など、店側に落ち度があれば、大事な顧客の信頼を損ねてしまうことになるためだ。しかし、ある時店にかかってきた「うなぎパイを返品させてほしい」という内容の電話は、少し様子が違っていたという。
「女性のお客様から『そちらで買ったうなぎパイ、返品できるかしら? 包みを破ったけど食べてはないわよ』と言われたんです。包装を開けているとのことで、もちろん返品はお断りしたんですが『え? なんで?』とおっしゃるばかりで、納得してもらえなくて……」
当然、開封してしまっていては返品などできるはずもない。
「常識が通じない方は一定数いますね。最終的には『おたくの店なんて、もう絶対に使わない』と捨て台詞を吐き、電話を切られました」
「お盆の時期」にクレームが増加する
賞味期限の明記ができない野菜や果物は、なおさら対応に苦慮しそうだ。「臨機応変に対応するしかありません。明らかに否があれば、返金や交換の処理をします。ただ、すでに怒っていらっしゃる方も多いので、状況をお伺いする時点でストレスになりますね」
こうした果物などの商品のクレームが増えるのが、お盆の時期なのだとか。
「先日も『おたくで買った果物、食べようとしたら傷んでいた! どうしてくれるんだ!』と激昂されている方がいらっしゃいました。
仏間では、エアコンを一日中稼働させていない場合も多いだろう。これもまた「常識が通じない」クレームだ。
決して“特例”は作らないワケ
スーパーの中の人によれば、“お一人様一点限り”の商品にまつわるトラブルにも悩まされているとか。「うちの店の場合は、『夫婦二人で来れば二点買える』という感じで、レジに並んでいる人数でカウントするんです。にもかかわらず、商品を一人でいくつも買っていこうとする人も珍しくありません。お一人様一点限りであると伝えたところで、『車に家族がいるからいいじゃないか!』とか『◯◯さんに頼まれたから、二つ目は私のじゃない!』とゴネられたりして……」
こうした場合に、トラブルを避ける思いで「今回だけ」を許してしまってはいけない。
「決して特例は作りません。10時オープンなのに、並んでいる人がいるからと9時50分に開けると、翌日以降9時50分に「前は開けてくれたのに、なんで今日は開けないんだ!」と言われてしまうんですよね。段々エスカレートして、9時40分に来るようになりますし……。我々のようなチェーン店では、『同じことが毎回できるか』が大事です」
「はらわたが煮え繰り返る」と語った出来事は…
カスハラやクレームと向き合いながら、比較的淡々と出来事をSNSに投稿しているスーパーの中の人。しかしときには、「役職を捨ててもいいから、ガチでこいつと喧嘩したい」と感情をあらわにすることも。いったい何があったのか。「うちは、『お客様の声』の用紙を設置しています。
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カスハラという言葉が広まっていくのを見ると、その実態が悪化しているようにも感じるが、スーパーの中の人は「カスハラという言葉が認知されてきたことで、自分の行動がカスハラじゃないかを意識する人が増えたように感じますよ」と話す。本記事が、カスハラの認知を広め、働く現場で無用な苦労をする人が少しでも減ってくれることを願ってやまない。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。