祖業との相性が良かった自動販売機
ダイドーの2025年1-7月の国内飲料事業の売上高は、前年同期間比2.0%減の715億円でした。この会社の最大の特徴が自動販売機を主力な販路としていること。全体の9割、主力のコーヒー飲料も5割が自動販売機によるものです。日本では1970年代から1980年代にかけて自動販売機が急速に普及しました。ダイドーは1975年に「ダイドーブレンドコーヒー」を販売。これがトラックドライバーの間で人気を博しました。
ダイドーの祖業は、創業者が個人で始めた医薬品の配置事業。これは家庭や事業所に救急箱を配置し、必要なときに使うというものでした。このビジネスモデルが、ドリンクの自動販売機と驚くほど似ていたのです。ダイドーはガソリンスタンドやパーキングエリアにドリンクを収めた箱を置いて、必要なときに取り出すという祖業から受け継いだモデルで、事業を拡大していきました。
「業界シェア3位」は差別化戦略の一環
現在、ダイドーグループは全国に27万台の自販機ネットワークを持ち、業界シェアは3位。コンビニでは、ダイドーの商品を見かける機会は少ないはずです。これは競合との差別化戦略の一環なのです。しかし、コンビニなどの小売店ネットワークが発達したことにより、自動販売機の市場は縮小傾向にあります。
矢野経済研究所によると、2022年の「自動販売機及び自動サービス機の普及台数」は396万台で、前年比0.9%の減少。2025年まで、毎年少しずつ縮小する見通しを出しています(「自動販売機市場に関する調査を実施」)。
ダイドーは自動販売機の価格優位性が高い「ハートプライス」シリーズを2025年2月末から展開しています。2025年は全国的に梅雨明けが早く、6月は記録的な暑さに見舞われました。それでもダイドーの国内飲料事業の売上が2.0%減少しているということこそが、自動販売機の足元の不調ぶりを如実に物語っています。
自動販売機はオワコンではない
ダイドーが売上増のために取り組んでいる施策が、自動販売機の稼働台数の拡大。市場は縮小しているものの、濃淡が出ているだけで「売れる場所」は存在します。ダイドーは戦略的にロケーションの開発を行っており、営業人員の拡充、ロケーションオーナーとの関係構築を進めてきました。ダイドーの自動販売機の設置台数は2018年から2019年にかけて大幅に落ち込んだものの、その後の台数は増加に転じました。自動販売機は決してオワコンなどではなく、市場拡大の余地も見出されています。
日本は人口減少が著しく、アルバイトなどの労働力不足の深刻化が避けられません。2024年度の全国の企業倒産件数は11年ぶりに1万件を超えましたが、その中でも求人難や人件費高騰による人手不足倒産は前年比で1.6倍に拡大し、過去最高となりました。
コンビニの24時間営業見直しに商機あり?
コンビニは、人材不足によって24時間営業を見直す動きも強まっています。自動販売機は、人の生活に必要不可欠な飲み物を提供する最後の砦となるかもしれないのです。自動販売機はオペレーション改善も進んでおり、従来のルート担当者が需要予測を立てて商品を積み、販売量を確認して補充するという流れは古くなりつつあります。現在はリアルタイムで売上情報を取得し、補充に必要な数量や訪問ルートを最適化しています。無人化が進めば進むほど、人手不足という面では自動販売機が有利になるのです。
価格優位性を活かしづらいビジネスモデル
ダイドーは「ハートプライス」シリーズで価格優位性を持たせました。このシリーズの売上は前年比13%増。全商品では4%の増加であり、一定の成果は出ています。ただし、自動販売機ビジネスにおいて価格による競争力を高めることは簡単ではありません。「100円自販機」の存在があるからです。
自動販売機には土地や設置場を提供する「フルオペレーション型」と、自販機本体を所有する「セミオペレーション型」があります。
場所を提供するオーナーは価格設定を行いません。ダイドーに一任する形です。
一方、「セミオペレーション型」は、オーナーがビジネスの主体者となります。価格を自由に設定することができるのです。
最近では、各メーカーからドリンクを仕入れ、独自の自販機で販売するモデルもあります。100円自販機の多くはこのタイプです。大量にドリンクを仕入れることで単価を抑え、安く提供しているのです。価格が安いからといって、訳ありドリンクを販売しているわけではありません。
自動販売機業界は市場が縮小する中で、競争が激しくなっています。ダイドーの舵取りは自販機ビジネスそのものを左右するかもしれません。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。