うり坊の背後に母猪出現!
2年前に長野県に移住した友人を訪ね、諏訪湖の近くの山間を訪れていた本田由美子さん。10月、紅葉に彩られた山々は、空気は澄み、夜空に星が輝いていた。夕食後、友人が家事をしている間、本田さんは山小屋風の平屋のウッドデッキに腰を下ろし、広い庭と畑を眺めながら酒を楽しんでいた。そんな静けさを破ったのは、小さな影だった。
うさぎか、たぬきか。近づいてみると、それは縞模様が残る「うり坊」(猪の子)だった。
愛らしい姿に心を奪われた本田さんは、スマホを片手にしゃがみ、つまみのピーナッツを持ったまま、少しずつ距離を縮めてしまった。
「恥ずかしながら当時、野外で食べ物を持っていると猪に襲われる危険があるという知識がなかったんです」
次の瞬間、不意に鼻を突く強烈な獣臭……。最初はうり坊の臭いかと思ったが、目を凝らすと、巨大な影が浮かび上がった。
うり坊の親と思しき推定体重100㎏近いニホンイノシシだった。特にオスは下顎の犬歯が鋭く、突進と同時に切り裂くのが特徴で死亡事故は稀だが重傷事例も少なくない。
「殺される!」
反射的に立ち上がろうとしたが、焦って転倒し、尻もちをついてしまう。
死を覚悟した瞬間の奇跡

迫りくる巨体。牙、咆哮、地響き。だが猪が1m先まで迫り、死を覚悟したとき奇跡が起きた。母猪はひっくり返った本田さんの真横をかすめ、そのまま猛スピードで走り抜けていったのだ。
親子で森の中へ消えていく姿を呆然と見送り、震えながら立ち上がると、自分が失禁していたことに気づいた。
「急いで家に戻り、友人に話すと『ああ、出ると言ってなかったっけ? でも一時期よりは減ったからさ』と軽くあしらわれて怒りを覚えました」
そして翌日、隣家の老夫婦にも話すと、こう諭された。
「転んだのが幸いしたね。猪は目がすごく悪いから、倒れたことで敵が突然消えたように見えたのかもしれないよ」
本田さんはそれ以来、うり坊が出たらすぐに退避することを心に決めたという。
取材・文/週刊SPA!編集部、イラスト/子原こう
―[[危険動物と遭遇]のリアル]―