―[言論ストロングスタイル]―

自民党の惨敗に終わった参議院選挙から1か月半。石破茂首相が辞任を表明し、退陣後を巡る政局は混迷を深めている。
直近の国政選挙で示された民意は、既存の政治勢力への不信感を露わにした。自公連立政権は過半数を失い、野党も決め手を欠く中、日本の政治は「無政府状態」とも言える危機的状況に陥っている。特例公債法の期限切れを前に、予算も法案も通らない事態が現実味を帯びる。自公はいったいどこと連立政権を組むのか。先行き不透明な日本政界の今後と、その打開策を探る(以下、憲政史研究家・倉山満氏による寄稿)。
石破首相辞任で自公はどの党と連立を組む?予算も法案も通らない...の画像はこちら >>

日本の国政は「革命に近い状態」にある

 石破おろし、まだやっていたのか。と思ったらやめた。

 直近二度の国政選挙で、有権者は誰にも多数を与えなかった。自公連立政権を拒否。立憲民主党は論外。

 石破茂首相は、衆参両院の選挙で敗北した。民意に拒否されたのだから、辞めない理由がない。ところが、悪あがきにしか見えないが、攻める方も決め手に欠ける。
自民党は、ようやく9月2日の両院議員総会で参議院選挙の総括が終わり、総裁選の前倒しに向けての手続きに入った。

 石破おろしをかわし続けた、自民党の森山裕幹事長が、退陣表明。他の党四役も追随。総理大臣以外で「退陣表明」などとの表現、初めて見た。さすが「森山首相」と呼ばれるだけあるが、その森山幹事長がいなくなるのに、石破首相にどんな目算があるのだろう。

 直近二度の国政選挙で、有権者は誰にも多数を与えなかった。自公連立政権を拒否。立憲民主党は論外。日本維新の会は自爆。国民民主党と参政党が躍進したが、まだまだ小勢力。どこにも決め手はない。これをイギリス憲政論に照らせば、「革命に近い状態」である。


変態政治の、変態内閣、変態議会、変態政党

 民意に従った政治を、「憲政の常道」と呼ぶ。参議院選挙から一か月半、民意と関係の無い政治が行われている。ちなみに「憲政の常道」の反対語は、「憲政の変道」「憲政の変態」。

 大正デモクラシーのオピニオンリーダーであった吉野作造は当時の政治を指して、「今の内閣は変態内閣である。しかし、政界全体が変態なのである」と指弾した。

 令和の日本に吉野作造がいたら、「変態政治の、変態内閣、変態議会、変態政党。政界の浄化が必要である」と主張するだろう。

 もはや、日本の政治は無政府状態と言っても過言ではない。しかし、これより悪くならない保証はどこにもない。

今年で特例公債法の5年の期限が切れる

 与党は必死に連立に入ってくれる政党を探しているようだ。衆参両院で過半数を得るには、立憲・維新・国民の誰かと組まねばならない。

 このままいくと、予算も法案も通らない。そして、今年は特例公債法がある。

 日本の国家予算の半分は、国債(政府の借金)である。
政府が国債を発行するには、特例公債法という法律を通さねばならない。かつては1年が期限だったので、毎年この法律を通さねばならなかった。これを野党だった自民党は容赦なく政争の具にして、参議院で多数を持たなかった民主党政権を苦しめた。結果、菅直人・野田佳彦と二代続けて、特例公債法を通すのと引き換えに、内閣を差し出した。野田内閣の末期は秋になっても法案が通らず、国立大学の教職員の給料遅配が始まっていた。今は特例公債法の期限は5年だが、今年でその5年が切れる。

 いっそ、政争の具にして荒療治して、議会政治の浄化を図れとも思わないでもないが、それは邪道である。政府崩壊が宜しいはずがない。

自公維連立は、条件次第ではありなのでは

 では、打開策は?

 一つの頭の体操である。自公維連立は、条件次第ではありなのでは。

 もはや誰でもいいから連立に入ってほしい自民に対し、維新の創業者の橋下徹元大阪市長は「維新が潰れても良いから大阪副都を」と発信している。大阪副都とは大まかに東京を中心とした首都圏以外にも副都を作り、バックアップ機能をもたらす政策のこと。九州など大阪以外にも副都を作り、将来的には道州制を目指すそうだ。
法案を作成中とのことなので、詳しくは論評できないが。

 三つの条件が揃えば、維新の連立入りも無くはない。

「藤田首相」も一つの考え方ではないか

石破首相辞任で自公はどの党と連立を組む?予算も法案も通らない無政府状態の打開策/倉山満
倉山氏が主宰するネット放送局「チャンネルくらら」にて9月3日に公開されたインタビューで藤田共同代表は連立の可能性について問われると「議員定数を2割3割削減するような思い切った改革を(自民党が)するならば交渉のテーブルに乗る」と話した
 第一は、維新から首相を出すこと。岸田内閣以来、自民党との約束は何の意味も無い。約束を守らせるための約束である。維新の代表は吉村洋文大阪府知事で、国会議員でないので首相になれない。だから国会議員団の長である藤田文武共同代表が首班となる。仮に「藤田首相」になれば、戦後最年少。歴代でも伊藤博文の44歳3か月に次ぐ史上2位の若さ。

 第二は、維新の悲願である、大阪副都。この法案を通すことを条件とする。

 第三は、皇位継承問題を片付ける。維新の中には「憲法改正で連立を」との意見もあるが、法律も通らないのに、憲法は絶対無理。
一方で、皇位継承問題は今まで片付いていないのが不思議な話だ。

 藤田代表は尊皇家で知られ、皇位継承に関する議長ヒアリングや国会の全体会議にもすべて出席、事情を熟知している。首尾よく仕上げれば、新井白石以来、三百年に一度の大事業である。

 私は皇室をお守りできるなら、「藤田首相」も、一つの考え方ではないかと考えている。

 自民党と組んだ政党はほとんどすべて潰れているが、やり遂げれば未来がある。不滅の実績さえあれば、若くして首相になり2年で使い捨てられた海部俊樹のようにはならない。

日本国民はまともな政治で、今の生活を何とかしてほしい

 ところで熱心な読者の中には、「お前は、国民民主党の玉木雄一郎代表に、代表の名称を総裁に変え、全選挙区に候補者を立てて有権者に選択肢を示し、政界再編の核となるべし」と提言していたんではないかと指摘する向きもあろう(本誌8月26日号)。その通り。それと矛盾しない。

 ハングパーラメントでは、1年以内に解散総選挙で民意を問うのが常道である。仮に自公維連立内閣ができたとしたら、選挙前に公約していない組み合わせであるから、民意に反する。また、維新から首相を出したら第三党の首相なので、二重に「憲政の常道」に反する。
だから、早期に衆議院を解散して、民意を問う必要がある。一年ほどで二つの公約をやりきって、解散総選挙で民意を問えば「憲政の常道」に戻る。

 その間に野党は政党近代化を図り、来るべき総選挙で民意を得て多数を獲得する時間とできる。野党にとっても悪い話ではないと思うが。

 日本国民は、石破首相に辞めてもらう価値があると思っているのだろうか。それより、まともな政治で、今の生活を何とかしてほしいと思っている。

 自公維連立、無理やりやるべきとは思わないが、一案として示した。

 政界の浄化を、計画的に進めてみてはどうだろうか。

―[言論ストロングスタイル]―

【倉山 満】
憲政史研究家 1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本中世史』(扶桑社新書)が発売後即重版に
編集部おすすめ