7月の参院選をめぐり、候補者への投票の見返りに報酬を約束したとして、パチンコ店運営会社の社長および幹部が公職選挙法違反で逮捕された事件。実際に投票した従業員を含めると、平成以降の国政選挙の買収事件では最大の摘発者数になる見通しと言われており、世間を騒がしている。

“業界激震”「パチンコ店の公職選挙法違反」事件…大規模買収が...の画像はこちら >>
 そこで、この件に関して別のホールの店長であるS氏に話を聞いてみたところ「私の憶測もありますが、もしかすると警察庁の逆鱗に触れたのかもしれません」と語る。はたして、その背景には何があるのだろうか?

組合が中心となって応援していた

 今回、自民党公認候補として立候補した阿部恭久氏は、全国のパチンコホール組合である「全日本遊技事業協同組合連合会」の理事長を務める、まさに業界団体のトップ。それゆえに、ホール関係者を中心に熱心な応援活動が繰り広げられていた。

「去年の年末くらいから数回にわたって、組合が主催するセミナーが行われていました。正直、内容的には『阿部さんを応援する会』で、各店舗必ず2名以上は参加するようにという通達がウチにも来まして……。会社的には、特に応援するつもりはないし、選挙は信条の自由があるから、行っても行かなくても良いと言われていたのですが、たまたまその時、持ち回りでやっている組合の役員が自分の番だったんですよ。だから『立場的になるべく協力した方がいいのかな……』という雰囲気もあり参加しました」

 立場上、断りづらいのもあって、このセミナーに参加したS氏。その時は公示前だったこともあり直接的な指示などはなかったが、500人ほど集まった会場は応援ムード一色だったそうだ。

「自分がセミナーに参加した時点では、まだどの政党から出馬するかも決まっていない公示前だったので、当然ながら投票してくださいとは言わず、『とりあえず選挙に行きましょうね』という呼びかけがメイン。でも、その時から『パチンコ業界を盛り上げるために、みんなで阿部さんを国会に送り込むぞ!!』といった空気感でした(笑)。あと、会によってはメーカーさんもセミナーに参加していたようです」

危機感を抱いていたのはホールよりも組合

 ファンの減少に相次ぐホールの倒産と、衰退の一途をたどるパチンコ業界。この状況から抜け出すべく、過去にも2度ほど業界側の立場で動いてくれる候補者を国会に送り込もうとしたが、いずれも落選している。そんな背水の陣で臨んだのが今回の選挙であった。

「たしかに、阿部さんが政治家になれば業界は良い方向に進むと思います。
でも、ホールからすると所詮は同業他社。おそらく、大半のホール関係者は『自分の店が儲かればいい』としか考えていないでしょう。むしろ、今のパチンコ業界に強い危機感を持っているのは、ホールよりも組合関連の人達でしょうね。組合はホールと違って営業があるわけではないから、業界が傾けば真っ先に自分たちが苦しくなる。だから、必死に阿部さんを国会に送り込もうとしたんだと思います」

組合主導のオープンチャットも存在した

 阿部氏を応援するための活動の一環として、協力を仰ぐホール関係者と情報共有するための、LINEのオープンチャットを作っている組合も存在。実際、S氏もそのチャットに参加していたのだが、その扱いは実にずさんなものであった。

「業界関係者で情報共有をするために、組合が主導でやっていたオープンチャットもありました。最初は経営者とか店長クラスじゃないと入れなかったのですが、あまりにも人が集まらずに焦ったのか、最後は誰でも入れるオープンチャットになっていましたよ(笑)。もしかしたら、この辺からも何か情報が漏れたのかもしれませんね。しかも、会社や店舗毎でもオープンチャットを作って広めてほしいと言われていたのですが、誰もが『これはちょっと危ないんじゃないか?』と思ったんでしょう。実際に作った会社はほぼなかったようです」

今回の逮捕は“見せしめ”の可能性も?

“業界激震”「パチンコ店の公職選挙法違反」事件…大規模買収が明るみに出た“本当の理由”
パチンコ台
 さらにS氏は、今回の逮捕劇の背景には、パチンコ業界の監督官庁である警察庁との関係性が影響しているのではないかと推測する。

「いまパチンコ業界を管轄しているのは警察庁ですが、一部を経産省へ移管しようという動きが業界にはありまして。でも、そんなの絶対に警察が許すワケないんですよ。巨大な利権と天下り先を失うワケですから。
パチンコ店は警察の許可営業なのに、その警察に反旗を翻すなんて、一体何を考えているのか理解に苦しみます。だから、これはあくまで私の憶測なのですが、今回の逮捕は警察の逆鱗に触れてしまったことによる“見せしめ”の意味合いも含まれているかもしれませんね

 監督官庁への“謀反”が今回の事態を招いたのではないか、とS氏は考えている。さらに、最終的に阿部氏が選挙で落選したことも警察にとっては都合が良かったという。

「当選して議員になっちゃうと、不逮捕特権とかもあるから、仮に事件に絡んでいたとしても逮捕するにはハードルが高いけど、落選したから捜査がしやすくなった。さらに、今回逮捕された『デルパラ』絡みで何か物証を掴んでいたんでしょう。そこで『そんじゃ一丁、お灸を据えておくか』といった流れになったのかもしれません。極端な話、『これまで通り警察としっかりとタッグを組んで業界をクリーンにしていきます!』と言っていれば逮捕者は出なかったんじゃないかと個人的には思っています」

パチンコ業界が経産省傘下になりたいワケ

 ところで、なぜパチンコ業界は警察庁から経産省への移管を望んでいるのか。そこには業界全体のイメージアップをはじめとした様々な思惑があるようだ。

「経産省の管轄に入れば、いろんな面で一般企業と同じ扱いをしてもらえると思っているんじゃないですかね。例えば、コロナ禍の時にパチンコ店は、一般企業が受けている補償などを受けられない時期がありました。そんな状況を変えていきたい、もっとクリーンな業界にして一般企業と同じ立場になりたいという気持ちはわからなくもないのですが……」

避けて通れない「換金問題」

“業界激震”「パチンコ店の公職選挙法違反」事件…大規模買収が明るみに出た“本当の理由”
パチンコ
 パチンコ店が一般企業と同じ立場になるとしたら、絶対に避けて通れないのが換金問題。現状は、三点方式というグレーゾーンで成立しているが……。

「仮に経産省の下に入って、クリーンな業界にするとしたらグレーゾーンでやっている三点方式をクリアにしないといけない。そうなると、もうギャンブルにするか・しないかの二択しかないわけです。
グレーゾーンで換金ができるからこの業界は成り立っているわけで、もし換金ができないゲームセンターのようになったら『これまでの規模を維持できますか?』って話ですよね。警察はそれを暗黙の了解で目をつぶってくれているのに、そこから抜け出そうとしたら『おまえらの業界、今まで誰のおかげで成り立っていると思っているんだ』と怒るのは当然の話。もし、自分が警察のトップだったら絶対にそう思いますもん(笑)」

一筋の光明は消えてしまうのか…?

 スマスロの登場や広告規制の緩和で復活の兆しが見え、さらに業界団体トップの人間を政界に送り込んで再興を目指した矢先での一件。「もう二度と業界の人間を政界へ送り込むことはできないのではないか」という有識者も多い。そんな窮地に立たされたパチンコ業界は今後どこへ向かうのだろうか——。

取材・文/サ行桜井

【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。
編集部おすすめ