高山佳奈さん(仮名・20代)も、「会社のバーベキュー」で不愉快な人物に遭遇した経験を持っている。
「肉を食えると思うなよ」とくぎを刺された
彼女が勤務する会社では毎年夏、部署ごとにバーベキューを開催している。新入社員の高山さんは、参加しないわけにもいかない。その時の心境をこう話す。「話を聞いたとき、今どき、会社ぐるみでバーベキューって、面倒だなと思いました。休みの日まで、会社の人間と会いたくないですよ。しかも、先輩は『肉を食えると思うなよ。若手は、準備と調理でほぼ終わりだからな』と言うんです。『これは勤務じゃないか』と思ったのですが、私だけ行かないなんて選択は到底取れませんでした」
キャンプ場に到着すると、準備が始まった。
「キャンプ場には、3年目以下の社員たちが早めに行って準備をするというんですが、実際は全部新入社員がやらされました。人数分のお皿や割り箸、紙コップを用意したうえ、コンロも出します。上のほうの人たちが買い出し担当で、合流したところでバーベキューが始まりました。もうその時点で、同期と『ありえない』『つまらない』と愚痴りあっていたんです」
途中から来て、焼けた肉をかっさらう
課長によって参加者の感情は「怒り」に変わった。「みんなで肉を焼き始めたころに、手ぶらで課長が来たんですよ。
それが何回か続いたんです。まるで、我々は焼肉屋。残った野菜だけを食べて、『そんなことある?』『ありえない!』と、同期と不平をこぼしていました」
咎められるも、「悔しかったら、偉くなりなさい」
そんな様子を見かねて立ち上がったのは、勤続10年目の小島さん(仮名・30代)だった。「小島さんが『課長、それはやりすぎでしょ。若い子たちも一生懸命肉を焼いているんだし、みんなにも食べさせてあげてくださいよ』と、軽く咎めてくれたんです。
すると課長は、『君ね、誰に口を利いているのかな。悔しかったら、偉くなりなさい。課長になると、こういうことができるんだよ。北海道に飛ばしてもいいんだよ。
しかし、課長の傍若無人ぶりはとどまることを知らなかった。
「私たちをまるで使用人のように使うんです。男性社員には『近くのスーパーまで行って、もっと肉を買ってこい』『もっと早く焼け』と。女性社員には、お酌をさせる、そばに座らせるなどして、やりたい放題。同期は、『彼氏いるの?』『かわいいね』などと、セクハラ的な言動を受けたそうです。さすがに家族がいたので、触られはしなかったそうですが……」
会社員人生も燃え尽きてしまった…
バーベキューは小島さんの本気の怒りで終幕した。「小島さんが、『課長、これは問題です。私はここで帰ります』と、はっきり糾弾したんです。また、『帰りたい人は、もう帰っていいよ。こんなのは、許せないよ』と言ってくれて、新入社員は全員帰りました。課長にこびを売りたい社員は、残ったようですが。
その後、部内はどうなったのだろうか。
「数日後、小島さんから『人事部にバーベキューのことを報告します。協力してくれる人は連絡をください』とLINEが来て、ほぼすべての参加者が名乗りを上げました。その後、会社からの聞き取り調査があり、小島さんの言っていることが事実であることを証言したんです。私は新人でわからなかったのですが、この課長は前からパワハラ気質で、社員から嫌わていたそうなんです。
課長からも、小島がひどいというような訴えがあったようなんですが、評判の悪さから取り合われなかったようでしたね。結局、会社の判断は課長の左遷で、別の部署へ移されました。詳しいことは知りませんが、追い出し部屋のようなところらしいです。バーベキューの肉とともに、会社員人生も燃え尽きてしまったわけです」
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会社のバーベキューは、社員同士の親睦を深めるはずの場だ。しかし実際には、悪しき無礼講によって、上下関係や理不尽な慣習がむしろ前景化してしまう場合も少なくない。
高山さんが体験したように、部下にむやみな負担を押しつけ、権力を振りかざす上司は、「組織の不良債権」として処罰を受けて然るべきであろう。
<TEXT/佐藤俊治>
【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など