お笑いコンビ・アインシュタインの稲田直樹のインスタグラムアカウントを不正に乗っ取ったとして、32歳の男性が不正アクセス禁止法違反の疑いで逮捕された。
約1年前、稲田になりすました犯人から、わいせつ画像を要求された女性が、暴露系ユーチューバーのコレコレに相談し、彼がそれを暴露配信したことで、この一件が世に知られることになった。
当時、稲田はわいせつ画像を要求したことを否定し、「セキュリティ管理が甘く不正ログインされた」とコメントを発表。警察に相談したことを報告した。
しかし、世間的にその言い分はあまり信じられておらず、ネットの書き込みには、稲田を悪人のように決めつける人も多数いた。つまり、約1年間、稲田には疑いがかけられていた。
犯人扱いされる稲田をパンサー・向井が擁護
お笑いトリオ・パンサーの向井慧は、自身がパーソナリティを務めるラジオ番組『むかいの喋り方』(CBCラジオ)の24年12月10日放送回で、稲田の乗っ取り騒動に言及し、「名誉のために言わせて!これマジで乗っ取られたんだって。もうちゃんと(乗っ取りを)やったヤツが出てきたって」と語り擁護した。向井が去年の12月の段階で、犯人が浮上していることを知っていたことが興味深い。あくまで想像であるが、その時点で稲田が警察から得た情報を聞いて、向井が犯人が特定されつつあることを知ったと考えるのが自然のような気がする。
稲田は、犯人がほぼ特定されたことを警察から聞いていたが、自らは公表することを控えていた。しかし、犯人扱いされる稲田を哀れに思った向井が、ラジオで話したということだと思う。
リスクに見合わない「わいせつ画像の要求」
今回の犯人逮捕の報に伴って、コレコレは、自身のXアカウントで、警察から連絡を受けたことを明かし、さらにSNS活動を自粛すると発表した。この発表は、コレコレが警察から個人を追い詰めるような活動を強く注意されたことを想像させた。時に自死にまで追い込んでしまうネットの誹謗中傷や、それを結果的に補助することも含めて、これから厳しく取り締まっていこうという警察の姿勢が、この一件から伺える。
後出しジャンケンのようになってしまうが、1年前にこの事件のニュースを読んで、私は稲田の言い分を鵜呑みにして、それ以上ニュースを深掘りすることをしなかった(だから稲田が疑われたままだったことを、今回の逮捕のニュースによって知った)。
まず、最初に「わいせつ画像を要求する」と言うのが、あまりにもリスクに見合わないと感じたからだ。お笑い芸人を目指し、人前に立って自分のルックスを自虐して笑いを取る稲田の姿から、私は人生を自力で切り開いてやろうというガッツを感じた。
さらに、稲田にコメディアンとしての才能をとても感じていた。なぜか、私のSNSには、稲田のおもしろいシーンを切り取ったショートムービーがよくレコメンドされてくる。それがいつも他の芸人を圧倒して面白い。すべてがウィットに富んでいて、いじられ役を引き受けながら、非常に知的な部分を感じることができる。
疑惑が「腑に落ちなかった理由」
さらに稲田のInstagramは、他の芸人と比べてもかなり面白い。率直に言って稲田は、そのルックスから、子供の頃からいじられる対象だったと思う。そしてイジリを笑いに変えられることが、彼の人生における武器だったのではないかと勝手に想像している。そこが稲田から「優しさ」を感じられる要因にもなっているのではないだろうか。笑いによって、人生を切り開き、しかもその才能に溢れる稲田が、消えない証拠が必ず残るインターネットを承知で、わいせつ画像を欲しがるなんて、なんだか最初から腑に落ちなかったのだ。
犯人逮捕で稲田の株が急上昇
稲田は今回の件で誰ひとり責めることをしなかった。前述したように、自身のセキュリティ管理の甘さが、そもそも事件の原因になっていると、事件当初にコメントした。稲田が自己の責任を強調した理由は、犯人が生年月日からパスワードを割り出したからだと、今回の逮捕によってわかった。
また、現在批判が集まっているコレコレにも気遣いを見せた。そのことに、ネットでは賞賛の声が上がった。犯人が捕まるまでの1年間は、とても苦しい思いをして、きっと仕事にも影響があっただろう。ただ犯人が捕まったことにより、稲田の株はとても上がったはずだ。
私は、これをきっかけに、稲田の人間性が広く認知されることになったと思う。それによって、広く愛され、笑いと共に人に勇気を与える「お笑いセイント」に、稲田がなっていくかもしれないと思った。
現在、お笑いセイントと呼べるのは、唯一エガちゃんだ。「お笑いセイント」は、お笑いに身を捧げる人のみがなれるはず。この一件を機に、エガちゃんに続いて稲田という、新たなお笑いセイントが誕生したら痛快だ。
【椎名基樹】
1968年生まれ。構成作家。