パナソニックが40~59歳を対象にした早期退職を発表する就職氷河期世代を襲うリストラの波。うまく就職して組織に入り込んでも、先輩世代のように最後まで同じ会社で勤め上げるのは難しい時代になってきている。
「自分がいなくても回る」仕組みを作れる人は、むしろ組織で長く生き残る
ポテンシャルを重視される仕事では氷河期世代は若者に勝てない──と、この連載でたびたび書いてきましたが、そうなると氷河期世代の凡人が組織で生き残る手段は限られます。その一つが、「自分がいなくても回る仕組みを作れる人になる」という方向です。「自分がいなくても回る」と聞くと怖く感じるかもしれませんが、これは実はとても合理的な考え方です。
その昔、2ちゃんねるを運営していたときのこと。自分がいなくても回る仕組みを作ろうとした結果、その仕組みができたし、困ることもありませんでした。まぁ、オーナーという立場ではあったので追い出されることはなかったのですが、それよりも仕組みがちゃんと回るかどうかのほうが大事だと考えていたのです。これは会社でも同じで、会社経営において基本的に正しいとされているのは安定した利益を上げることです。そのためにはできるだけ不確定要素を減らしたほうがいいわけです。
例えば、誰かが退職をすることで、納期が遅れたり営業成績が悪くなったりする状況は好ましくないです。仮に営業が一人しかいないとしたら、新しく営業の人が増えるまで営業成績はダダ下がりになるし、体調を崩すスタッフが出たときも、似たような業績悪化が起こります。
なので、「誰かがいなくても回る仕組みを作ること」は経営方針として正しく、そんな仕組みを作り上げてくれる人というのは、会社からすれば貴重な存在になるわけです。管理職じゃない現場の人でも、その貴重性は変わりません。
一度作った仕組みには“調整役”が必要になる
とはいえ、落とし穴もあります。誰かがいなくても回る仕組みというのは、あなたがいなくても回ることを意味する。普通に考えれば、そんな仕組みを自ら作るのは墓穴を掘るようなものにも感じると思います。でも、仕組みを作る側にもメリットはあります。というのも、作った本人が外されると仕組みの微調整ができなくなり、結局は元の木阿弥になることも多いからです。仕組みというのは一度作って終わりではなくで、時代に合わせてアップデートしていく必要があります。例えば、コカ・コーラも同じ味を守り続けているように見えて、実は時代に合わせて少しずつレシピを変えていたりします。そういう微調整をする人がいなくなると、組織も仕組みも劣化していくのですね。
それ以外にも、仕組みを作る際に自分がいないと回らないような属人的な部分を残すパターンもあります。例えば営業の仕組みとかでも取引先から「あなただから」みたいな外せない人はいますし、IT関連だとサーバーの保守とかシステム部門で自分にしかできない仕事領域を残すこともできたりします。
そう考えると、仕組みを作り出すことはリスクはあるものの、自分へのメリットのほうが大きいわけです。もちろん完全に役割を手放せばお払い箱になりかねないですが、要所要所での調整役を務めれば、「いなくても回るけれど、いたほうが便利な人」として価値を残せるものです。
構成・撮影/杉原光徳(ミドルマン)
―[ひろゆきの兵法~われら氷河期は[人生後半]をどう生きるか?~]―
【ひろゆき】
西村博之(にしむらひろゆき)1976年、神奈川県生まれ。東京都・赤羽に移り住み、中央大学に進学後、在学中に米国・アーカンソー州に留学。1999年に開設した「2ちゃんねる」、2005年に就任した「ニコニコ動画」の元管理人。現在は英語圏最大の掲示板サイト「4chan」の管理人を務め、フランスに在住。たまに日本にいる。週刊SPA!で10年以上連載を担当。新刊『賢い人が自然とやっている ズルい言いまわし』