メガネの市場は高止まりしており、再編が続く未来も見えてきます。
JINSと並ぶ、価格破壊の立役者
メガネ業界は2000年代に入って価格破壊が起きました。その立役者とも言える存在がZoffでした。フレームとレンズのセットで5000円という価格は驚異的で、クセのないシンプルなデザインも魅力的でした。同時代に誕生したJINSとともにメガネ業界を席捲します。その急激な変化に苦心したのがメガネスーパーでした。2010年4月期は3割の減収、翌期は1割、その翌期も1割の減収と2ケタ減収が4期も続きました。2008年4月期から8期連続の赤字に陥ります。
2011年4月期に債務超過に陥ると、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズが資金支援を行います。これによって創業家が筆頭株主から退くと、ファンド主導による再生支援に取り掛かりました。2013年6月に星崎尚彦氏が社長に就任します。
ターゲットをシニア層に移して業績を回復
星崎氏はアメリカのスノーボードブランド「バートン」の日本法人トップを務めるなど、小売に精通した人物でした。星崎氏が社長に就任して以降、メガネスーパーは低価格帯、中価格帯に対抗するのではなく、アイケアを重視した「販売+サービス」の併営型というポジションを強く打ち出すようになります。ターゲットも低価格を求める若年層ではなく、高単価が狙えるシニア層を中心としました。こうした取り組みが奏功し、2014年11月の売上は前年の8.1%増となるなど、復活の兆しを見せるようになります。
メガネスーパーは2016年4月期、2017年4月期ともにおよそ1割の増収となり、着実な成果が実を結ぶようになります。2017年には複数のメガネ会社を買収するなど、拡大路線へと舵を切りました。
2019年に医療情報プラットフォームを提供するエムスリーと資本業務提携契約を締結。筆頭株主になります。
このあたりまでは順調でしたが、コロナ禍で客数の減少に悩まされたことに加え、2023年に不適切会計が発覚。不採算店舗に売上を付け替えるなどの疑いが出て第三者委員会を設置しました。星崎氏は社長を辞任します。
株主として残ったエムスリーも持株を売却
2023年10月に投資ファンド日本企業成長投資がTOBを行うと発表し、11月に成立。非上場化されました。2023年4月期のメガネスーパーを運営するビジョナリーホールディングスの売上高は270億円。この期に41店舗の退店を行っており、店舗数は300店舗になっていました。
買収したインターメスティックの発表によると、2025年4月末のビジョナリーホールディングスの店舗数は300。入れ替わりがあったとしても、店舗数そのものは変化していません。一方、売上は281億円であり、2023年4月期比で4.4%増加しています。そして、1%程度だった営業利益率は6.6%にまで高まりました。非上場化を経て収益力が高まっています。
ただし、インターメスティックの今期上期の営業利益率は15.4%であり、この買収は利益率を押し下げる要因となります。一方、高単価が狙えるシニア層をメインターゲットとし、商品力とサービス力が武器のメガネスーパーは、Zoffのポジショニングマップの空白地点を埋めるものであり、事業ポートフォリオを強化するという経営戦略上の意味は極めて大きなものと言えるでしょう。
今回の買収はTOBを行った日本企業成長投資の出口戦略という意味合いが大きいものですが、インターメスティックはエムスリーの持株も取得し、完全子会社化しています。他の事業会社の意向を受けずに、経営の舵取りを行うことができます。
日本のメガネ市場は頭打ち…
日本のメガネ市場は頭打ちとも言える状態。矢野経済研究所によると、2023年の国内アイウエア小売市場規模は前年比2.6%増の5048億円となっているものの、力強く伸びているのはサングラス。メガネのマーケットは停滞感が出ています。その業界で高い成長性を維持するためには、M&Aによる非連続な成長を求めるか、海外に活路を見出だすか、またはその両方かと選択肢は限られます。
再編の動きが活発化する?
JINSは海外展開を急ピッチで進めており、中国を中心として250店舗近くをすでに出店しています。一方、Zoffの海外事業は全てフランチャイズで店舗数はおよそ20店舗と、後れを取っていました。ただし、Zoffはサングラスが好調で今期は1割の増収、営業増益を予想しています。
そうした中で、メガネスーパーの買収に動きました。連結の売上高は500億円を超える規模になると予想できます。メガネ市場が停滞すれば、再編の動きが活発化するでしょう。
実はメガネスーパーを売却した日本企業成長投資はかつて金子眼鏡にも出資をし、2023年11月にJapan Eyewear Holdingsとして上場へと導いています。その株式の一部を継続的に保有しており、いずれ売却へと駒を進めるでしょう。どの会社が手にするのかにも注目です。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界