阪神タイガースは9月7日、2年ぶり7度目のセントラル・リーグ優勝を果たした。レギュラーシーズン後、日本シリーズの出場権をかけて上位3チームが戦うクライマックスシリーズ(CS)について、優勝チームと2位・3位チームに大きな成績差があることから、不要論も飛び出した。

ジャーナリストの森田浩之氏は、CS制度の根本について、アメリカ型とイギリス型のスポーツ文化の対立を軸に解説する(以下、森田氏による寄稿)。

阪神17ゲーム差の“史上最速優勝”で再燃するCS不要論。「米...の画像はこちら >>

5回に1回の割合で「下剋上」 が起きるCSはスリルか、理不尽か?

 9月7日、阪神がセ・リーグ優勝を「史上最速」で決めたとき、2位の巨人とは実に17ゲーム差。この圧倒的な差が、クライマックスシリーズ(CS)の不要論を改めて呼び起こした。2位以下が勝率5割未満で終わる可能性もあり、いわゆる「借金チーム」にまで日本シリーズ進出のチャンスが生まれる。果たしてそれは妥当なのか──。

 さまざまな意見が飛び交うなかで12日、当の阪神の藤川球児監督が「ファンが熱くなれるものをなくしてどうするんですか」と、CS不要論を一蹴した。これで議論はやや収束したようにも見えるが、制度の根本を考えるいい契機には違いない。大差でリーグ優勝したチームが日本シリーズに出場できない可能性と、ファンはどう折り合いをつけるべきなのか?

 CSが一定の成功を収めてきたことは確かだ。このシステムの最大の目的は、優勝チーム決定後の消化試合を減らし、観客動員につなげること。いまセ・リーグの2位争いにファンが熱くなれるのは、まさにCSのおかげだ。だがリーグ戦を制したチームがCSで敗れて日本シリーズ出場を逃せば、割り切れない思いを抱くファンは多いだろう。

アメリカ型のスリルとイギリス型の理不尽

 このジレンマの背景には、2つのスポーツ文化の対立が横たわっている。

 一つは「アメリカ型」。
レギュラーシーズンは予選、ポストシーズンが本番という考え方が定着しており、MLB、NFL、NBAなど、すべてプレーオフで最終王者を決める。シーズンの勝率1位チームが必ずしも王者にならないことに、アメリカのファンは大きな違和感を覚えない。

 シーズン通算成績を最重視するのは「イギリス型」だ。サッカーのプレミアリーグやカウンティ・クリケットなど歴史あるリーグでは「シーズンの勝ち点1位=優勝」という形が定着している。もしプレミアリーグでプレーオフ制が導入されたら、ファンのデモがイギリスを埋め尽くしても不思議はない(ただしプレミアシップ・ラグビーなど歴史の比較的浅いリーグは、プレーオフを採用している)。

「大差でリーグ優勝した阪神がCSで敗退するかもしれない」という状況は、アメリカ型のスポーツ文化では「当然のスリル」だが、イギリス型からすれば「理不尽」なのだ。

 ’07年のCS導入以来、リーグ優勝チームが勝ち抜けなかった回数は、セが4回、パが3回。両リーグ合わせて全体の約20%だから、5回に1回の確率で「下克上」が起きていることになる。

 この数字をスリルとみるか、理不尽と感じるか。CSはその両者のはざまで、今後も揺れ続けるに違いない。

阪神17ゲーム差の“史上最速優勝”で再燃するCS不要論。「米型のスリル」と「英型の理不尽」、野球ファンが求めるものは?
森田浩之
<文/森田浩之>

【森田浩之】
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。
著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など
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