チョコプラ炎上、謝罪動画にも批判の声
チョコレートプラネットは何に失敗したのでしょうか? この炎上が起きた本当の理由について考えます。9月10日に自身のYouTubeチャンネルにアップされた動画で「芸人とかアスリートとか、そういう人以外、SNSをやるなって。素人がなに発信してんだ」と発言した松尾駿に批判が集まっています。
大きな騒動となったため、二人は9月18日に謝罪動画をアップしました。バリカンで頭を丸めて反省の意を示したものの、これも“ふざけている”とか“笑いで逃げた”と火に油を注ぐ結果に。なかには“こんな素人が思いつく罰ゲームのようなことをして恥ずかしくないのか”という辛辣な声もありました。
状況を整理しましょう。
「素人はSNSやるな」発言の本当の問題点
プロの芸人のチョコレートプラネットが、視聴者を素人とみなした。そして、“あなた達とは住む世界が違って世間に与える影響力にも大きな差があるのだから素人にはSNSなどやる資格はない。そもそもやる意味ある?”というメッセージを発したと素人サイドは理解した。そのために、チョコプラが驕り高ぶっていることに無自覚であると糾弾された、という構図になります。確かに「SNSをやるなって」とか「素人がなに発信してんだ」は、明らかな失言です。政治にたとえるならば、“有権者はSNSで大臣や政策の批判をするな”と言っているのとほとんど同じですから、これがどんなに恐ろしい考え方かは言うまでもありません。
同時に、松尾駿はそこまで間違ったことも言っていません。プロと素人との間には決定的な差があることは事実です。
問題は、松尾がわざわざそれを言って、彼が完璧に下に見ている素人の土俵にわざわざ降りてきたことなのですね。
言葉では“たかが素人が”と強がりつつ、その一方でその存在を無視することができずにいる。プロの誇りがあるにもかかわらず、そのように心が揺れてしまうので、「素人がなに発信してんだ」と、本音が漏れてしまう。
チョコプラが犯した“最大の間違い”
では、表向きは格下であると断じているのに、なぜ素人の発信を気にしてしまうのか――‐。そこにあるのは、抑えきれない承認欲求です。これは芸能界のタレントに限った話ではありません。
かつて、批評家の浅田彰氏は、近頃の若手の思想家や書き手はSNSでの反応を気にしすぎだ、と指摘していました。著書や論文などを褒められたらすぐに飛びついて嬉しがるし、逆に批判されてもいちいちムキになって反論する。もっと超然としていなければいけないのに、ガキっぽい承認欲求を隠そうともしないことに呆れてしまう、という内容でした。
売れっ子芸人であるにもかかわらず、松尾駿が素人の“下界”に降りてきてしまったのも、結局は彼が見下しているはずの人たちからの承認を必要としていることの裏返しなのでしょう。そして、松尾自身がそれに対する自覚のないまま素人を格下に見たつもりでいることこそが、悲しく滑稽なのです。
つまり、彼らの意図したところとは違う形で、冷たく乾いた笑いが発生してしまったわけです。それはプロの芸人にとって、失言したこと以上の致命傷を負ったことを意味します。
チョコレートプラネットには、良い意味で素人を無視する覚悟と胆力に欠けていました。それが、最大の間違いなのです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4