『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは『病院食』。
孤独のファイナル弁当 vol.09 病院食を弁当にしよう!
実は今入院しています。と言ってもこの原稿がSPA!に載る頃は退院しているだろうけど。網膜剥離の手術でした。で、病院食ですね。おいしくないと評判の。味が薄いとみんな言う。
でもおいしいですよこの頃。まあ、自分の年齢もあるし、もともと味が濃いのと塩っぱいのはあまり好みじゃない。
50過ぎてから、ますます外食は基本ちょっと塩っぱいなぁ、油っこいなぁと感じる。
だから病院食のそこは全然ボク的には大丈夫。むしろ「なぁんだ、しっかり味付けしてるじゃん」と思うぐらいであります。
だけど、三度三度ベッドで病院食はさすがになんか、飽きる。
まあ、そうは言っても郷に入れば郷に従えなボクは毎食、その日のごはんの「攻略」を楽しんでたんです。
でも心の片隅にこの連載があるんですな。(突然「ですな」。オヤジ~)
で、その日の昼食がこの「銀カレイ照り焼き」の定食だったのを見た瞬間、おっコレは弁当にできるぞ!と嬉しくなったのだ。
皿の大きさに対する銀カレイの照り焼き本体の小ささ。このガラガラ感。しかも皿、四角い! こりゃあ弁当箱だ! 皿の柄もいいぞ。よしよし。
で副菜の旨煮と小松菜の胡麻和えを詰めると。うわ~、立派なお弁当じゃないか。
ここに梅干しか柴漬けがあると最高なんだが、それはさすがに病院では望めない。
ところがだよ、俺ぁなんか物足りないときのために、鯖節昆布ふりかけをこっそり自宅から持ってきたのさ、しーっ、声を立てるな、御禁制品だ。見つかりゃ首が飛ぶ。こいつを、しめしめ、白い飯にパラパラのパラリンコ。
うっわぁ! コレはまごうかたなき弁当だ。
いやそんで、おいしい。
そして楽しい。しかも味噌汁付きだ。言うことないね。銀カレイうまい。店で食ったら確かにもっと味濃いね。でも薄くはない。おいしい。この病院の調理の人の腕とセンスがいいのかもしれない。
かくして病院食の地味な一食がかくも胸膨らむ賑やかで楽しい弁当に変身したわけです。皆さんも入院した際はこうやって遊ぼう!
―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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