ドジャース救援陣崩壊による“逆転負け”の連鎖
日本時間22日のジャイアンツ戦は、先発したエメ・シーハンが7回無失点10奪三振の快投を見せたが、2番手としてマウンドに上がったブレーク・トライネンが打者7人に対して2つしかアウトを取れず炎上。チームはジャイアンツに逆転負けを喫した。トライネンがマウンドを降りる際には地元にもかかわらず、ドジャースタジアムのスタンドからブーイングが巻き起こった。それもそのはず、トライネンはこの日を含めた直近5試合の登板で合計8失点と投げては打たれ、投げては打たれの繰り返し。チームの足を引っ張る救援陣の代表的な一人になっている。
トライネン以外にもカービー・イエーツやタナー・スコットがサッパリの投球を続けており、ドジャースが逆転負けを喫した試合は数えきれないほどだ。いずれも過去に他チームでクローザーとして実績を残してきた投手たちだが、ドジャースの首脳陣も8回、9回にどの投手を投入すべきなのか、解決の糸口は見つかっていない。
佐々木朗希がマイナーで見せたリリーフ登板の安定感
そんな中、1年目の佐々木朗希が22日、マイナーで2度目の救援登板を果たした。佐々木は、昨季オフにポスティングシステムでロッテからドジャースへ移籍。シーズン前のMLB公式プロスペクト(有望株)ランキングでは堂々の1位に輝き、新人王候補との呼び声が上がっていた。
ところが、デビューから環境の違いに戸惑った部分もあったか、それとも実力なのか、制球難に苦しみ、5回を投げ切ることもままならない試合が続いた。自身7度目の登板で待望の初勝利を挙げたものの、直後の登板で右肩に違和感を発症。「インピンジメント症候群」と診断され、長期離脱を強いられた。
8月中旬にマイナーで復帰登板を果たして以降は、好投することもあれば、突如制球を乱して大量失点を喫することも——。
監督はダイヤモンドバックス戦前のメジャー復帰を示唆
そしてその2試合で、佐々木は2回を投げて無安打無失点。四球を1つ与えたが、3つの三振を奪うなど、リリーフ適性が皆無でないことを証明している。特に2度目のリリーフ登板となった22日の試合は、わずか8球で3人の打者を仕留める省エネ投球を披露。フォーシームの最速は97.9マイル(約157.6キロ)に留まったが、課題の制球には改善の兆しを見せており、首脳陣には絶好のアピールとなったはずだ。
そして、この日の登板を受けて、デーブ・ロバーツ監督は佐々木のメジャー昇格を示唆。「朗希は本当に良かった。いい投球だった」と、佐々木の投球を褒めたうえで、「彼はアリゾナに来て、我々に会うことになるだろう」と、24日から始まるダイヤモンドバックスとの3連戦を前にメジャー復帰させる考えを示した。
佐々木自身も救援に前向きな姿勢を見せており、引き続きメジャーでも結果を残すことができれば、ポストシーズンでドジャースの救世主となってもおかしくないだろう。
高校時代から温室育成され続けたキャリア背景
思い返せば、佐々木は高校時代から異常なほど大事に育てられてきた。大船渡高校3年時の岩手県予選決勝では、甲子園出場に王手をかけながら、登板を回避。将来を見据えた起用には賛否あったが、どちらかというと好意的な声の方が多かった。ロッテに入団後も1年目は体力づくりに専念し、二軍ですら登板せず。2年目以降も球数や登板間隔を制限しつつ大事に育てられてきた。
時に過保護すぎる球団の方針は“温室”とも揶揄されたが、すべてはメジャーリーグで花を開かせるための我慢だったのだろう。
ドジャース救援陣の窮地を救うことはできるのか
ところが、“温室育ち”の佐々木にとってメジャーの環境は酷すぎた。先述したように、初勝利を挙げた直後の試合で右肩を痛め負傷者リスト入り。新人王候補は大きく期待を裏切り、日米両方のファンから辛辣な声が飛び交った。そしてマイナーでも安定した投球を見せられず、このまま今季は終了かと思われたが、ドジャース救援陣の崩壊が佐々木に新たなチャンスを創出した形だ。
これまでの言動から、佐々木はあくまでも先発にこだわり、リリーフ転向を拒否してもおかしくないイメージがあった。ところが、救援に前向きな姿勢を見せているのは大きな変化、温室から脱出する第一歩といえるかもしれない。
これまで先発一本で、エースとして、スター街道を歩んできた佐々木。ドジャースの残り6試合でおそらく2回は登板の機会が与えられるはず。新たな立場で“期待外れ”と呼ばれた汚名を返上することができるのか。危機的状況に陥っているドジャース救援陣の窮地を救うべく、佐々木が描く大逆転のサクセスストーリーがまもなく幕を開ける。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。