夏が終わったと思ったら、9月の残暑が心を追い詰める。いま増えているのは“夏バテ”ではなく、心をむしばむ「残暑うつ」だ。
あなたの不調もメンタルが原因? 見落としがちなチェックポイントを徹底解説!

残暑があなたの自律神経を狂わせる

「五月病」や「冬季うつ」だけではない…夏にもメンタルの不調が...の画像はこちら >>
「ふざけるな! こっちは急いでいるんだよ!」

 9月中旬、都内。暦の上ではとうに“白露”を迎え秋の気配が深まるはずだが、気温は30℃を超える日々が続いていた。

 会社員の林剛史さん(仮名・48歳)は、外回りの途中に立ち寄ったコンビニで、レジに店員がいなかったことに声を荒らげた。自分が激高したことに驚き、ひどく落ち込み、涙すら浮かんだという。

「暑さで食欲もないし、寝つきも悪い。夏バテが悪化したのかと内科を受診しました。ところが医師からは心療内科を勧められたんです」

 林さんにはメンタル疾患の既往はなかった。「まさか自分が」と驚きを隠せなかった。

 だが、パークサイド日比谷クリニック院長で精神科医の立川秀樹氏は語る。

「五月病」や「冬季うつ」だけではない…夏にもメンタルの不調が起きやすいワケ。リストの7項目以上当てはまる人は要注意
精神科医・立川秀樹氏
「夏バテかと思いきや、実はメンタルの不調である『夏うつ』だった、そんなケースは少なくありません」

「五月病」や「冬季うつ」はよく知られているが、夏にうつの症状が出るのはなぜか。

「最大の要因は酷暑による強烈なストレスです。暑さそのものが体にダメージを与えるだけでなく、日頃から仕事のプレッシャーや家庭問題などを抱えている人ほど、そこに“酷暑の一撃”が加わり、うつ状態に陥りやすいのです」(立川氏)

インドなど暑い地域で多く報告される疾患

「五月病」や「冬季うつ」だけではない…夏にもメンタルの不調が起きやすいワケ。リストの7項目以上当てはまる人は要注意
精神科医・益田裕介氏
 また、うつ発症の背景には、自律神経の乱れがある。

「自律神経には、昼の活発な時間帯に優位となる『交感神経』と、夜などのリラックス時に優位となる『副交感神経』があります。ところが強いストレスが続くと昼夜問わず交感神経が優位な“過覚醒”状態に陥ってしまう。
頭が興奮して休まらず、緊張が続き、感覚も過敏になります。結果、脳疲労が起こり、うつ状態へとつながるのです」(同)

 だが、こうしたストレス要因がなくても、毎年夏にうつ症状が出る人もいる。早稲田メンタルクリニック院長の精神科医・益田裕介氏はこう指摘する。

「季節性情動障害(夏型)と呼ばれ、酷暑にさらされなくても、クーラーの効いた部屋で過ごしていても症状が出る人が一定数いる。インドやジャカルタなど熱帯地域で多いとの報告もあります。毎年夏に重い不調が出る人は、医療機関の受診を検討してみてください」

「夏うつ」の症状は気分の落ち込みだけではない。立川氏は次のように警鐘を鳴らす。

「夜も過覚醒が続くため睡眠の質が悪化し、眠れない・途中で目が覚める・長時間寝ても疲れが取れない、といった状態に陥ります。さらに胃腸の不調や口の渇き、微熱など自律神経由来の症状も多い。夏バテは体の疲労が中心ですが、夏うつは心身両方に不調が及ぶのが決定的な違いです」

 益田氏も行動面の変化に注意を促す。

「特に男性では、うつが怒りや攻撃性として表れるケースもあります。急にSNSで攻撃的になったり、駅員に怒鳴りつけてしまうなど、普段と違う言動が出たら要注意です」

 自分の症状は夏バテか、それとも夏うつか――。
記事末尾のセルフチェック表で確認してほしい。

中年のメンタルを追い込む気候変動

「五月病」や「冬季うつ」だけではない…夏にもメンタルの不調が起きやすいワケ。リストの7項目以上当てはまる人は要注意
気象予報士・森 朗氏
 これから気温が低下するから大丈夫? いや、むしろ残暑の9月もまだまだ危険だ。気象予報士の森朗氏は、次のように指摘する。

「’20年以降、毎年のように猛暑日数の記録が更新され、専門家すら予測できなかった事態になっています。特に厄介なのが残暑です。かつてはお盆を過ぎれば秋風が吹きましたが、今では9月でも酷暑が続く。昨年も猛暑日から一気に冬に転じ、“秋がない状態”となりました。今年も、10月に猛暑日がきてもおかしくない。また、日照時間は短くなるのに気温は高いまま。“暗くなっても暑い”というチグハグさが心身のストレスを増幅させています」

 特に近年の気候変動は、“中年世代にとってこそ危険”だという。

「若者は物心がついたときから猛暑を経験しているため順応していますが、中年以降は20年前と比較すると、違う土地に引っ越したレベルの変化にさらされている。一昔前の夏とは違うと心得、備える必要があります」

 むしろこれからの時期こそ夏うつならぬ「残暑うつ」に注意すべきだ。

あなたも病んでいる? 残暑うつセルフチェック

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[残暑うつ注意報]が発令中!
□眠りが浅く、途中で目が覚めてしまう
□長時間寝ても、朝起きると疲れが残る
□日中に強い眠気に襲われる
□食欲がなく、食べても胃がもたれる
□些細なことでイライラし、キレやすい
□気分がひどく落ち込み、晴れない
□胸が締めつけられるようにザワザワする
□口の中が渇きやすい
□微熱が続きやすい
□朝が特に調子が悪く、夕方に少し回復する


10項目中、7項目当てはまったら要注意!

【精神科医・立川秀樹氏】
パークサイド日比谷クリニック院長。
著書に『「こころの病気」から自分を守る処方せん』(毎日コミュニケーションズ)など

【精神科医・益田裕介氏】
早稲田メンタルクリニック院長。診療のかたわら、自身のYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」にて情報を発信

【気象予報士・森 朗氏】
ウェザーマップ代表取締役社長。数多くのテレビ・ラジオで天気解説を担当。著書に『異常気象はなぜ増えたのか』(祥伝社)など

取材・文/週刊SPA!編集部 イラスト/bambeam

―[[残暑うつ注意報]が発令中!]―
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