自民党総裁選が9月22日に告示され、5人の候補者が連日争いを繰り広げている。各報道によれば、小泉進次郎農水相が一歩リードしているように見えるが、はたして実際はどうなのか。
合計約80日の無駄な政治空白
ようやく、石破茂首相の退陣が確定した。実に無駄な政治空白だった。この後10月4日まで、自民党総裁選が続く。これも政治空白だ。これで合計80日。さらに、他の野党との連立交渉が始まるなら、さらなる政治空白。政策合意もせずに連立なら短期間でできようが、それでは困る。せめて自民党総裁選を、実のある選挙にしてもらわねばならない。
去年の選挙では「先が読めない」との声が多かったが、本欄では再三、読み方を教示してきた。今回も十分に応用できる。
派閥解消と言うが、それは表向きの話。「真の派閥」は生きている。
昨年の総裁選で敗れた5人の再出馬
前回は、小泉進次郎が大本命だった。国民的に人気が高く選挙に勝てる顔であり、菅元首相が後見人で党内支持も高い。実際、議員票は最多だった。及第点の振る舞いをしていれば小泉大本命で圧勝。勝ち馬に乗ろうとする議員の雪崩現象が起きて、何の面白みも無い選挙となるところだった。ところが、大失速。公開討論で自己の掲げる政策に答えられない局面も多かった。そして、石破茂対高市早苗の決戦に。麻生元首相は行きがかり上、高市氏を推した。しかし菅元首相は石破支持に切り替え、最後まで手の内を明かさなかった岸田元首相が、土壇場で石破支持。結果、石破首相の誕生となった。
その石破首相が退陣、昨年の総裁選で2位~6位だった5人が再出馬となる。
最大の焦点は「進次郎氏が、ボロを出さないか否か」
その中で大本命は、今回も小泉進次郎農相。今回の選挙は、「進次郎氏がボロを出さないか否か」が最大の焦点だ。進次郎氏、「スピーチはできても、ディベートができない」と言われる。それどころか、「聞かれた質問に答えられない御仁」とも。去年の総裁選でも、そういう場面が何度もあった。そして、党務には強いが、政策は怪しい。米対策も、備蓄米を放出しただけで、何の解決にもなっていないのを、上手くパフォーマンスでしのごうとしたが、参議院選挙前にメッキがはげた。たった一年で、その欠点が改善されるだろうか。
ボロが出なければ雪崩現象だが、出れば他の候補にも勝ち目がある。
期待値は高くとも子分がいない一匹狼・高市早苗氏
対抗馬は、高市早苗元経済安全保障担当大臣。「史上初の女性宰相!」で盛り上がっているというよりは、岩盤保守層が支持層。この二年の選挙で失い続けている保守票を呼び戻すための期待値が高い。ただ本人は、子分がいない一匹狼。
さらに麻生元首相は消費減税に反対で、実は政策が水と油。麻生元首相が「今度は進次郎でいい」と言ったとの噂が流れ、陣営が慌てて打ち消すが、火の無いところに煙は立たない。
安定感はあるが国民的人気が伸び悩む林芳正官房長官
安定感が最もあるが、国民的人気が伸び悩んでいるのが、林芳正官房長官。旧岸田派の出身で、岸田・石破二代の内閣で官房長官。外相など閣僚歴は豊富。しかし旧岸田派は、ベテランは林支持だが、若手は小泉支持に割れる。真の領袖の岸田元首相としても、「決選投票に残れば林でまとまろう」とは言えても、早々と旗幟を鮮明にしては、影響力を損ねかねない。また、自派から首相を出してしまうと、自分よりも力を持ちかねない。この理由で、田中角栄は十年も竹下登の出馬を許さなかった。だから竹下はクーデターで田中派を乗っ取り、総理総裁選を勝ち抜かざるを得なかった。
経歴は抜群だが不信を招いた茂木敏充元幹事長
一応は、自派を率いているのが茂木敏充元幹事長。茂木氏の経歴は抜群で、党幹部と主要閣僚のことごとくを経験している。この方、岸田内閣が刀折れ矢尽きるまで必死に支えていれば、後継は間違いなかった。しかし、政権末期から首相の意に添わぬ言動を繰り返して不信を招き、その結果が去年の総裁選で6位。麻生元首相の支持が頼りだが、高市氏の後塵を拝す。
旧茂木派幹部の加藤勝信財務大臣は、昨年は独自に出馬したが、今回は早くも小泉陣営の選対本部長に。
最も厳しい環境なのが、小林鷹之元経済安全保障大臣。50歳、当選5回の若手で、派閥横断的に若手の支持を集める。財務官僚出身で、政策通と評判。と言っても進次郎氏よりは年上で、支持層がかぶる。
安定度は「林>茂木>高市>小林>小泉」か
さて、経済、安全保障などで多くの議論がなされるだろうが、すべては実行力にかかっている。
「林首相」の場合、旧岸田派を中心に支援が広がったことになる。二代の長官時代、めぼしい失言をしない安定度である。現状に即し、増税も減税もしない、に落ち着くのでは。
「茂木首相」の場合、麻生派ともう一人の元首相が応援してくれることとなる。自身も少数ながら手勢を持つので安定するだろう。ただ、岸田内閣末期のような振る舞いで、政権を不安定化させる可能性もある。
「高市首相」は麻生元首相と保守層、他にもう一人の首相が政権基盤となる。しかし保守層がまとまったとして、敵も多い。「小型安倍」以上を求めては酷だろう。安倍元首相と違って、巨大派閥を持つ訳ではないので。
「小林首相」は若手だけの内閣とはいくまい。若手以外にも支持を広げねば。
「小泉首相」は本人の資質、仮に上手く当選できても、ボロを出さないで済むか。
現状に満足するか、いっそ焦土にして一から作り直すか。
これが本当の争点ではないか。
―[言論ストロングスタイル]―
【倉山 満】
憲政史研究家 1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本中世史』(扶桑社新書)が発売後即重版に