―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

持たざる者は日本を動かせるのか

高校在学中からトレーナーとしてのキャリアを歩み、ヘルスケアテック企業やスタートアップ支援の会社を次々に創業するなど、早くから「時代の風雲児」と評された連続起業家・溝口勇児。その後、格闘家・朝倉未来氏がCEOを務めるBreakingDownに参画し、新たな一大エンタメビジネスに育て上げた。そんな彼がYouTubeをはじめとするSNSを主戦場に新たな挑戦を試みる。
自己破産するほど貧しい家庭で育つも過酷な運命を自ら切り拓いた「持たざる者」が未来に描く野望とは?

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僕の一番の役割は、BDの興行を成功させること

 連続起業家として破竹の勢いでM&Aを仕掛け、1分間最強を決める(※1)BreakingDown(以下、BD)では、時に自らもリングに立つ……。SNSを武器にYouTubeでも快進撃を続けてきた風雲児はどこに向かって走っているのか。今回、7月にローンチした(※2)NoBorderの収録前にスタジオで直撃した。

――多忙で寝る間もないのでは。

溝口: 睡眠時間は短い日でも4時間は取っています。体力には自信があって、経営者に必要なものは何か?と問われたら、僕は真っ先に「体力」と答えているくらい。これは、堀江(貴文)さんも同じことを言っていました。

――経営者としての顔を持つ一方で、BDでは自らも出場し5戦5勝している。

溝口:BDは1分1Rなので、実は体力よりも気持ちのほうが重要になってくる。他の格闘家が競技を通じて積み上げてきたものを、僕は自分の人生や経営という仕事を介して培ってきたので、そう簡単には負けません。ただ、僕に与えられた一番の役割は、試合に勝つことよりも興行を成功させることですが。

「再起をかける人間に寄り添いたい」過酷な運命を自ら切り拓いてきた溝口勇児氏が未来に描く野望
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――BDは初期の頃、話題になるものの採算が取れなかった。一方で、溝口さんが経営に参画して以降は、公開オーディションを行うなど、人間ドラマの一面を可視化させたことでブレイクスルーのきっかけとなった。


溝口:コロナ禍で興行が大きく制約を受ける中、経営が傾いたRIZINの榊原信行さんから経営再建のお願いをされ、オンライン上で格闘技を視聴できるライブ配信プラットフォームを提案し、立ち上げたんです。海外と違い、国内でオリジナルのライブ配信プラットフォームをつくることは前例がなかったこともあり、経営陣の中でも賛否あったのですが、結果的にそれがビジネスとして成功した。かねてから親交のあった朝倉未来君や当時の経営陣に赤字が続くBDの経営について相談を受けたときも、RIZINの成功体験があったからこそ、力になれると思い経営に参画することに決めました。

――BDは、半グレさながらのイキった選手が大暴れする場面が大きく映し出される半面、社会から弾き出された行き場のない若者をどうにかしたい、という強いメッセージ性も感じる。

溝口:僕自身が貧しい母子家庭で育ちました。僕は母が19歳のときに「できちゃった」ことで生まれています。そこから僕が3歳のときに父が借金をつくって女性とともにいなくなった。そういった事情もあって、現代でもまれに見る貧乏な暮らしを2歳離れた妹と強いられることになったんです。

再起をかける人間に、手を差し伸べたい

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――過酷な幼少期については、’21年に出版した『持たざる者の逆襲 まだ何者でもない君へ』(幻冬舎)でも触れている。

溝口:その父とは僕が中学の頃に一度だけ会ったことがあるんですが、生活保護に頼って生き永らえ、最後は自死しています。同じ血を受け継いでいるはずなのに、何で彼と僕の人生はこれほどまでに違うのか。僕はたくさんの人との出会いやチャンスに恵まれた。だけど、彼はそうじゃなかった。
この差は何なのか?って。世の中には「持てる者」の家に生まれ何不自由なく育ったエリートもいれば、そうではない人もいる。社会は必ずしもフェアじゃないので仕方ないですが、じゃあ、その両方を知っている人間として、僕くらいは一度過ちを犯した人間に手を差し伸べる側に回ってもいいんじゃないかと思っています。もちろん、不幸な境遇に育ったからといって法を犯していいわけないし、彼らを安易に肯定するつもりもありません。ただ、再起をかけて真面目に生きようとしている人間がずっと許されない社会というのもバランスが悪い。だから、僕とか未来君ぐらいは寄り添ってあげてもいいよね、という気構えでBDは続けてきました。

――連続起業家としての出発点はヘルスケアテック企業(※3)FiNCテクノロジーズでした。何が起業のきっかけだったのか。

溝口:東日本大震災が大きかったですね。僕は高校時代からフィットネスクラブで働いてて、一生懸命目の前のお客様に向き合うにつれて、著名なアスリートや芸能人の方からも指名を受けるようになりました。次第に、フィットネス界隈では多くの人に知っていただけるようになり、業界の未来を自分に期待してくれる人もいたのですが、当時は起業する気なんてありませんでした。そんなとき震災が起きて、自分にも何かやれることがあるんじゃないかって考えるようになったんです。
なかでも、ソフトバンクGの孫正義会長が、ポケットマネーから100億円寄付したのは大きなインパクトがありました。

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――被災地には震災直後から、頻繁にボランティアで入っていたと聞いた。

溝口:現地で被災者の方たちの不遇な状況を目の当たりにしたことで募金活動を始めたのですが、SNSを通じて300万円程度集められました。

――SNSの威力を知った原体験ですね。

溝口:でも、孫さんはポケットマネーで100億円ですから、人としての器の差を初めて定量で突きつけられた。3333分の1で人生終わらせていいのか?って。そういった自分の不甲斐なさが起業に向かわせたのかもしれません。

――FiNCの躍進は多くのメディアに取り上げられた。だが、創業者で150億円もの資金を集めたにもかかわらず、後に会社を追われることになる。

溝口:当時は「お家騒動」と騒がれましたが、実際にはそこまで揉めたわけじゃないです。なるべく早くに上場したい経営陣と、世界で通用するヘルスケア・プラットフォームを作るために赤字覚悟で大きく投資していきたいと考える僕との間で溝が埋まらなかったことが直接の背景でした。それよりも、次に手がけた(※4)WEINのほうが大変で……。
僕のデスノートには、今も当時のナンバーツーの名前が深く刻まれていますから(笑)。

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――元サッカー日本代表の本田圭佑さんらと設立したスタートアップ支援のWEINを巡る騒動については、後に「クーデターだった」と述懐しています。

溝口:もともとある上場企業でクーデターを起こしていた人物を、僕は知らないままナンバーツーとして会社に招いてしまったのです。FiNCを離れた後、彼が僕に近づいてきて「あなたは孫正義を超える逸材だ!」とか「君がラーメン屋をやっても一生ついていく!!」とかこれでもかというくらい持ち上げてくれて……。結局、そこまで言ってくれるならと経営に参画してもらったんです。実際は裏で僕の悪口を言いまくっていたり、悪意の塊のような人間だったので大揉めに揉めました。

――YouTubeでは立て続けにヒットコンテンツを量産させている。驚くべきは、番組の細かな演出をこなしながら、自らもMCとしてコンテンツを盛り上げている点だ。人気の(※5)REAL VALUEに続き、7月にスタートしたNoBorderは「命をかけて真実の輪郭に迫る」と謳ったタブーなしの討論番組だが、安倍晋三元総理暗殺事件をはじめ、創価学会、ディープステートといった地上波のメディアでは取り上げにくいテーマや、時に陰謀論とされるような話題を扱うなど、かなり異質なコンテンツに映る。

既得権益と闘えば、当然、リスクも伴う

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溝口:昨今、ネット上でも陰謀論が囁かれることが多くなりました。僕はもともとそういったものには懐疑的だったのですが、歴史を振り返ると、地動説を唱えたら異端者として命を奪われる時代があったり、昔は運動が体に悪いと言われていたり、血圧は高いほうがいいと信じられていたり、一見胡散くさくて信じがたい話の中にも、いつか常識が覆るような真実が隠れているかもしれない。だからこそ、陰謀論を唱える人たちの声をきちんと聞くと同時に、彼らの話をすべて信じることもできない中、反対意見も含めて徹底的に議論できる場所としてNoBorderをつくろうと思いました。
そうした過程を通じて数多のフェイクの中に埋もれている真実の欠片を拾い上げ社会に訴えていきたいと考えています。結果的に真実に迫ったことで、既得権益と闘うことになれば、当然、大きなリスクも伴うことになりますが、そこは覚悟の上です。

――実際、配信開始後、チャンネルがBANされる騒動もあった。

溝口:それも想定内のことです。当時、自作自演と疑う人もいましたが、調べたらハッキングされた形跡もあったので何が事実かはわからないです。もちろん、同じことが起きないように調査は続けていますが、誰かが意図的に攻撃してきた可能性も否定できません。

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――9月からは(※6)NoBorderニュースも始まりました。これも野望の一つだったのか。

溝口:NoBorder本編では語り尽くせなかったことを、ジャーナリズムの視点で深堀りすることにも意味があると思ったので、新しいチャンネルをつくりました。例えば、創価学会を本編で扱った際は、オファーは双方にしたものの結果的に、創価学会に否定的な立場を取る出演者の声が通りやすい形となりました。今回のケースだとニュースのほうでは、学会員の方などに来ていただき、学会擁護派の主張も聞けたらと考えています。経営と同じで、正しい理解の先にしか正しい決断はできません。
異なる立場の意見をフェアに聞く姿勢は事業全体として大切にしたいと考えていますし、NoBorderニュースがその一助となれば嬉しいです。

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――連続起業家として、次はどんなプロジェクトを仕掛けるつもりか。8月11日、Xに「いつかは日本を動かせる男になりたい」と意味深な投稿もしている。

溝口:いつの時代も歴史が動くときは、権力を伴う暴力装置が社会を動かしてきました。例えば、昔だと戦争、今だと警察組織や司法などの力が社会の秩序を形成しています。現代においてそれに代わるものは何かといえば、僕はSNSだと思っています。昨今の選挙の動向を見てもわかるように、政治家でさえもSNSを無視できない時代になっています。今、社会を動かすのはSNSであり、その影響力を獲得することができれば、社会をよりよい方向に動かす確率を上げられる。僕には「日本はこうあったほうがいい」という仮説があるので、影響力を持ったときにはそこに向かって提言し、実際に形にしていきたい。今、僕がやっている事業はすべてそこに繋がっているんです。

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【Yuji Mizoguchi】
’12年にFiNCを創業、ヘルスケアアプリ累計1200万DLを達成。’22年にBACKSTAGEを設立。同年BreakingDown COOに就任。’24年、日本最速でYouTube登録者数1000万人を突破したヴァンビ氏と共に超実践型SNSスクールHERO’ZZを創業。’25年には堀江貴文氏・三崎優太氏と経営エンタメ番組REAL VALUEを、同年地上波タブーのニューメディアNoBorderを始動

(※1)BreakingDown
’21年3月に朝倉未来氏が設立した、「1分1ラウンド」で最強を決める新しい格闘技エンターテインメント。喧嘩自慢や元プロ格闘家が多数出場し、YouTubeで年間数十億再生を記録する人気コンテンツに成長。次回BD17は9月27日にアリーナ立川立飛で開催される

(※2)NoBorder
安倍晋三元総理の命日にあたる7月8日にローンチした社会派YouTube番組。これまでの出演者は鳩山由紀夫元総理、ジャーナリストの田原総一朗氏、ひろゆき氏ら。配信開始12日でBANされるも復活。登録者数32万人を突破した話題のメディア

(※3)FiNCテクノロジーズ
’12年創業のヘルスケアテック企業で、健康管理アプリ「FiNC」を軸にサブスクや法人向けの健康経営事業を展開

(※4)WEIN
’20年5月に溝口氏が元サッカー日本代表選手の本田圭佑氏らと設立したスタートアップ支援ファンド。21世紀の課題解決を掲げ最大20億円規模を目指したが、同年12月に西本博嗣氏によるクーデターが発生。内部崩壊する

(※5)REAL VALUE
’24年7月に実業家の堀江貴文・三崎優太両氏らと立ち上げた経営エンターテインメント番組。経営者コミュニティ「REAL VALUE CLUB」も展開

(※6)NoBorderニュース
NoBorder本編からスピンオフさせたジャーナリズム主体の報道番組。地上波では扱えない最新ニュースの裏側や本編では語り尽くせなかったテーマをアンカーマンのジャーナリスト・上杉隆氏が深く掘り下げる

取材・文/山﨑ハジメ 撮影/八尋研吾 協力/BACKSTAGE

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