中学のときは、下位10位以内だった
――桜蔭学園といえば誰もが知る超難関校ですが、勉強は昔から得意だったのでしょうか。にょみ:思い返すとそこまで大きな苦労はしなかったかもしれないですね。隠れてテレビを見たりして勉強に集中ができず、一時桜蔭の合格率が30~40%に低下してしまい、親から「志望校を変更したほうがいいのではないか」と心配されたことはあります。ただ、入学まではそこまで大きな挫折はなかったかもしれません。
――入学後のほうが大変でしたか?
にょみ:それはもう。桜蔭は、息をするように勉強しているような子たちが集まる学校です。それに対して私は、小学校のときからいろんなことに興味があって、殊に恋愛にはすごく前のめりでした。小説や少女漫画が好きだったからかもしれません。だから勉強に全集中するタイプではまったくなくて……特に中学のときは240人いる生徒のうち、下位10位以内だったと思いますね。
文化祭に遊びに行くのは「同じような偏差値帯の学校」
――恋愛に興味津々となると、超進学校のなかではひときわ目立つ存在なのではないでしょうか。にょみ:そうかもしれません。私の時代は、学校の垣根を超えて交流したい人たちが集まるグループLINEがあって。

にょみ:中高生なりに、同じような偏差値帯の学校に行くようにしていました(笑)。たとえば男子御三家とか国立とか、それに匹敵するような他県の学校とかですね。
医学部受験の決め手になった祖母の存在
――ぬかりありませんね。当時から外の世界に興味があるのでしょうか。にょみ:それはあるかもしれません。学内のコミュニティだけではなく、いろいろな人たちと交流したいと考えている点が、今にも通じているとは思います。
――現在でこそ事業を立ち上げたり、SNSに力を入れるなど、幅広い活躍しているにょみさんですが、そもそも医学部に進学しようと考えたのはどうしてでしょうか。
にょみ:受験勉強をする段になって、いろんなことをフラットに考えると、自分は人体に興味があることに気づいたんです。人体構造などを学問的に考えてみたいなと思ったのがきっかけだと思います。
またそれだけでなく、中2のときに亡くした祖母との思い出も無関係ではないでしょうね。
自身を欠陥人間と認識しつつ、負けず嫌いゆえ…

にょみ:源泉を辿れば、コンプレックスに行き着くのかもしれません。高校生のときの私は、自分に社会性がないように感じていたんです。特に桜蔭の子たちが真面目で優秀だったせいもあるかもしれませんが、それに比べて自分は言われたことがすぐにできず、理解力も低いと思っていました。正直、欠陥人間だと自分で自分に烙印を押して過ごした時期もあります。
ただ、そんななかでも、生来の負けず嫌いで、「できないことをできるようにしたい」という思いがあるんです。それで、大学入学後も、ビジネス系のサークルに出入りしたりしていました。
そういう試行錯誤を繰り返しながら、最近では「輝かしいところを輝かせられるようにしよう」と思える余裕がでてきました。
「医学以外の分野」を学んでみたかったから…

にょみ:自身が通う大学が単科大学だからということもあるとは思いますが、学生の全員が医学のみについて考えている、非常に同質性の高い空間だと思います。もちろん、専門性の高い職業ですから、プロフェッショナルを養成する場所として当然のことです。
ただ、欲をいえば、医学以外の分野を学べる授業がもっとあってもいいと思います。少なくとも私は、学びたかったなと感じます。将来医師になる人は、社会で生きるさまざまな人たちとわたり合う必要があるのに、世の中のことを深く知らずに卒業していくのはもったいない気がしてしまうんですよね。もっと多くの学問を学生時代に学べたら、医学の発展にも寄与するのではないかと個人的には考えているんです。
――にょみさんの今後の展望を教えてください。
にょみ:いま、せっかく医学を学ばせてもらっているので、医師免許を取得して、医療と社会の接合面となるようなスタートアップができたらいいなと思っています。医師は医学のプロフェッショナルですが、同時に社会の重要な構成員でもあるので、そうした人々の力をより社会に還元できるような仕組みを考えたいです。
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誤解を恐れずに言えば、にょみさんに若手起業家のキラキラした雰囲気はない。問いの答えの前提にあるのは、常に「どう社会的な存在であるか」だ。見た目や経歴の華やかさと裏腹に、泥臭く愚直で、律儀さを感じさせる応答をする。
外の世界をみようと背伸びし、世界を広げた中高生時代。日本に比肩する女子校がないといわれる桜蔭学園では、劣等生のポジションに甘んじた。だがその迂回がにょみさんの好奇心を育て、ひとりの女子医大生、ひいてはビジネスパーソンとして、大輪の花を咲かせようとしている。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki