スーパーで代金を払う前の刺身を食べ、YouTubeに投稿して逮捕されるなど、数々の問題行動を重ねてきた同氏。
一方、上記のような批判をよそに、へずま氏のXの投稿には何万ものいいねがつき、支持層が厚いことも伺える。
まさに“悪名は無名に勝る”を体現したへずま氏だが、いわゆる「炎上系YouTuber」と分類されるインフルエンサーらは、なぜ批判に晒されながらも信者を生み出すのか。そして意外と知られていない彼らの実態とはーー。
著書『炎上系ユーチューバー』(幻冬舎)を上梓した、ジャーナリストの肥沼和之氏が語る。
賛否を浴びれば浴びるほど肥えていく
盗撮や痴漢魔、転売ヤーに突撃して、現行犯で身柄を拘束し、警察に引き渡すまでの一部始終をアップする「私人逮捕系YouTuber」。犯罪者を懲らしめる社会正義を後ろ盾に、過激なコンテンツを発信して再生数を稼ぐ、炎上系YouTuberの一種として知られる。彼らが投稿した動画のコメントには、「犯罪抑止になる」「痴漢に遭ったことがあるので感謝してる」「悪人が制裁されてるの痛快」といった支持する声が確認できる。
一方で、容疑者と思われる人物を、逃げないよう羽交い締めにしたり、証拠確保のためスマホを奪おうとしたりと、一線を超えた介入に否定的な声も見られる。「暴行罪だろ」「ただの炎上商法」「見世物にしてるだけじゃん」といった指摘も多い。
こうして賛否が溢れながらも、いや賛否を浴びれば浴びるほど、私人逮捕系YouTuberは肥えていく。100万回を超えるコンテンツも散見されるなか、意外と彼らの素性は明かされていない。
「間違っているとは思わない」と主張するワケ
彼らは自身の活動についてどう感じているのか。当事者たちに取材した肥沼氏がその温度感を語る。「今回、本の執筆にあたり、痴漢撲滅系の『スーパードミネーター(2023年取材当時の活動名)』、マルチ商法組織などに突撃する『KENZO【新宿109】』、犯罪撲滅活動家を自称する『フナイム氏』、計3組の炎上系YouTuberに取材しました。
そこで3組ともに『今の過激な撮影方法は最適だと思うか』という質問をしました。わざわざ動画に収めて盗撮や痴漢魔を晒したり、流血するほどの暴行につながったりすることを考えると、もっと穏便なやり方があるのではないか。例えば、駅で『痴漢をしたら人生が終わる』とプラカードを持てば、大事ならず抑止も働くのではないかと尋ねたんです。
そしたら3組とも『今のやり方が間違っているとは思わない』と答えました。動画にして晒すほど強引にしないと、痴漢やマルチ商法は撲滅しない。また動画にして拡散することで、多くの視聴者が見て注意喚起や啓蒙につながるというのが彼らの主張です」
炎上系YouTuberは開き直っている
「もちろん彼らも、自分たちがグレーな活動をしていて、批判に晒されていることも重々承知です。それでも強引な手法がベストだと断言する。仮に暴行罪や名誉毀損で逮捕されたとしても、『その時は仕方ない』と腹を括っている。つまり、彼らは無敵の人というか、開き直っている節もあるんですよね。対して、日本人の風潮として『良いことは陰でそっと行う』のが美徳とされていると思うんです。そうした価値観が浸透している中、誰かに依頼されているわけでもないのに盗撮魔を捕まえたり、動画を回して再生回数や収益を追い求める姿に、嫌悪感を覚える人は多いのではないでしょうか。
つまり、批判する人たちと、私人逮捕系YouTuberらの溝は埋まらないのだろうと痛感しました」
過度な内容を発信すれば、広く拡散されて犯罪の周知や抑止になり、自身のチャンネルの再生回数や登録者数も増える。
月収は13~14万円…リスクのわりに稼げない?
著書『炎上系ユーチューバー』では、彼らの収入事情についても明かされている。前出のフナイム氏は、動画の収入に加え、週4回ほどの清掃や解体の現場仕事を行い、月収は13~14万円ほど。スーパードミネーターも生活費をなんとか捻出できるほどの状況だと明かされている。
リスクを犯し、批判に晒されるなか、私人逮捕系YouTuberの道を選ぶのはなぜか。肥沼氏は「自己実現のために、正攻法ではなくカウンターを選んだのでは」と考える。
「社会的に見れば、良い大学を出て大手に就職したり、起業して富を得たりするのが、一般的な成功や自己実現だと言われています。ただ、生まれ育った生い立ちや環境、一時の過ちなどが影響して、正攻法のルートを断たれた場合はどうすればいいのか。
その限られた手段が、SNSやインターネットを活用した『バズり』で、一気に知名度や影響力を上げることだと考えています。元不良がブレイキングダウンに出演して成り上がりを目指すように、私人逮捕系YouTuberもなりふり構わず一発逆転を狙っている。取材した当人の中には、将来『政治家になりたい』と明かす人もいました。
もちろん彼らのやり方は擁護できませんが、その反面で活動を続けている想いは共感できる側面もある。彼らに肩入れするつもりはないですが、私人逮捕系YouTuberが発生した社会背景を理解することは重要だと考えています」
バズることで得られる自己実現
内容が過激になり、その是非が問われるほど、支持者とアンチの分断は深まる。SNSやコメント欄での罵り合いに留まらず、炎上系YouTuberを支持した投稿を行うだけで、ネット上に個人情報が晒されたり、職場に殺害予告が届いたりした事例もある。無意識のうちに『ネット私刑』に巻き込まれる、あるいは自分が加担してしまう可能性も否めない。
炎上系や私人逮捕系YouTuberの是非はさておき、いち視聴者としては一定の距離を保つことが求められる。
「ネットリテラシーを持つために、大きく2つを理解しておくべきだと考えています。
1つ目は、人間は『他人の不幸は蜜の味』だと感じる生き物であること。著名人のスキャンダルや不祥事などゴシップ記事を閲覧したくなるように、人には野次馬根性が備わっています。私人逮捕系YouTuberの動画を見て、容疑者と思われる人物が制裁されるのに痛快さを感じているのも、彼らが支持される一因だと考えています。
2つ目は、『社会全体にアテンション・エコノミーが浸透している』こと。アテンション・エコノミーとは、人々の関心や注目を集めることを、経済的価値に置き換えた概念です。ネット上に膨大な情報が溢れる現代では、閲覧や拡散したくなるコンテンツの方が、金銭的価値になりやすく重宝されやすい。それは言い換えれば、質の高く信憑性のある情報より、有益でなくても人々の目を惹くコンテンツが優先されやすい土壌が出来上がりつつあるということです。
こうした状況下で、誹謗中傷やデマが飛び交ったり、あるいは炎上商法や印象操作を諮って発信を行う人や企業がいるのも事実です。
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今では、垢BANや逮捕された私人逮捕系YouTuberも続出して、波は下火になりつつある。
ただ、再生回数や知名度を狙って、似て非なるやり方で物議を醸す存在は出てくるはずだ。そうしたコンテンツに触れた際、ともすれば視聴者の反応ひとつひとつで、次の“無敵の人”が生まれる構造は、頭の片隅に留めておくべきだろう。
<取材・文/佐藤隼秀>
【佐藤隼秀】
1995年生まれ。大学卒業後、競馬会社の編集部に半年ほど勤め、その後フリーランスに。趣味は飲み歩き・散歩・読書・競馬