スーツにスニーカーを合わせる方が本当に増えました。ビジネスカジュアルの浸透によって、いわゆるビジカジシューズはもはや常識といってもいいでしょう。この流れはここ数年に限ったものではなく、ターニングポイントは、2011年、東日本大震災だったと思います。震災以降、歩いて帰れる靴の需要が増加し、当時、私は靴修理をしていたのですが、この日を境に革靴・パンプスの修理が一気に減り、革靴の需要はなくなっていくのだと実感したことをよく覚えています。
しかしスーツにスニーカーというのは、言うは易く行うは難し。単に歩きやすく快適なだけではなく、マナーの要素も入ってくるので、迷子になってしまう方が多いものです。そこで、①快適に歩ける、②マナー的にもOK、③ダサくないもの、の3条件を満たすビジカジシューズを紹介します。
革靴以上にすっきり。スーツに似合うパトリック「パンチ14」
ビジカジシューズ選びの最大のコツは、本体が天然革であることです。革質もピンキリがあるのですが、こちらは「ステア」と呼ばれる去勢された牛の革。肉厚でソフトでタフな革なので、キズやシミがついても革靴同様に磨けます。安い革や合皮というのは思いのほか悪目立ちするので注意が必要です。フォルムはへたな革靴よりすっきりしていて、上品の一言。ベースがテニスシューズなので、通常はアスファルトの上を前だけに進む動作には適していないのですが、パトリックのパンチは例外中の例外。ソールがきちんと曲がるべきところで曲がります。
革靴×スニーカーの頂点。なのに1万円台で手に入るコールハーン「ゼログランド プレーントゥ」

日本の革靴メーカーもビジカジを頑張ってはいるのですが、価格が2万~3万円とやや高めの割には歩き心地がそこまで良いわけではありません。コールハーンのこのモデルはABCマートとのコラボで、価格も1万4300円と良心的。
見た感じは完全にクラシックシューズです。なかでも面接や冠婚葬祭に最適な「プレーン」と呼ばれるデザインで、ややかしこまったシチュエーションでも大丈夫です。
そして、とにかく底がすごい! ナイキ時代に培った技術をさらにアップデートさせ、へたりづらくクッション性抜群の発泡スポンジ製。
歩くだけで足腰強化。見た目スマートなベアフットシューズ・スキナーズ「ムーンウォーカー」


快適だけど残念…サイドファスナー靴がビジカジに不向きな理由
靴としては優れているのですが、ビジカジとしてはふさわしくないものも紹介します。ものすごく良く見かけるのが、「合皮のサイドファスナー付きのウォーキングシューズ」。「仕事用なら黒で革っぽければいいんじゃない?」と思われがちですが、この手の靴をスーツに合わせると急に「足元の締まり」がなくなります。サイドファスナーが致命的で、便利ではあるのですが、開けっ放しで履いている方が本当に多い。快適とズボラは紙一重。飛行機や新幹線で靴を脱いでしまっている残念な中年はたいていこれです。ビジネスシーンにはやめておくのが無難。
「スーツスタイルにスニーカー」というだけで足元のハードルは意外に高くなります。革靴と同じくらいの予算をかけるのがひとつの目安です。靴ひとつでチャンスを逃さないように気を付けましょう。
【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。