―[貧困東大生・布施川天馬]―

 先週末から急激に気温が下がり、あれほど騒がしかった夏の熱気はウソのように、涼やかな風が吹き抜ける季節になりました。
 個人的には、朝出勤しただけで汗がダラダラになる夏よりも、凍えそうになりながら帰路に着く冬よりも、秋が一番好ましいと感じます。
少しずつ地球全体のボルテージが下がっていくようで、落ち着きを感じられるからです。

 読書の秋、食欲の秋などと言われますが、やはり教育関係者の私にとっては「追い込みの秋」。

「100万円以上支払う」可能性も。受験生の親が今から知ってお...の画像はこちら >>

親が考えておくべき“受かった後”の話

 受験生にとって、夏休みが終わってから冬までの9月~11月頃は、何よりも大切な時期です。

「夏は受験の天王山」といわれますが、張り切りすぎた結果、夏休み以降急激にやる気と成績が失速していく受験生も少なくないのです。

 親としては、見守るしかありません。叱咤しても激励しても、本当の悩みを取り除くことはできないからです。

 受験は自分自身の戦い。完走を信じて、ただ祈る。余計な口出しこそが、何よりも子どもたちの心を削ぎ取ります。

 それよりも、親はこの時期になればやるべきことがあります。

「受かるか否か」ではなく「受かったあと」の心配をかけさせてはいけません。実は、受験シーズンの2月から3月で、下手をすれば100万以上の出費があることをご存じでしたか?

 2月から考え始めたのでは間に合わない可能性もある。今回は「2月の勝者に待ち受ける思わぬ出費」についてお伝えします。


意外とかかる「合格後の費用」

 志望校に入学する条件は、実は「入試をパスすること」ではありません。

 合格点で得られるは、あくまで「入学資格」であり、入学自体は確定していないのです。大学に入るためには、各種手続きを終わらせなくてはいけません。

 そこで問題になるのが「入学金」です。これは学校によりまちまちですが、20万以上することもざら。

 例えば、私立大学の入学金は20万円が一般的ですが、国立大学の場合は28万2000円と定められています。ですが、私立中学校の場合には20万から30万、高いところでは40万を超すなど、突然の出費としては少々痛すぎる。

 さらに、入学金には納入期限があり、これを過ぎると、仮に試験をパスしていても入学資格が失われてしまいます。

 大学入試の場合には1~2週間程度の猶予が一般的ですが、中学受験の世界では長くても1週間程度、3~4日中も当たり前で、「合格発表日の当日のみ」なんて学校も。

 しかも、これをやって得られるのはあくまで「入学資格」だけであり、これとは別に初年度の授業料などを払わなくてはいけません。

 国立大学の場合には年間50万程度ですが、私立大学では倍の100万円以上が相場。半期分だけ納入するとしても、3月だけで70~80万が飛んでいます。

 じゃあ払わなければいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、このお金を払わないと滑り止めが得られないので、大抵の受験生は泣く泣く20~30万円をドブに捨てる覚悟で払い込みます。


 もちろん、「第一志望に受かったから、あなたの学校には入学しません!」と言っても、返してくれません。一度払い込まれた入学金はいかなる理由でも返還されないのです。

「余計に数十万円支払った」Aさん親子のケース

 だからこそ、こんなケースもあるといいます。中学受験で優秀な成績を修めたAさん親子。

 数日後には第一志望の受験日が迫っており、そのための準備も万端。とはいえ、都内有数の進学校である第一志望は別格で、Aさんの実力をもってしてなおチャレンジ校判定でした。

 受かるかどうかは五分五分で、できれば滑り止めを確保してから望みたい。

 そんな時、第三志望校の入学金振り込み期日が迫っていました。

 かなり安全圏を受験していましたから、試験自体は余裕で合格。その分、志望度も低く、第二志望か第一志望に受かったら、まずここには行かない。

 ですが、ここでAさんは悩みます。

 先日第二志望を受験した息子によれば「朝からお腹が痛くて試験に集中しきれなかった。正直落ちていても不思議ではない」というのです。
もしかしたら、第二志望に落ちているかもしれない。

 その場合、第三志望を確保しておかなければ、保険無しでチャレンジ校に突っ込む羽目になる。

 悩んだ結果、20万以上の入学料を払い込み、第三志望の合格を確定させました。

 続いて、第二志望校の合格発表が。結果はなんと合格。ですが、支払期日が第一志望受験日の手前であり、ここでも払うか否かの選択が必要に。

 第三志望には正直通いたくない子どもの意向もありつつ、通うかどうかもわからない第二志望に、また入学金を払うのか…。葛藤の末、第二志望校に数十万円を払い込みます。

 痛い出費ではありましたが、万全の準備を整えて、いざ第一志望との最終決戦へ。

 かなり難しい問題が出題されましたが、対策勉強の甲斐もあり、見事合格を勝ち取りました。喜び勇んで入学金や授業料を払い込むAさん。晴れて「二月の勝者」となりました。


 しかし、「数十万円も余計に払ってしまった」事実は変わりません。

受験はやっぱり課金ゲー

 その程度でごちゃごちゃいうような家庭は中学受験に参入していないでしょうが、この話を聞いた私の胸中にはどうしても「モヤモヤ」が残りました。

 目を凝らしてその「モヤモヤ」を覗き込んでみれば、大学受験生だった18歳当時のある日が見えてきました。

 1校当たり受験料に35,000円かかると聞いて、目を回す私の横で「じゃあ、○○大学の薬学部と、農学部と、△△大学の……」と「乱れうち」の算段を始めたかつてのクラスメート。

 両者ともに第一志望は不合格でした。ただ、私は一年浪人の末に東大へ進学しましたが、その方は某有名私立大学へ現役で進学しました。

「乱れうち」が功を奏して、ひとつ引っかかったのです。

 受験は課金ゲーです。それは、学力を育てる段階でも有利ですが、「お金があるほど受験機会や滑り止めを確保できる」からでもあります。

 最低限チャレンジできるだけのお金があっただけ、私の場合は幸運でしょう。本当の貧乏人には機会すら与えられない。

 天地はこんなに広いのに、貧乏な人間には、こんなにも狭い。


「勉強はぜいたく」とは言われますが、もう少し挑戦の機会が広がらないものか。歪さが解決される日は、いつかやってくるのでしょうか。

<文/布施川天馬>

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
編集部おすすめ