今回は、飲み歩きが趣味の男性がちょうど今の季節に体験したエピソードを紹介しよう。
行きつけの店から異臭が…
高橋昭仁さん(仮名・30歳)は、仕事帰りにふらりと立ち寄ったのが行きつけの店。そこは10人くらいで満席になる立ち飲み屋で、居合わせた客とママと会話に花を咲かせる小さな社交場だ。「扉を開けた瞬間から、異変に気づいて。鼻をつくニオイがブワッと漂ってきたんです。なんていうんでしょう、汗臭いとはまた違う体臭って感じで……吐き気を覚えました」
予期せぬ異臭の先制攻撃により、その場を後にする選択肢もよぎるが……ママに声をかけられてしまい、流れで入店したのだという。
「席についた時に気づきました。“発信源”は隣席の40代後半くらいのサラリーマンであると……。本当に最悪でした」
苦渋の表情を浮かべる高橋さんに対して、スマホをすっと差し出した店のママ。画面には「隣、ワキガ」の文字が。カウンター越しに目が合うと、ママが意味深に頷く。周囲を見渡してみると、ほかの客も一様に眉をひそめている。
遠回しに追い返そうと試みたが…
幸いにも、その日は常連が集まっていた。息の合ったチームワークがさえわたる。「体臭はデリケートな問題だからなかなか直接言えないじゃないですか。本人が気にしているかもしれないし、意図的に悪事を働いているわけでもないですし。でも、あまりにも耐えられないからその人に帰ってもらいたくて……。『今日はずっといるんですね。そろそろ次のお店にいかないんですか?』といった感じで、遠回しに追い返そうと試みたんです」
その場にいた皆が一丸となっていたにもかかわらず、当の本人は全く気づいていない様子。
「退店をそれとなく促す最中、タイミングが悪いことに2人組の若い女の子が店に入ってきたんです。やばいな、自分がこのニオイを放っていると思われたらどうしよう……と焦りましたね」
ガラガラの店内で首をかしげていた
高橋さんの心配をよそに、若い女性に対して気を良くしてしまった隣の席の男性。「あとから聞いた話によると、その男性はいつもは一、二杯で帰るらしいんですけど、その日は上機嫌だったのか、結局オープンからラストまでずっといたみたいです。むしろ周りの人が耐えられなくなって、追い返すどころか各々一杯で帰っていきましたね」
結果、耐えきれなくなった常連たちは次々とギブアップ。
「僕も限界がきて、最後は諦めて店を出ちゃいました(笑)。若い女性たちはというと、口数も少なく逃げるように去っていきました……」
周りの苦痛はつゆ知らず、本人だけがノー天気に「なんでみんな早く帰っちゃったんだろうね?」とガラガラの店内で首をかしげていたという。
「彼に配偶者や彼女がいたら指摘されていたと思うんです。
無自覚ゆえに悪気がなく、結果的に周囲を苦しめてしまう。それが余計にタチが悪いのだ。
「とはいえ、自分も独り身なので怖くなりましたよ。以来、ニオイには人一倍気をつけるようになりました」
体臭は誰にでも起こりうる自然現象。清潔にしていても体質や病気が関係する場合もあり、一概に「怠慢」と断じるのは難しいだろう。
だが飲食店という場では、特殊なニオイは死活問題だ。直接指摘しづらいからこそ解決策が見えにくく、非常に厄介な問題なのだ。
<TEXT/おせりさん>
【おせりさん】
下北沢に住む32歳。趣味はポーカーとサウナ、ホラー映画鑑賞。広告代理店・制作会社を経てフリーランスのブロガー兼ライターに。婚活ブログ『アラサー女の婚活談義』と生きることをテーマにした『IKIRU.』を運営中。体験談の執筆を得意としている。